王妃様のお茶会
花祭り2日目は王妃様主催のお茶会に参加する。
今日の私の衣装は薄い緑を主に黄色のリボンなどをポイントに取り入れた、フワッとした可愛らしいドレス。
このカラーの組み合わせ多いなぁ。
いつもながら俺様カラーだと思うけど、今回は特に婚約発表してすぐということもあるのかな。
でも、一番落ち着く色なんだけどね。
長い髪は何本も編み込んだものをまた編み、リボンや生花を飾りつけ片側の肩から前に垂らしている。
可愛らしいドレスにピッタリな髪型だ。
私の支度ができる頃、今日は別行動のはずのレンが部屋に来る。
今日のレンも王太子の正装だ。
本当によく似合っている。
おはようと軽くキスを交わし、ドレスが崩れないようそっと優しく抱きしめてくる。
今朝はお互い予定が合わず忙しかったので朝食を一緒に食べられなかったので、顔を見に来てくれたのだろう。
「リア、すごく可愛い!!その髪型も似合っているね」
普段髪を下ろしていることが多いので首元が出ていることが珍しいのか、頸に唇を寄せるので思わず驚きの声をあげてしまう。
「殿下、お化粧が落ちますし着崩れますからそこまでです。それに外でジュローム様がお待ちですよ」
ミーナに言われ渋々腰に回されていた手が離される。
「こんな可愛いリアがもう見られないのは残念だから、俺が戻るまでこのままで待っててね。リアもお茶会頑張って」
「レンも頑張ってね」
にっこり微笑んで、レンは謁見会場に出かけて行く。
昨年自分の知識不足を自覚したレンは、今まで以上に国内について学び直していた。
今年はどのような思いを感じるのか、帰ってきて話してくれるのを楽しみにしよう。
その後少ししてから私も王妃様のお茶会の会場にむかう。
会場ではファーレン王太子殿下の婚約者として、王妃様に一番近い場所の席が用意されていた。
そうだよね、これからはここが私の定位置となるんだ。
王妃様からさりげなく私の紹介がされ、お茶会が始まった。
隣の席にはグリータリア皇国の昨年皇太子と婚約されたシリル様が座られた。
昨年まで皇族の姫君として、皇太子の妹としての立場だったシリル様は、本当は従姉妹だったのだという。
皇太子からの熱烈アプローチを受け婚約者になったというのは、隣国のルノアでも有名な話だ。
「シリル様、御婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます。アルメリア様もおめでとうございます」
「ありがとうございます」
お互い婚約を祝い微笑み合う。
とても可愛らしいこれぞお姫様という風貌で、おっとりとしたイメージの方だ。
グリータリア皇国はルノアより北にあるので酪農が盛んで牧場が多く乳製品などの加工技術が発展し、とても美味しいチーズがある。
そのチーズを使ったチーズケーキが絶品なのだ!!
また、牛の皮を使った革製品の工芸も発展していて、レンが以前視察に来た時に見たルノアには咲いていない北の国の花スノードロップを見せたかったと、国境近くの街ムサナーラにこっそり連れて行ってくれた時に見たことがある。
ミルクもとても美味しくて、今度は氷系の魔法を得意とする方を一緒に連れて行って、ぜひアイスを食べたいと思ったことを思い出した。
グリータリア皇国にはアイスはあるのだろうか?
シリル様に聞いてみると、ソフトクリームのようなものがあるという。
今度遊びに行っていいか聞くとぜひ!というお返事をいただく。
社交辞令かもしれないけど、今度絶対にグリータリア皇国に連れて行ってもらえるよう、レンにお願いしようと決めた。
フレイアとは席が遠かったので、残念ながら話す機会がなかったけど、祭りに一緒に行くのだからここでは接点がなくてもいいのかもしれない。
公爵家の奥様やお嬢様方など、少しずつお話をする機会が設けられたが、女子の世界は派閥があって怖そうだ。
でも、前世OL経験を活かしてがんばります!!
「皆さま、まだルノアの花祭りは続きます。明日は自慢の大庭園でのガーデンパーティーを予定しております。ご参加を楽しみにお待ちしておりますわね」
王妃様の声で、お茶会が終了した。
王妃様が退場されるのを見送り、私は他の皆様がお帰りになるのを最後まで見送ってから、部屋を後にした。
それにしても疲れた。
今すぐにでもドレスを脱いでしまいたかったけど、レンが待っててと言ってたから、待ってよう。
部屋に戻ってしまうとベットに横になって眠ってしまいそうなので、レンの執務室で待つことにする。
執務室のドアをノックすると中からジュローム様が顔を出す。
「アルメリア様?殿下はまだお戻りではないですが、いかがいたしましたか?」
「ジュローム様、レンが戻るまでこちらで待たせていただいてもかまいませんか?」
「大丈夫ですよ。お入りください」
扉を開けて中に招き入れてくれる。
中には他の従者の方もいらしたが、奥のソファに案内される。
ミーナがお茶の準備をしてきますと言って、部屋を出て行く。
ふと見ると従者の皆様が机の上の物を片付け始め、姫様ごゆっくりして行ってください、ありがとうございますなど口々に仰ってにこやかに退出される。
「私、皆さまのお邪魔をしてしまいましたか?」
私が出て行きます!と立ち上がるとジュローム様が笑って大丈夫ですよとのんびり言われ、座るよう勧められる。
「それどころか、みんなにありがたいと思われていますよ」
「?」
「殿下が仕事をされているのに自分達だけ花祭りを楽しむわけにいきませんからね」
「それでしたらジュローム様も、私がいてはメアリンと花祭りに行けませんわよね」
ごめんなさいとシュンとしてしまう。
「あぁ、それでしたら大丈夫ですよ。私は明日から花祭りが終わるまで登城しませんと、前々から殿下に伝えておりますから。僕がメアリを蔑ろにするわけないでしょ」
と当たり前のように言いきるジュローム様に笑ってしまう。
「それなら安心しました。レンが戻るまでお付き合いくださいね」
「喜んで」
ノックの音がしたのでジュローム様が扉を開けるとカトラリーを押したミーナが戻ってきた。
お茶の用意がされるとジンさんもどこからともなくやってきてのんびりお茶をみんなでいただく。
ジュローム様とジンさんがチェスを始め、ミーナとそれを見ていたがその穏やかな雰囲気に瞼が重くなり、気づく間もなく私は眠ってしまったようだ。
「お疲れのようですね」
ミーナがそっとブランケットをアルメリア様にかける。
「花祭りの式典にパーティー、婚約発表に王妃様主催のお茶会参加など毎日気の休まる時間がありませんでしたからね。穏やかな雰囲気に安心されたのだと思います」
ミーナが慈しむような眼差しで見つめていた。
さて殿下が戻ったら大変だなぁとのんびり思いながら、新しくミーナが淹れてくれた紅茶を飲む。
この様子を見守っている僕たちに嫉妬する殿下の顔が思い浮かび、軽いため息をつく僕と苦笑するミーナとジンだった。




