相反する思い
「レン様、怖い夢見なかったですか?!」
朝食の席で僕の様子を伺うように、アメリーがそっと聞いてきた。
「アメリーとくまちゃんのおかげかな!昨日は怖い夢を見ないでよく眠ることが出来たよ。ありがとう」
ニッコリいつもの笑顔で返すが、
「ウソっぽい笑顔はダメです。本当に昨日はよく眠れましたか?」
作り物の嘘の笑顔を見抜かれ、反対に心配をかけてしまうことになってしまう。
なんでアメリーには、僕の嘘が見抜かれてしまうんだろう?
「ごめんね。本当によく寝れたから嘘はついてないんだけど、そんなにウソっぽいかな?」
「はい。すっんごくウソっぽいです。レン様とっても綺麗なのに、そんなウソの笑顔では美しさが半減してしまいますよ。私は本当の笑顔が見たいです」
でも、寝れたなら良かったと言ってニッコリ笑う。
心からの笑顔。
綺麗な本当の笑顔を前に、その本当の笑顔が分からない僕は困惑するしかなかった。
どうしたらそんなふうに笑えるの?
大丈夫だと思ったアメリーだけど、やっぱり苦手かもしれないと、卑屈な僕は感じてしまう。
それよりもなによりもそんなふうに感じてしまう僕が、僕は一番嫌いだ。
朝食の時間が終わり、アメリーの兄様方は自室に戻られ、家庭教師の先生方と勉強や武術、乗馬などに励まれるのだ。
僕も城では同じように学んでいるが、この1週間は婚約者であるアメリーと探すことを最優先とされているため、特にすることがない。
さて、なにをさて過ごそうか?と考えていると、部屋の扉を叩く音がしアメリーがそっと顔を覗かせる。
「レン様、お城ほどとはいきませんが、我が家の図書室に行きませんか?」
本当によく笑う子だ。
でも、僕には眩しすぎる・・・
苦手と思う反面、その笑顔をずっと見ていたいと思う自分がいるのも事実で、相反する思いに戸惑いを感じる。
なんでそう思うのだろう?
その時は気づかなかった。
いや、分かっていたけど分かりたくなかったのだと思う。
とっくにアメリーに、リアに恋をしていたことに。
その時から僕は、この笑顔の可愛い婚約者のそばに居たいと思っていたことに。
アメリーの案内で図書室に向かいながら、迷子になったら大変なんて言って僕の左手をアメリーの右手がしっかり握ってくれていることがちょっぴり嬉しいだなんて、捻くれ者の僕は認めたくなかったのだろう。
そっぽを向いて無理やり引っ張られるように歩いていたのを、アメリーの乳母が見て優し眼差しで見守り微笑み、母上様たちに僕たちの様子を知らせていたなんて、全く知らなかった。




