可愛げのない王太子
生まれてすぐの記憶はないけど、もう少しした頃まだはっきり自分の思いが伝えられない頃からの記憶が僕にはある。
母上様は僕をとっても大切にしてくれ可愛いとたくさん愛してくれる。
父上様も僕を見てよく笑ってたくさん抱きしめてくれる。
二人のことは大好きだ。
それなのに。
僕はどう笑ったらいいのかわからない。
ここは僕がいていい場所なのだろうか?
何かが違う。
ここじゃない所に僕はいたはずなのに、それにここにはあの人がいない。
あの人ってダレ?
分からない。
でも、あの人がいないと僕は笑えない。
なんで??
なんで、そんなふうに思ってしまうのだろう。
僕は自分の気持ちも分からず言葉も出ず、ただただ泣いて母上様を困らせてばかりだった。
後から思い返してみれば、まだ一歳の子どもにそんなことわからなくて当たり前なんだけど、僕は泣くしかできない自分が悔しかった。
そんな僕を見て母上様は寂しそうな表情で抱きしめ、
「ファーレン、ごめんね。母にはあなたが何をそんなに苦しんでいるのか分かってあげられない。あなたがお話しできるようになったら教えてくれるのかしら?」
頬擦りするように抱きしめ頬を寄せ、
「大好きよ、ファーレン。だから泣かないで・・・」
どうしよう、僕が泣くと大好きな母上様も泣かせてしまう。
悲しませるなら泣いてはダメだ。
でも笑いかたも分からない・・・
僕はどんな風に表情を作ったらいいのかわからなくなり、だんだんと無表情な感情の全く見られない子どもになっていった。
そしてあの人がいる所に戻りたい、ここは違う、僕の居場所はどこ?
反応も薄く可愛げのない王太子になっていった。
僕が3歳になる頃に僕の婚約が内々に決まった。
「ほらファー君、あなたのお嫁さんになってくれるアルメリアちゃん。可愛いでしょ!」
一人の女の子の姿絵を僕に見せなが、母上様が嬉しそうに微笑む。
目がぱっちりとした子で、瞳は金色、髪は銀と珍しい色彩の女の子だ。
可愛いとは思う、けどハッキリ言ってどうでもいい。
チラッと一瞥し頷き、今読んでいた絵本に視線を戻す。
そんな僕に母上様が寂しそうに眉を寄せていることに気づかなかったが、そんな表情を一掃するように明るく母上様が話を続ける。
「と言うことで、ファー君は今日から1週間カサヴァーノ侯爵邸にお泊まりしてアルメリアちゃんと親交を深めてきてください」
「はっ?!」
驚いて顔をあげ母上様を見てしまう。
目があったのが嬉しかったようでにっこり笑うと、仲良くしてきてねと言われてしまった。
「母上様、僕は行きたくないので行きません」
「えー、アルメリアちゃん可愛いでしょ。お話しもきっと楽しいよ!!」
「興味がありません」
「ファーレン殿下。これは王太子殿下に対して国王陛下からのご指示です。言っている意味が分かりますよね」
にっこりと力強く微笑まれるけど、それって脅しですよね。
はぁと、わざとらしくため息をついてこうべを垂れる。
「陛下からのご命令でしたら、承ります」
母上様がとっても寂しそうな悲しい微笑みで僕を見ていたなんて、その時の僕は全く知らなかった。
ファーレン視点のお話が始まりました。
記憶を思い出すまで、徹底的に可愛げがありません。
でも将来、溺愛、執着、ストーカー気質のヘタレの変態になるとは、この時誰も思っていなかったことでしょう。
そう考えたらかわいそうな王太子です。




