バラ園のお茶会は嫉妬の嵐
中々涙が止まらなかったアメリーだったが、バラ園に着くと母上様ご自慢の美しく咲き誇るバラに驚いたのか、涙が止まってほっとする。
「とっても綺麗・・・」
自分の背丈よりも高いバラやアーチ型に組まれたバラのトンネル、色鮮やかな花々にうっとりしていた。
花が好きなアメリーなので、きっと気にいるだろうと思ったが、思った以上の反応だ。
「あら?こちらのバラ。見たことがありませんわ?!レン様こちらのバラはなんていうバラですか?」
「あぁ〜、なんて言うんだろうね?僕は全く花に興味がないから分からないや」
今まで花に興味を持たなかったことで、残念だけど教えてあげられない。
ちょっと悔しいと感じた。
そんな僕を見てクスクス笑う声がすると同時に、手を繋いでいたはずのアメリーがさっと持ち上げられ、僕の手をすり抜けていってしまう。
「そのバラはね『レディ・ユーフォ』僕が大切な人に送った彼女のために作らせたバラだよ。小さな可愛いお姫様はバラが好きかい?」
「はい。バラも好きです」
「バラ も ?」
「お花はみんな好きです。一生懸命咲いて私たちを幸せにしてくれるなんて凄いことですよね!それに、その一生懸命な姿がとっても綺麗だなんて素敵なことだと思います。でも?あなたは誰ですか?」
小首をコテンと傾げて自分を抱き上げる人をアメリーは不思議そうに見ていた。
僕からアメリーを奪い去ったのは、僕の父上様だった。
小さなアメリーを抱き上げている姿は大人の男の人で、なんだかとっても・・・
嫌だった。
ん?なんで嫌なんだろう?!
胸の奥がとってもざわついて落ち着かない。
ギュッと胸の辺りを握りしめる僕の様子を父上がチラッと横目で見て、優しく微笑んでいたことに僕は気づかなかった。
「はじめましてアルメリア。僕はファーレンの父で、君の母フェレノアの兄のジルベール。ほんとにフェリに似てとっても可愛いね!ダンが娘を溺愛する気持ちが分かるよ。僕も娘が欲しかったなぁ」
そう言うと可愛い!可愛い!とぎゅーぎゅー抱きしめるので、アメリーが苦しそうな表情をしている。
「父上!アメリーが困っています!!離してください!」
苦しそうなアメリーに慌てて父を止める。
でも、僕が止めたのは本当にアメリーが苦しそうだったからなのか、それとも父がアメリーを抱きしめているのが嫌だったのか・・・
「はいはい、もうしません。可愛いけど、我慢します(こんな小さなうちから独占欲を見せるとは。これは先が思いやられるね)」
僕の態度にため息を吐いた父上が内心呆れていたことなんて知る由もなかったが、父上からアメリーを救い出せてほっと息をつく。
しかし、
「ごめんね、苦しかったかい?!それと、これからよろしくね。未来の可愛い僕の娘」
父上はアメリーを地面に下ろすと、そのふっくらとした薔薇色の左頬にチュッとひとつキスをした。
「なっ!な、何をするのですか!父上!!」
ぐいっとアメリーの手を引っ張り父上から引き剥がし、左頬を自分の袖口で何度も拭く。
嫌だ、嫌だ。
すっごく嫌だ!!
まだ僕だって触れたことないのに!
僕のなのに、父上許さない!!!
冷静になれば凄いことを考えていたものだと、驚き恥ずかしくなってしまったかもしれないが、慌ててアメリーの頬を拭うことに集中していた僕には気づかなかった。
自分が父上に嫉妬していたなんて・・・
そんな僕の行動をお腹を抱えて笑う父上と、殿下をいじめないでくださいと言いながら、僕の後ろで苦笑するランバートだった。
「あらあらジルったら。アルメリアちゃんが可愛いのと、ファーレンの反応がとっても可愛いからって、そんなことをすると本当に息子に嫌われてしまいますわよ」
いつから僕たちの様子を見ていたのか、東屋から母上様が出て来る。
「ごめん、ごめん。ファーレン怒らないで。それに擦りすぎるとアルメリアちゃんの顔が真っ赤になってしまうよ」
笑いすぎて涙目の父上様を恨めしそうに睨みつけるが、確かに僕が擦りすぎてアメリーの頬が赤くなってしまった。
静かにされるがままのアメリーにごめんね、と謝りながら父上を再度睨みつけた。
「父上、もう絶対にしないでくださいね」
「できるだけ我慢します」
「父上!」
これ以降僕の反応を楽しみたいのか、それとも本当にアメリーのことを可愛く思っていたのか?分からないが、父上は僕の前でアメリーを可愛がることが多かった。
わざとしているんだ!と思うが、10歳を境に急に溺愛モードが無くなり普通に接するようになるのだが、それまで僕はヤキモチを焼きながらその様子を見守るのだった。
「陛下、妃殿下。はじめまして。アルメリア・カサヴァーノと申します。一応叔父様、叔母様にあたられると思うのですが、私はこれからどのように接していったらよろしいのでしょうか?」
「フェリはなんて言っていた?」
「陛下の御心にお任せすれば良いとのことでした」
あいつ面倒くさいことはすぐに押し付けるんだからと言いながらも、優しくアメリーを見つめて頭を撫でる。
「人前では王、王妃として。私たち家族だけの時は家族として話ができれば良いと思うのだが,小さな姫君はどう思うのかな?」
「私もその方が嬉しいです!」
「では、聡明な姫君。今はどのように振る舞ったらよいかな?」
「多分ランバート様は身内とされてもよいお方と思われますので、叔父様また抱っこして下さいね!」
にっこり笑ってのアメリーの爆弾発言に、流石の父上も一瞬ポカンとしてしまうが、みるみるうちに楽しそうな笑顔になる。
「アルメリアが望むならまた今度ね!」
「はい!叔父様の方がお父様より背が高いから、抱っこしてもらった時、いつもより背が高くなったみたいで楽しかったんです」
楽しそうに笑うアメリーにモヤモヤしている僕。
そんな僕を母上様が嬉しそうに微笑みながら見ていたが、アメリーの発言が気になって仕方がない僕には気づかなかった。
その後しばらくアメリーが城に来た時は、バラ園やサロンで楽しそうな小さな姫君の笑い声と不貞腐れた表情の小さな王子。
それを見つめて嬉しそうにそして楽しそうに笑う母上と、時間が合えば顔を出す父上という、ちょっぴりほんわかするような暖かな空間が出来上がるのだった。
ファーレンの父ジルベールは自分も知っている『ただ一人の絶対』を見つけた時に感じる思いや嫉妬、独占欲を息子にも感じてもらい早く気づかせようとしていますが、アルメリアがあまりにも可愛すぎて必要以上にかまってしまい、息子に嫌われそうですね。
愛しいユーフォニアとの間に娘が欲しかったのは本当です。
でもできなかったので、妹の娘を可愛がります。
背も高く2メートルくらいあり、ユーフォニアとは年の差婚で、小さなアルメリアが憧れるイケオジです。




