息子の変化(王妃視点)
私の息子はちっとも笑ってくれない。
それに、まだたった3年しか生きていないのに、なんだか人生を諦めたような雰囲気と、何をやっても楽しくなさそうで、それに気づいていない様子が見ていてとても悲しくなってくる。
私の育て方がいけなかったのかしら?
愛してるって全身で言葉でたくさん伝えているはずなのに、伝わっていなかったのかしら?
年子で弟が出来てしまったから、手をかけてあげられなくて擦れてしまったのかしら・・・
何をやっても平均以上に出来て、母国語のルノア語以外に東国語と大陸公用語も話せて読める3歳。
王太子としてはパーフェクトで申し分ない天才児なのだろう。
でも・・・
私は天才じゃなくていいから、息子には笑って楽しく生きてほしい。
大切な人ができれば、この子も変わるかもしれない。
私はルノア国の出じゃないから女神と光の神の神話を旦那様からしか聞いてないけど、本当にこの子の大切な子があの子なら、変われるかもしれない。
同じように力を持ち、天才肌の姪っ子なら。
1週間、カサヴァーノ家に滞在をしていたあの子が帰ってきた。
「母上様、ただいま戻りました」
「おかえりなさい。アルメリアちゃんとは仲良く出来ましたか?」
「えぇ、まあそれなりには・・・」
あら?
表情は相変わらずの鉄仮面だけど、少し動揺しているというか纏う気配が雰囲気が変わった気がする。
「まさか、ファーレン!あなたその怖い表情で、アルメリアちゃんを泣かせたりしていないでしょうね!!」
「な!そ、そのようなことは無かったというか、あったというか、泣かせたというか。でもわざとじゃなくて・・・」
すごい慌てぶり。
誰この子?!
何があっても表情は変わらず、表情筋がないのかと思っていた息子が見せる初めての顔。
焦っているところなんか見たことない。
言い淀んでいるところなんか考えられない。
いつでも冷静、無表情、無気力、無関心・・・
我が子ながら見た目は天使なのに可愛いとは程遠かった息子が、初めて凄く凄く可愛い表情を見せてくれた!!
やっぱり、アルメリアちゃんがあなたの『ただ一人の絶対』なのですね。
一度しか会えていない姪っ子に感謝しても仕切れない気持ちになる。
これはぜひ、二人が一緒の時の様子を見たいものだわ。
目の前で初めて見せてくれる息子の顔に涙が出そうなくらいの幸せを覚えながら、早々にアルメリアちゃんを城に呼ぶ手筈を考えるのだった。
少しずつ変わっていく息子に微笑ましく思っていたが、あの事故以降さらに人が変わってしまったのでは無いかと、違った意味で心配になるのだった。
表情は誰にでもやわらかくなり周りへの振る舞いも完璧。
適当にやっていた全てのことを全力で身につけ、あまり気乗りしていなかった武術にも真剣に取り組むようになった。
そして一番の変化は隠そうともしなくなったアルメリアちゃんへの溺愛っぷり。
「まぁ、自覚したんだろう」
と、私をただ一人の絶対と決めた旦那様が笑い、後ろから抱きしめてくれる。
そう感じた瞬間は自分にしか分からないというが、あれだけそばにいて男どもを牽制しまくっていたのに、無自覚だったとはと呆れている。
笑わなくて心配だった息子は、大切な女の子に出会ってその子のために変わろうとしている。
嬉しい!と思う反面、ちょっぴり寂しくも感じるのは母としてのエゴなのかもしれない。
でも、可愛い息子を変えてくれた未来の娘に、私は一生をかけて感謝していくのだった。
今回は王妃様、ファーレンの母視点です。
愛する旦那様との初めての子どもで王太子。
それはそれは可愛くて愛しくて仕方がなかったことでしょう。
それが子どもとは思えないくらい出来た子で、何を考えてるんだか分からないなんて、育児ストレスですよね。
年子のエリシオンが救いでもあり、比べてしまって自己嫌悪になっていたのをアルメリアが救ってくれました。
そのため一生アルメリアには頭が上がりません。
良き義母、良き王妃としてアルメリアを支えてくれることでしょう。




