花冠と花の指輪のプロポーズ
また泣いてしまい私の瞼は腫れてしまった。
明日すごい顔になっていそうで怖いけど、帰りの馬車の中でレンが冷やしたタオルでそっと押さえてくれる。
少しでも引くといいんだけどなぁ、なんて言ってくれる。
「明後日なんだけど、天気も良さそうだしデートしない?!」
「デート?!ってこの世界でも言うのかな?」
そこか〜!と軽くツッコミを入れられたが、ここでも言いますと教えてくれた。
「でも忙しいでしょう?明後日は確か・・・」
予定を思い出そうとする私に、思い出さなくていいからと言われる。
「花祭りが終わったら、きっともっと忙しくなる。リアの周りも俺の周りも慌ただしくなってしまうから、お忍びも難しくなるかもしれない。だから今のうちにね。陛下には無理をお願いしておくから大丈夫」
なにか気になる。
けど、デートは行きたい!
目元を抑える手をどけて、レンの顔を見る。
いつも通り優しい笑顔。
何かあるんだろうなぁと思うけど、今聞いたって絶対に教えてくれないだろう。
だったら、
「デート行きたい」
前はこっそりお出かけしていた。
段々出来なくなっていくのは仕方がないと思っているけど、せっかくなら二人でお出かけしたい。
どこいくの?と聞いたら、明後日のお楽しみ!と言われた。
デート当日は快晴。
リアのお弁当が食べたい!と言われたので、サロン脇の小さなキッチンをお借りする。
材料は昨日ミーナが買ってきてくれた。
お買い物時間を考慮して、出かけるのを明後日にしたのかしらと思ってしまう。
そして内緒にしてきたあるものを使うことにする。
本当は花祭りのお祝いにと思っていたんだけど、今日使うのがいいかなと思ったのだ。
練習したから完璧!
前世おひとり様でお金がなくて自炊してきた私の腕を甘く見てもらっては困る。
ここで手に入るものでできる、懐かしのお弁当の完成だ!
せっかくなので一緒に来て影でこっそり見守るであろう二人の分もミーナに預ける。
「一緒に食べてね」と渡すと、ミーナがちょっとだけ嬉しそうな表情をした。
ジンさんとミーナが少しずつ仲良くなってきていることを嬉しいと感じる。
お弁当をバスケットに入れて、特別なお茶セットを用意して完成!!
約束の時間より早く終わってよかった。
ミーナに支度を手伝ってもらい、若草色のワンピースに黄色のサンダル、大きなつばの真っ白な帽子には緑のリボンが結んであった。
支度を終えて、いつもの王族区画専用の玄関ホールに降りると、まだレンは来ていなかった。
私が先なんて珍しい?!
ミーナに促されゆったりとしたソファでレンを待っていると、さほど待たないうちにレンが慌ててやってくる。
「ごめんね、遅れた!」
「大丈夫だよ、そんなに待ってないから」
本当は知っているんだ。
今日一日空けるために寝てないってことと、今日やらなければいけないことを全部済ませてきたこと。
お弁当作るのに早起きしたとき、こっそり王太子の政務室の前を通ってみたら中に人の気配を感じたし、ミーナに中を見てきてもらったら(どうやってかは秘密らしい)、レンがジュローム様と文官と難しい話をしていたことを教えてもらう。
また、ミーナが消えていた間はジンさんがそばにいてくれて、「あいつここ二日まともに寝てないからどこかで寝られそうなら寝かさせてやって、姫様の言うことなら素直に聞くだろうから」とこっそり教えてくれた。
本当は無理をして欲しくないんだけどなぁ・・・
こっそり頑張っているのだから、気づいてないことにしてあげようと今日はお小言を心にしまった。
慌ててきたレンはちょつと目の下にうっすら隈があるけど、それさえ憂いを帯びた色気に替えてしまっている。
色々な意味で人タラシなのではないかと思う今日この頃だ。
馬車でしばらく走る。
その間レンは私の隣に座り手を握って窓から見える景色の話や、花祭りの話をしてくれる。
でも疲れの気配を感じるのでこっそり握った手から少しでも癒されますようにと魔力を送る。
すぐに気づいていらないからと手を離そうとするのをギュッと握り、少しだけと目を閉じた。
じゃあちょっとだけねと、レンも瞳を閉じて私の癒しに身を委ねてくれた。
しばらく二人で目を閉じ寄り添っていると馬車が止まり目的地に着いたようだ。
レンに手を取られ馬車から外に出る。
眩しいくらいの陽の光と花々のいい香りがする。
「ここは?!」
随分前に来たことがある花畑の丘だった。
まだここが乙女ゲームの世界と気付く前、ただただ一緒にいるのが楽しかった頃。
「ねぇ、リア覚えてる?随分前に一緒に来たことあるんだけど」
「えぇ、覚えてるわ」
花畑の小道を登り丘の上の方に歩いていく。
優しい風が吹き、陽の光と花の香りに満ちた世界。
「わぁ!!綺麗!」
こちらの世界の白詰草は、少し大きな花を咲かせ白だけではなく色々な色の薄い上品な色があって綺麗なのだが、白やピンク、黄色などと緑のクローバーが織りなす、まるで絨毯のような圧巻の景色が目の前に広がる。
喜ぶ私をレンはその中に誘い、大きなショールを広げて私をそこに座らさせ隣に自分も座る。
ニコニコとレンも嬉しそうに笑っている。
「リア、花冠編んで!」
「いいわよ」
レンが白詰草を積んできてくれるのを私はどんどん編んでいく。
ふふふ、楽しい!
昔もこうやって花冠を作って、あの時はレンにかぶせてあげたんだっけ。
色とりどりの白詰草と所々にクローバーを入れた豪華な花冠が出来上がる。
出来たね!と言って、隣りに腰を下ろしたレンの頭に乗せてあげる。
昔も今も王子様にはよく似合う。
「本当に器用だよね!俺にはこういう細かいことは無理だなぁ。花冠は俺よりリアの方がよっぽど似合うと思うけど、今日のリアにはこっち」
と言って、私の左手を取り薬指に薄黄色の白詰草一輪と四つ葉のクローバーで作った、花の指輪をつけてくれた。
「レン、これって?!」
「捻くれ者の俺のそばでずっと笑っていてくれて、前世のことを思い出す前からアルメリアだけが大切な女の子でした。もちろん思い出してからはもっと大切になったけど、でも莉愛とは関係ない。俺は今のリアを愛している」
レンは、すっと白詰草の花の指輪がされた左手の薬指の中ほどに口づけを落とし、真っ直ぐ私を見つめる。
「俺と結婚してください」
風がフワッと私たちの横を通り過ぎていく。
驚いて言葉が出ない代わりに、涙がポロポロ流れ落ちる。
あれ?なんで泣いているんだろう?
胸がドキドキする。
あぁ、私すごく嬉しいんだ。
リア?とレンは返事を待っている。
「私ね、婚約してるからプロポーズはしてもらえないんだなぁって諦めてたの。一緒にいられることに変わりはないんだからって思ってた。でも、でもね、今すごく嬉しい。ありがとう。私も今のレンを愛してる。あなたと結婚したいです」
「ありがとう、リア」
優しく抱きしめ何度も「愛してる」と言って、たくさんキスをした。
「私も愛してる」と言葉にできない分、たくさんのキスに思いを込めた。
陛下が私たちの婚約を決めたり、レンが私のことを『ただ唯一の自分の絶対』と決めてしまったり、魂の共有をしてしまうなど、私たちはプロポーズを飛び越え、結婚に向かって進んでいた。
記憶が戻ってからはいつか現れるヒロインの影に怯え、心からレンと一緒にいることを楽しめず、レンにも辛い思いをさせていたと思う。
恋心を伝えられてからは、大好きな人と一緒にいられることが嬉しくてとても幸せだった。
だからそれでいいと思っていた、それ以上望んではいけないと思っていた。
でも、レンはちゃんと私に言葉をくれた。
ありがとう、レン。
心からの想いを伝えると、俺の方こそありがとうと言って私を腕の中に閉じ込めるように、優しく抱きしめてくれた。




