不思議な能力
城にある図書室ほどとはいえないが、それなりの蔵書に驚く。
さすが侯爵家と言ったところだろう。
「レン様は東国について、興味がおありですか?」
「それなりにね」
そういう僕にアメリーは私の好きな本です、と言って一冊の本を持ってきた。
東国の古い本で昔に使われていた道具や服装、街並みなど絵がたくさん描かれているものだった。
城では見たことがない本だったので、僕も興味を持って覗き込む。
たくさん絵があると言っても、絵本ではなく説明文もそれなりにある。
「これは昔の東国の暮らしを伝える本で、こちらは昔の建物で穀物を動物から守るために、床を上げて作られたものだということです。こちらは・・・」
一つ一つ丁寧に説明してくれるが、書いてある文字そのままを読んでいることに気づく。
暗記しているというより、読んでいるのである。
「ねぇ、アメリー。もしかして東国の字が読めるの?」
「はい。私なんでか東国の字や言葉がわかるんです。住んだことないのに不思議ですよね」
分からないものもあるんで、全部ではないんですけどと言って、恥ずかしそうに笑った。
その言葉に驚く。
僕だけじゃなかったんだ・・・
僕も学んでいないのにも関わらず、東国の字や言葉が分かるのだ。
そして大陸公用語については完璧に理解できた。
『今日はとても天気がいいので、あとでお庭に散歩に行き東屋でランチをいただきませんか?』
「はい!本当に天気がいいですものね。私も行きたいです。お昼用意してもらいますね!」
僕はわざと大陸公用語でアメリーに話しかけてみる。
すると返ってきた言葉はルノア語だったが、完璧な受け答えだったことで、アメリーも大陸公用語を理解していることが分かった。
どういうことだ?
普通は学ばないうちから他国の言葉を理解することは出来ない。
それに侯爵家の令嬢といえどもまだ3歳の女の子だ。
兄様方のように学ばれる機会も少なかったはずだ。
僕が東国語と大陸公用語を理解できたことに、城では驚かれ父上と母上、身近な信頼をおけるもの以外には知らされていないトップシークレット事項だ。
それなのに、僕以外にもいただなんて。
後で侯爵に聞いてみよう。
大変な事実に気づいていないアメリーは、楽しそうに東国の本を見ていた。
不思議な子。
僕の嘘に気付けて、僕と同じくらい言語能力が高く、素直で博識。
興味を引く対象として十分すぎるくらいだ。
カサヴァーノ侯爵家で過ごす6日間が楽しいものになりそうだと、初めて心から楽しいと思うことができ、それを認めることができたのだった。




