父様への書簡
ノア兄様は私を最後に抱きしめてからゆっくり地面に降ろし、そっと耳打ちをしてきた。
「そろそろナイトが癇癪を起すといけないからね」
「え?」
ちょっぴりいたずらっ子のような笑みを浮かべながら、頬にキスを一つしてノア兄様は離れていった。
あ~・・・至福の時間は終わってしまった。
残念だけど私は物わかりのよい妹ですから、駄々をこねたりはしませんわ。
残念ですけど。
「ところでファー様は、我が家にどのようなご用件でお越し下さったのでしょう」
殿下に向き直ったノア兄様の表情からは、笑みが消えていた。
「父からカサヴァーノ公爵に書簡をお持ちした。本当は父の名代がお持ちするはずだったのだが、私がアメリーに会いに行くことをお伝えすると代わりに持って行くよう言われたのでな」
殿下は書簡を兄に見せる。
お兄様はそれを見て殿下とご一緒にお父様の執務室に行かれるようだ。
「では、僕のかわいいプリンセス。ファー様を父様のところに、ご案内してくるね。ウタ、アルメリアを部屋までよろしく」
「かしこまりました」
ウタが頭を下げる。
「アメリー、後で部屋に行くから、待っていてね」
今までの表情が急に変わり、笑顔の殿下が私を見つめてくる。
かわいい!!と思いながらも、なんだか顔が赤くなっているような気がするのはなぜ?!かしら?
頭を少し下げお二人を見送り、ウタと一緒に自室に戻ることにする。
レン様がお部屋にいらしたら何をしようかしら?
お出しするお茶とお菓子を思い浮かべ、人知れず笑みが浮かぶ。
そんな私はノア兄様とレン様のおかげで、先ほどまでの自分の不甲斐なさを反省して沈んでいた気持ちが浮上していることに全く気付くことはなかった。




