もう1組の育ての親
安心できる温もりに次第に意識が覚醒する。
大好きでずっとそばにいたいと心から思う、私が一番安心できる場所に無意識に擦り寄る。
「レン?」
小さく呟き、私に寄りかかるように眠っている愛しい人の名前をそっと呼ぶ。
あぁ、まつ毛長いなぁ。
目をつぶっていてもイケメンは絵になるなぁ。
などぼーっと考える。
それにしても珍しい、レンが本気寝してる。
うとうと程度なら私の覚醒と同時に起きただろうけど、まだ起きないとは、ぐっすり寝てしまったようだ。
お互い忙しかったもんね。
誰もいなかったはずの室内にくすくす笑う笑い声が響く。
レンを起こさないようにそっと視線だけ向けると、コウ様とフィー様が窓辺にいらした。
『ファーレンが起きてしまうから、アルメリアは楽にしていてね』
無言で小さく頷く。
お二人はそっと私たちのそばまで来てレンの頭を撫でた。
『ほんとに難儀な子ね。もう少し肩の力を抜けば生きやすいだろうに』
『思いは口にしないと相手に伝わらないのに、変に考えてばかりの頭でっかちで、堂々巡りを繰り返す。昔から変わらないね』
5歳の時からレンを見守ってきてくれた神様たちは、まるで我が子のように深い愛情をレンに向けている。
頭を撫でるコウ様の手が止まり、温かな魔力がレンに注がれているのを感じる。
疲れていたレンの表情が幾分穏やかに見えるのは気のせいではないと思う。
『勝手にやると怒るから、ファーレンには内緒ね』
片目を瞑りお茶目に笑うコウ様と、暖かく見守るフィー様。
またね、と二人は急に消えてしまう。
レンが勝手な神とよく言うが、神は気まぐれなものだ。
「ん、リア?」
私の肩に頭を預けていたレンが目をうつすら開けて私のことを見るとふわっと優しい笑顔を見せる。
まだ寝ぼけた表情だけど、両腕を伸ばして私を引っ張り自分の胸の中に抱え込むように抱きしめた。
「レン!ちゃんと起きて、寝ぼけてるよ」
抱きしめられるのは嬉しい。
けど寝ぼけているから腕の力は強いし、なんか聞いてはいけないことを耳元で囁かれるし・・・いくら中身が年増だとしても、うら若き乙女に聞かせる内容では無いから!
恥ずかしがる私に目を覚ましたレンが、ガバっと私を離して真っ赤になっている。
「ご、ご、こめん。今の聞いてた?忘れて!!」
焦るレンらしからぬ姿に、思わず笑ってしまう。
「ふふふ、完全無敵の王太子と言われているレンも普通の男の子だったんだなあってね。あっ、でもちゃんと忘れたから安心してね」
「絶対忘れる気ないだろう」
笑う私に真っ赤になったレンはプイッと横を向いてしまう。
そんなレンが可愛くてギュッと抱きつく。
騙されないからな、なんて言いながら腰に優しく手を回してくる。
しばらくそうしてからレンが呟くように聞いてきた。
「なぁ、あの人たち来てたでしょ」
「えっ?」
「神様たち」
うんと頷くと、やっぱり分かっちゃうのかなぁといって私の肩に頭をつける。
「俺が寂しいと感じた時や、自己嫌悪に陥っている時、泣きたい時や嬉しい時、誰かと笑いたい時がある時は、そばにいてくれたんだ。一人でいる時限定だけどね」
「愛されてるね」
「そうだな」
素直に受け入れてしまう自分にレンが驚いたような表情をしてふっと微笑む。
「そうか、俺は二人に愛されていたんだね」
神様たちは、忙しい陛下たちの代わりにそばにいてくれたことで、どれだけレンの心が救われたのだろう。
微笑むレンが私を見つめる。
「リア、これからは俺のそばにいて、一緒に笑っていてね。俺もリアがいて欲しいときそばにいるから」
「うん、約束だよ」
私たちは小指を絡めて約束をする。
王様王妃様は忙しいんだろうけど、これからはレンのそばには私がいる。
そして将来、私たちも忙しくなってしまうのかもしれないけど、出来るだけ大切な人のそばにいられる家族になろうね。
まだ見ぬ愛しい我が子が寂しくないよう。
「リア、愛してるよ」
レンの深く重い愛情を感じながら、
「私も愛してる」
と答え、キスをした。




