分かることも分からないふりも時には必要
その後も穏やかに日々は過ぎていった。
毎日のように庭を散歩した。
東屋でランチをいただいたり、
お昼寝も・・・してしまった。
クッキーを初めて自分で作ってみたら、とってもおいしかった。
広い屋敷の中で探検ごっこというのもやってみた。
見たことない部屋にこっそり入ってみるのはドキドキして楽しかったが、地下室から出られなくなってしまい、いなくなった僕らを探してくれたノア兄様とランバートにとんでもなく怒られた。
これは、僕も悪かったと反省している。
図書室もよく行って2人でたくさん本を見て、好きな場所になった。
また、馬術をされる兄様たちを見学に行き、馬や小動物たちと触れ合ったりもした。
しかし夜だけは穏やかとは程遠く、毎夜一緒に寝るための攻防を繰り返すのだが、僕はほとほとアメリーには弱いらしい。
毎夜白旗を上げてしまう僕を未来の僕が見ていたら、惚れた弱みだな、と突っ込んでくれるのだろうが、その頃はまだ自覚がないだけに全く気づかず、敗北感だけが強く残っていた。
その最後の夜、僕はアメリーにあの話をすることにした。
「アメリー、寝る前にちょっと話をしたいんだ」
「はい、なんでしょう?」
ベットに上がって膝を突き合わせらように座って向き合う。
「あのね、アメリーの言語能力についてなんだけど?」
「言語能力?」
僕はわかりやすいように丁寧にアメリーに伝えた。
「ということは、普通のご令嬢達はルノア語しか分からないものなんですね・・・私変わっているんだ・・・」
悲しそうな表情に慌ててしまう。
「いや、変わっているのは僕も同じなんだ。僕もアメリーと同じように東国語と大陸公用語が分かるんだ」
「でも、レン様はお勉強したんでしょ?」
目に涙を溜め今にも溢れそうになって僕を見るアメリーに、今までにこんなに慌てたことはないと思うくらい焦って、なんとかアメリーが泣かないよう言葉をかける。
しかし僕の言葉ではアメリーの涙を止めることはできず、ポロポロ涙を流して泣き出してしまう。
ど、ど、どうしよう!!!
泣き続けるアメリーの横で、オロオロするしかできない僕を見かねたのだろう。
王家の影として僕のそばにいる7歳年上のジンがスッと現れて、アメリーを抱き上げあやすように背中をポンポンと叩く。
「ほら、姫様泣かないの。大丈夫。姫様はとっても可愛いし変わってなんかないよ」
ジンが急に現れて驚いたのだろう。
ビックリしたことで涙が止まったアメリーはジンをじっと見つめる。
「お兄様は誰?どこから来たの?ノア兄様と変わらないくらいかしら。とっても綺麗なお顔ですけど、初めてお会いしますよね」
「自分で名乗ると自覚無い嫉妬が怖いから殿下に聞いてね。でも覚えておいて。俺は殿下と姫様の味方だから」
アメリーの涙が止まってホッとする反面、なんだか胸の中がドス黒く渦巻いて、とても嫌な感じがする。
ジンは嫌いじゃ無いのに、アメリーを抱っこしているのが、なんでだか凄く嫌だった。
「さて、姫様の涙も止まったことだし、そろそろ離れないと俺の身が危ういのでね」
なんて言ってアメリーをベットに下ろし、またねと言って頭を撫でると、パッと居なくなってしまった。
「わっ!居なくなってしまったわ!レン様、あの方はどなたなのですか?」
「僕たち王家のものには一人以上、身を守るなどのために従者がついているんだ」
「ランバート様と同じ?」
「まぁ、同じかな。あいつはジンと言って、普段は見えないところから俺のことを守ってくれている。まだ10歳だけど、実力はかなりなものだよ。とは言っても、まだ僕の本当の影の弟子なんだけどね」
「う〜ん、難しくてよく分かりませんが、レン様のことを守ってくれるお兄様なんですね!」
「そういうことかな」
涙が止まったことで、アメリーも落ち着いて話ができるようになった。
言語能力については、僕とアメリーは同じであること、人前で言葉が分かる事を話してはいけないこと、隠す事など。
自分の身を守る上に大切なことだとしっかり伝える。
「分かりました。こっそり本は読むようにします」
お家ならいいのかしら?と小首を傾げているので、
「カサヴァーノ家では大丈夫だろう。でも来客の時は気をつけてね」
「分かりました!」
またレン様がいらした時に一緒に読みましょうね!と約束をした。
また僕が来る・・・
なんだか当たり前のことのように言われ、そうか・・・と自分に納得させた。




