夢と現実を繋ぐ金色の光
あぁ・・
これは夢だ。
あの人に会いたいと願う僕の思いを夢が叶えてくれている。
一緒に居たいと心から思った。
「おかえりなさい」と笑顔で迎えてくれると、心の中がポカポカと陽だまりにいるかと思うほど温かい気持ちになれた。
彼女の笑顔に癒され、もっと見ていたいと思った。
俺の隣で、俺だけに笑って欲しいと思っていた。
まだ手を握ることもできなかったけど、俺の前で嬉しそうに話をし、ご飯を美味しそうに食べているキミ。
幸せだった。
笑っているキミを見ているだけで、俺は心から幸せを感じていた。
どこにいても、キミのことを見つられる俺に仲間たちは、
「あの子のことが好きなんだな」
と言って揶揄ってくる。
その言葉に慌てる俺。
顔を赤くする俺。
ドキドキ高鳴る胸に締め付けられそうなほどの幸福感を感じている俺は・・・
誰?
そんな想いも感情も、今の僕は知らない。
俺は、僕?
僕が俺?
あなたに会いたい。
あの笑顔で笑いかけてもらいたい。
目が覚めると、忘れてしまう愛しい愛しいキミ。
たった1人、心から大切だった・・・り・・・ぁ
「・・・」
「・・・・・・で・・・」
「・・・でん・・・か・・・・・」
心配そうな声と優しく体を揺さぶる振動。
あれ?
僕は今どうしているんだろう。
「・・でんか・・・目を覚ましてください。ファーレン殿下!」
ゆっくり瞼を開けると、室内はオレンジ色の綺麗な夕日が差し込んでいた。
ぼーっとする頭で、目の前の人を見つめる。
心配そうに涙を溜めて僕を覗き込む、夕陽の光でより一層美しく輝く金色に染めた瞳の少女。
「アル、メリ、ア?」
僕の声にホッとした表情を見せる。
アルメリア嬢の隣で同じように僕を見つめていたカサヴァーノ侯爵と、僕の従者のランバートも心配そうな表情が優しげなものに変わる。
「殿下、何か怖い夢を見たのですか?!」
僕は夢を見ながらだいぶうなされていたようだ。
夢・・・
なんの夢か覚えていない。
でも、多分僕の会いたいあの人の夢だったのではないかと思う。
また、僕はあの人のことを覚えていることが出来なかった。
会いたくて仕方がない,あの人は一体誰なんだろう。
無表情ながらも多分ガッカリしたような表情をしていたのかもしれない。
僕を励ますようにアルメリアが驚きのことを言い出す。
「怖い夢なんて嫌ですわよね。お家にいる間は怖い夢を見ないようにアメリーが一緒に寝てあげますわ!」
「なっ!!」
侯爵令嬢にあるまじき言葉に驚いてしまうが、僕の反応にキョトンとしたアルメリアは隣の父親の顔を見上げる。
「だってアメリーが怖い夢を見た時、ノア兄様やカムロ兄様が一緒に寝て下さると、怖い夢なんて見ないで眠れるんです。お城に帰るまでの間だけは、一緒に寝てもいいですわよね?!」
さもあたりまえ!
と言いたげな表情のアルメリアに苦笑を見せるカサヴァーノ侯爵だが、
「そうだね。怖い夢は嫌だよね。アメリー、今は一緒に寝てもいいけどもっと大きくなったら一緒はダメだよ。殿下が困ってしまうからね」
分かりましたわと言いながらも、多分理由は分かっていないであろうアルメリア嬢。
まだ3歳の幼い僕たちであれば一緒に寝てもなんの問題はないが、あと5年が限界かな。
僕は王太子としての正しい振る舞いについて、生まれた時から言われ続けているので、本当の理由は知らないけどいけない事だとは知っている。
お気に入りのくまちゃんも連れてきますね、なんて微笑むアルメリア嬢に、心の中の奥の奥の方がほんのちょっとだけ温かくなったような気がした。
その間は僕はあの人のことを忘れ、目の前で笑う金の瞳の少女のことしか考えられなかったのだが、それに気付くのはずいぶん先のことになる。




