隣を譲る気はありません
ユウヤ殿下とフレイアとテラスで話をしてから、会場に戻ると私たちの周りには人だかりが出来てしまい、身動きが取れなくなってしまう。
「御婚約おめでとうございます」
「とてもお似合いでございます」
「本当にお美しい姫君でございますね」
「今日の式典では両殿下の神々しさに涙が出るほどでございました」
「両殿下はお噂通り神々様のお生まれ変わりなのでございますか?」
あちらこちらからのお祝いの言葉や式典でのことなどの質問攻めに目が回りそうになるが、レンが微笑みながら答えてくれるので、私は横でニコニコ笑っていた。
「式典でのことは、私たちの力ではございません。私たちの婚約への女神の祝福だったと考えております」
「まぁ。そうなんですね」
納得しているようないないような雰囲気を感じる。
納得はしてないよね。
それにレンの婚約者は自分の方が相応しいと私への敵意をあらわにする令嬢。
値踏みをするような視線。
やっぱりこう言う場は好きじゃないなぁ。
これからはこれを当たり前と感じこの人の隣に立っていかないといけないんだ。
でも自分で選んだことだし、レンを誰かにあげるつもりもないから、この場所を譲る気はない。
来るなら来い!と構えることにする。
「リア、疲れた?少し戻ろうか」
周りの人には見向きもせず、私に気を遣ってくれるレンはいつも優しい。
頷くと私をエスコートして、王族専用の休憩スペースに連れて行く。
中に入ると誰もいない。
陛下やエリシオン殿下はまだ戻られていないのかもしれない。
「ひゃあ!?!何?レン!!」
後ろから急に力一杯抱きしめられて驚く。
「やだなぁ。リアを見る男の目、潰してやろうかと思った。これからこれを我慢しなきゃいけないのなんて、辛すぎる。父上はよく我慢できるよな。これも覚悟の一つなのか?!」
レン?
ブツブツ言っているけど、内容を聞いているとそれって嫉妬?!だよね。
なんだ、同じなんだ。
急に笑いが込み上げてきてくすくす笑い出してしまう。
「何笑ってんだよ。人の気も知らないで」
「あははは。ごめんね。レンのこと笑っているんじゃなくて、ごめん、ちょっとまって」
笑いが止まらない私をむーっと拗ねた表情をしてから、私の笑いをキスで塞いでしまう。
うっ!苦しい!!
ドンドンと胸を叩いても唇は離れず、酸欠になる寸前で唇が離れた。
「笑うリアが悪い」
息も絶え絶えの私を抱きしめながら拗ねているレン。
息が整ってから、ごめんねと私もギューッと抱きしめ返す。
「ごめん、ごめん。レンのこと笑ったんじゃないの。レンも私と一緒なんだなぁと思ったら、嬉しくてなんだか笑っちゃったの」
レンがえ?という表情で私を見る。
本当は恥ずかしいけど、こんなに笑ってしまったので謝る気持ちも込めて話し出す。
「私も嫌だったの。周りのご令嬢たちがレンを見るのが。私のレンなのに、私の代わりになろうと考えるのも、そばにいようとするのも嫌で、レンの隣を譲る気はない!って、思ったの。そんな風に考える自分が嫌だなぁと思ったけど、レンもおんなじように思ってくれたのが嬉しいなぁって」
笑っちゃったんだ〜、なんて話す。
顔が赤くなっているだろうなと思うが、反応のないレンを見上げると、私よりも真っ赤になっているのではないかと思うほど、真っ赤になったレンがいた。
「レン、顔赤い」
ハッとしたレンが私の目を覆い、顔を隠してしまう。
「み、見ないで!リアが嫉妬してくれたのがこんなに嬉しいなんて!!思ってもみなくてどうしたらいいか、ちょっとテンパってるから。もう少し待って・・・」
完璧と言われるレンのこんな表情と振る舞い。
それは私しか見ることが出来ない、17歳の普通の男の子のファーレン・ルノアという人なのだろう。
落ち着け俺、なんて言ってるレンにまた笑いが込み上げる。
目を隠しているレンの手に手をのせて呟くようにいう。
「レン、大好きだよ」
「!!///不意打ちは狡いなぁ。まだしばらくこのままね」
目隠しはまだ続くようだ。
レンの顔が見られるまであと少し。
くすくす笑う私と、笑うな!と言っているレンも、一緒に笑っていた。
後日、エリシオン殿下が入室できずに困ったことを聞かされ、たくさん謝った。
でも、兄様とアルメリア様が幸せそうで嬉しいと素敵な笑顔で言ってもらえて、お義姉ちゃんは嬉しい!と泣いて、またまた困らせてしまうのだった。




