婚約
入学式典とその後のサロンのお茶会での記憶があやふやなのは、あまりの衝撃を受けたからだろう。
でもそれを全く表情には出さなかったと・・・言い切れるか心配だけど、普段の私を皆さんは知らないので、気づかれていないだろう。
「ごきげんよう」
笑顔で馬車に乗り込んだけど、胸中は大嵐が吹き荒れていた。
早く帰りたい。早く、早く・・・
「ウタ!ウタ!ウタはどこ?」
屋敷に戻った私は、ウタを探して屋敷内を小走りで走り回った。
今日は淑女も何もへったくれもない!と、鬼の形相をした私に「おかえりなさいませ」と廊下の端により頭を下げるメイドの皆さんも、驚いた表情だったことは見なかったことにしよう。
「ウタ!!」
「お嬢様、お帰りなさいませ。・・・って、どうなさったんですか!!?」
庭でバラに水を上げていたウタは私の形相に驚いて一歩下がったように感じたが、そんなこと言ってられない。
「私、レン様と婚約しているの!?」
「はい、そうでございますが・・・・いかがいたしましたか」
ガーーーーーン!!!
大きな石でも降ってきたかのような衝撃!・・・・・な、なんですって!!
「い、い、いつ、婚約をしたのでしょうか?」
「確かお嬢様がお生まれになられて、2歳になられる頃だったとお聞きしております。まだ私もこちらにお世話になっていなかったのでお詳しくは知りませんが、殿下からの申し込みだったと思います。あの、主人に詳しく聞いてみましょうか?」
「ぜひ!お願いします」
必死の私の表情に心配になったのだろう。
ウタは夫で執事を務めているマイヤーに詳しいことを知っていないか聞いてくれた。
マイヤーの話もウタが話していたようなものだった。
婚約は王家の方からの話で、歳も近くお母様の娘の私は家柄も何もかも、申し分ないとのこと。
しかしこの婚約は私の命を守るために、私が17歳の成人になるまで秘密にされる約束がされたそうで、知っているのは王家とカサヴァーノ家の身内のみ。
そして一番喜んでいたのは王太子のファーレン殿下だったという。
そして5歳までの私も、婚約を理解しとても喜んでいたそうだ。
あの事故の後の私に、全くそのような素ぶりがなくなったが王太子妃教育にまじめに取り組み、殿下が変わらない様子なので、婚約は続いていると思われていたそうだ。
マイヤーは当時執事長補佐をしていたので、知っていたそうだ。
「マイヤー、ありがとうございます。ウタもごめんなさい。後は私一人で出来ますので、呼ぶまで下がっていてもらって大丈夫です」
マイヤーとウタに下がってもらい、自室のテーブルに突っ伏してしまう。
私がレン様と婚約していた!
なんか私への対応が変だとは思っていたけど、まさか婚約していたとは。
でもゲーム内で私はただのモブキャラで、間違いなく攻略対象者の王太子の婚約者なのではなかったはず。
何が変わってしまったんだろう!
私の転生が話を変えてしまった?!
どうしよう、どうしよう・・・
ヒロインがこの夏にやってくるのに!!
私はどうしたらいいのだろうか。




