フリージアの花言葉
あの後アメリーと庭でランチをいただき、食後に庭を散歩した。
自分で誘うような言葉を言ってしまった手前、断ることもできない。
アメリーは嬉しそうに庭に咲く花の名前や花言葉などを教えてくれるが、なぜ興味のない花の名前なんぞ聞かなければいけないんだ。
僕は知らんぷりを決め込む。
僕がわざと知らんぷりしていることに気づいているのだろうが、変わらず明るい声で話しかけてくれる。
「レン様!こちらに見せたい花があるんです。先日咲いたばかりで今が一番見頃なんですよ!」
アメリーは僕の左手をグイグイ引っ張り温室内に入っていく。
中にはかなり年老いた庭師が剪定をしていて、賑やかなアメリーの声に顔を上げた。
「これはこれは殿下とお嬢様。温室までようこそお越し下さいました」
「こんにちは、ドールマンお爺さん。殿下にあの花を見せたいんですが、よろしいですか?」
「もちろんでございます。いつでもいらしていただいてよろしいんですよ。それと、お嬢様。いつもお伝えしておりますが、私はただの庭師です。そのような言葉使いはおやめください」
「でもドールマンお爺さんは、私のお庭の先生ですもの。私は変えるつもりはありませんわ」
困った方ですね、と苦笑するドールマンお爺さんは、そう言いながらも嬉しそうに笑っていた。
「レン様、こちらです」
繋いだ手を引っ張りながら、フリージアの花壇の前に連れていく。
フリージアは特に変わった花ではないが?何を見せたいんだろう?
不思議に思うが、見てすぐに分かった。
このフリージアの花壇は色がたくさんあるんだ。
それに花びらが多くバラのように何枚も重なっているものもある。
「フリージアはこんなに色々な色があったのだろうか?それに形が僕の知っているものと違う」
僕の知っている赤やオレンジなどとは違い、紫や青など見たこともない色まで咲いている。
「交配などによって品種改良したものです。また水の質や発芽時の温度管理、肥料の配合などでも変わってくるので、まだまだ奥が深い花ですなぁ」
「ドールマンお爺さんの奥様が好きだったお花なんですよね」
「そうでございます。花を育てるしか脳のなかったワシに花を作る楽しさを教えてくれた、ワシには勿体無いくらいの女性でした。残念ながら、大好きな紫色が完成する前に儚く逝ってしまいましたがね」
紫のフリージアに手を添えると寂しそうに笑う。
「紫のフリージアの花言葉は『憧れ』。お爺さんにとって奥様はずっと憧れの方なのでしょうね」
「お嬢様お恥ずかしい限りです。ワシにとってあいつは人生の師であり生涯憧れ続ける人なのでしょうね。向こうでこの紫のフリージアを見せることが、今のワシの夢です」
では、お二人にはこちらを。
そう言ってアメリーには白を僕には黄色のフリージアを一輪ずつくれた。
「ドールマンお爺さんありがとう」
アメリーは眩しいくらい輝く笑顔でお礼言っていた。
僕はいつもと変わらない作り物の笑顔だったと思う。
でも、花を贈られることでこころの中がふんわりと暖かな気持ちになることを、初めて知ることができた。
僕もいつか、アメリーに花を贈りたい。
自分の考えに驚くが、ふんわりとした暖かさにそれも悪くないと思えるようになったことの方が、僕にとって驚きだった。
「レン様は黄色のフリージアですね。花言葉は『無邪気』ですが、ドールマンお爺さんは多分フリージア全般の花言葉の方で送られたのだと思います」
「フリージア全般の花言葉?」
「はい。フリージア全般の花言葉は『純潔』『信頼』そして、『友情』。私たち信頼し合える友情が育まれるといいですわね」
はにかむように笑うアメリー。
花言葉なんて興味なかったけど、花の一つ一つにそんな意味があるなんて不思議で面白い。
それ以降、アメリーの花や花言葉の話に少しだけ興味が持てるようになったのだった。
未来の花祭りで、ファーレンとアルメリアがフリージアの花束を作るのは、実はこんな小さい時の思い出があったからです。
フリージアはファーレンにとって初めて花に興味を持ち、大きくなってから頻繁にアルメリアに花を送るようになるきっかけとなった大切な花だったのです。
私は残念ながら花をくれるような人ではないのでもらえませんが、花をいただくって素敵ですよね。
白のフリージアの花言葉『あどけなさ』




