魔法の授業と黒ユリ様
魔法学は面白い。
他の学問は初めて聞くはずなのに、なんでか知っているように感じてしまい面白みにかける。
それに比べて魔法学は新しい発見などを感じることができるので、学ぶものの中で一番好きだ。
僕に講義をしてくれている魔法学者は、多分ルノア一の魔法士という肩書きを持っている。
かなりのお爺さんだが知識量が高く、話がとても面白く子どもでも分かりやすく教えてくれる。
初めて魔法学を学ぶアメリーも見るもの聞くもの全てが新鮮なのだろう。
本当に楽しそうだ。
目を輝かせて笑顔がキラキラしているように感じる。
「魔法は自然の力をお借りすることなんですね」
「そうでございます。自然の中には様々な力となるエネルギーが満ち溢れております。その力を精霊によるものと例え、精霊を崇める精霊信仰の国もあります。精霊信仰といえばイナジス王国が有名ですね」
うんうん、と頷きながらアメリーは食い入るように聞いている。
「ルノア国では、魔法は自然のエネルギーと考えられております。自然の力なので、魔法力は世界に満ち溢れているのですが、その魔法を操るためには各々の中に秘められた魔力がなければ扱うことができません。そして魔力は生まれた時から宿しているものなのです」
「では、私も魔力があったら魔法が使えるのですね」
「はい。その通りです。魔力が無い者はどんなに魔法が使いたくても残念ながら扱うことが出来ません。それにしても、マルメリア様は飲み込みが早くて教えがいがありますなぁ」
ニコニコと優しい微笑みを浮かべ話をしてくれる魔法学者は、アメリーが聞き上手ということもあってか、雄弁に語り魔法学の基礎中の基礎を全て話し切ってしまった。
僕は復習を兼ねて聞き役に徹したが、アメリーは学ぼうという意欲がとても強く、人に物を習う時の聞く姿勢が素晴らしくいい。
こんな生徒なら確かに話しても話し足りないと感じることだろう。
「もっともっとお伝えしたいことがあるのですが、今日はここまでにいたしましょう。アルメリア様、次回もお教えできることを楽しみにしております」
「まぁ!!またお話を聞かせてくださるのですか?!」
「はい。是非ともいらしてください。王妃殿下には私の方からもお願いしておきましょう」
「ありがとうございます!」
本当に嬉しそうにアメリーは笑っていたが、二人の話を聞いていて僕はガックリと肩を落とすしかなかった。
二人の意気投合ぶりを見ていたら、また次もとなるよなぁ、と。
それ以降アメリーが王城に来て学ぶようになったり、疲れて寝てしまうこともあったので、僕の部屋の隣にアメリーの部屋が用意されたしまうなど、着々とアメリーが城で暮らす手筈が整っていくのだが、その時はまだ幼い僕にはそこまで考えが及ばなかったが、アメリーとの関係がこれからも続くことは薄々感じられたのだった。
講義が終わったのでアメリーと一緒に魔法塔から母上様と約束しているバラ園の東屋に向かうことにする。
回廊を一緒に歩きながら、初めて王城に来たアメリーは周りをキョロキョロ見ていたが、歴代の王と王妃の肖像画が飾ってある回廊で、ある一枚の肖像画の前で足を止めた。
「この方は・・・」
それは父上様より5代前の国王夫妻で武闘王と言われたシーン王とその妃のユリ王妃の肖像画だった。
見上げるアメリーの瞳には懐かしさのような不思議な色が浮かんでいた。
「王妃様はとても美しい方ですね。そして何よりも綺麗な髪に瞳ですね・・・」
見上げるアメリーの頬を涙がいく筋も流れていたが、全く気づいていないようだった。
「アメリーなんで泣いてるの?」
「えっ?!・・・あれ?なんで??」
ポロポロ泣いているアメリー。
とても綺麗な涙だと感じるが、アメリーに泣いてほしくなくて、ポケットからハンカチを出すと流れる涙を拭う。
「泣かないで。何か悲しかった?ユリ王妃が何か気になった?」
「いいえ、なにも」
綺麗な王妃様ですねと言って、泣きながら笑っていた。
ユリ王妃は東国の出身のためルノアでは大変珍しい黒髪黒目で、通称黒ユリ様と言われていたそうだ。
ユリ王妃の何がアメリーに涙を流させたかわからなかったが、「私この肖像画好きです」と言っているので、アメリー自身にもなぜ泣いてしまったかは、わかっていないように感じた。
それからも城に来てこの回廊を通る時は、アメリーはこの肖像画の前に立ち懐かしむように見上げることがあった。
記憶を思い出してからは、僕にもなぜそんなにもアメリーがこの肖像画が気になるかの理由が朧げながらわかるような気がしたのだが、それはまだ先の話。
この時は泣き笑いするアメリーの右手をギュッと繋いでバラ園に行くしか出来なかった。
黒ユリ王妃は懐かしい日本人そっくりの風貌をしています。
ルノアではかなりレアな見た目ですが、実は東国でもここまで日本人な色と背格好の人はいません。
もしかしたら転移者だったのかも?
なんて思われる人が書きたかったのでした。
黒ユリ様の謎は謎のままです。
たくさんの方に読んでいただき大変恐縮しております。
訪れてくださった方の人数を見て恐れ慄いてしまい、我が目を疑ってしまいました。
次回はユーファニア王妃とのお茶会の話です。




