王印
用意されていた私たち用の馬車に乗ると、先客が乗って待っていた。
『おかえり、お疲れ様!』
ヒラヒラと手を振って笑って出迎えてくれるフィー様と、いつでも優しい微笑みのコウ様。
やはり神様の美貌は私なんか足元にも及ばず、スーパースペシャル級の美男美女の二人は本当に絵になる。
あ、レンもその部類に入る美しさを持っているから、私だけ仲間はずれか。
で、そのレンだけど、やっぱりいたか・・・と呟きため息をつき、私の隣に腰を下ろし神と向かい合って座る。
「全くやり過ぎですよ。力出し過ぎじゃぁないですか。おかげで陛下に睨まれてしまいましたよ」
『ふふふ、でも気持ちよかったでしょ』
「はい、確かに心地よい感覚で、気持ちよかったです!」
「リア、二人を喜ばせないの」
レンが疲れたように私の腰を引き寄せ、私の額にコツンと自分の額をつけて目を瞑る。
ヨシヨシと頭を撫でてあげるともっとしてと甘えてくる。
『私たちも思っていた以上に魔力が溢れてしまって驚いたよ。昨年まではアルメリアが覚醒していなかったから魔力を引き出さなかったから分からなかったけど、アルメリアの魔力は、私の魔力ととても近くて強い力だから波長が合いやすいようだ』
「波長ですか?!」
『そう。魔力がとても似ているんだよ。私たちは同じ癒しの魔力だけれど、人それぞれ持って生まれた魔力の質というのがあるんだ。簡単に言えば高位の魔力と低位の魔力とかね。アルメリアは私、花の女神とすごく近い魔力を持っている!最高に相性がいいんだよ」
『フィーと相性がいいっていうことは、ファーレンとも相性がいいんだね。私とファーレンの魔力もとても近いから』
『ってことは、アルメリアはコウとも相性がいいんだね!今回の継承者は出来が良いなぁ!素晴らしい!!』
喜ぶフィー様だが、レンの機嫌がすごく悪くなってきた。
「俺の魔力と相性がいいのは嬉しいし魔力供給しやすいからいいんですけど、コウ様の魔力と同調するのはご遠慮いただきたいものですね。リア、浮気は絶対に許さないからね」
レン、顔が怖いから。
それに神様と魔力を同調したからって、それを浮気とは言わないんじゃないのかしら?!
でもここで反論したら後が怖いので、うんうんと何度も頷いておくことにした。
そんな話をしているうちに王城に着き、私たちは着替えなどの支度を行いに自分の部屋に戻った。
部屋にはミーナと王城での私付きの侍女のトリニティとラーシアが待っていた。
「お嬢様おかえりなさいませ。まずはご入浴の準備ができておりますのでこちらへ」
「お風呂に入るんですか?!」
まずは汗を流しましょうとバラの花が浮かぶお風呂に連れて行かれ、隅々まで念入りに洗われバラの香りの香油を薄く塗られる。
花祭り中はいつも以上に花の香りが好まれるが、私はあまりキツイ香りを好まないため、優しい香りを薄ら香る程度が一番いい。
適度な香りを纏い、長い髪を前世にあったドライヤーのようなもの(こちらでは風の魔力持ちの方が作った優しい風が出てくるもの)を使って髪を乾かす。
脇髪を緩く編み込みしハーフアップにして髪を下ろした。
化粧は薄化粧とはいっても、普段より入念に行われた。
「これは、殿下からの贈り物でございます」
ミーナが持ってきたのは大きな箱に入った、銀のティアラと銀の首飾りとピアスだった。
細かい装飾がされ、中央には金色で縁取られ大きなエメラルドが埋め込まれ、そのまわりをそこそこの大きさのダイヤが飾られていた。
いったいいくらするんだろう・・・
聞くのが怖いくらいのものだということはわかる。
そしてラーシアが白地に金糸と銀糸で刺繍された細身の裾の方が広がった作りのドレスを手に持ってくる。
「こちらも殿下からの贈り物でございます」
お召し替えのお手伝いをさせていただきますと、トリニティとラーシアが着せてくれる。
腰が緩いですね、また痩せたのではないですか?丈はピッタリてす!など、話しながら着付けをしていく。
宝飾品をつけ最後にサッシュをつけ、鏡の前に立つ。
(えっ!このドレスって?!)
ミーナを見ると、にっこり微笑んで私の考えを肯定しているように感じる。
これは王族の女性が身につける正装で、ドレスにされている大きな刺繍は、レンの王印だ。
王族には一人一人に生まれた時に決められる王印という印がある。
姫様の場合は自分の王印が刺繍された物を、お嫁入りした奥様は旦那様となる王族の方の王印が刺繍された物を身につける。
レンの王印は王華のカサブランカを思わせる大輪の百合とそれを取り囲む月と雫がモチーフにされている。
でも、国内外の方が集まる大規模な舞踏会で、これを身につけて参加するということは、私の立ち位置って?!
ノックの音と入室を求めるレンの声がする。
私が入室の許可を告げ、ミーナが扉を開けるとそこには王太子の正装をしたレンがいたので、室内に招き入れる。
やっぱりカッコいい!!
美形って本当に得だよね!
その隣に立つ私は引き立て役にならないよう頑張ろう!
「リア、凄く綺麗だ!似合っているよ」
「ありがとう。ドレスとこの宝飾品を合わせた総額を考えると怖いけど、無くさないよう気をつけるね」
「大丈夫だよ、力抜いて。全てリアの物だから。それにドレスはこれから先いくらでも作ればいいけど、宝飾品は一生使うんだから、この国ではこれくらいは当たり前だよ」
確かにドレスも宝飾品も全てがレンをイメージさせるもので、大々的に『オレノモノ』と印をつけられたようでちょっと引くけど、そんな独占欲に慣れてしまっている私は、それさえ嬉しく感じている。
怖い、怖い。
「ねぇ、レン。今日の私はどうしたらいいの?」
「リアは俺の隣にいればいいんだよ」
「でも、これって・・・」
ドレスの裾を摘んで王印をレンに見せるように広げる。
そういうことなのかな?!と、小首をかしげる。
レンは凄く嬉しそうに笑うと、着崩れないよう気をつけながらそっと抱きしめてくれた。
「大丈夫!リアはとっても可愛いくて凄く綺麗だから、俺の隣で笑っていて」
レンがそう言ってくれるなら、レンの隣で頑張ろう!
じゃあ、行こうかとレンの差し出された左腕に自分の右手を添えて部屋を出た。




