ミーナ・リンドル
私が魔力を使ったことは、大賢者様にもしっかり伝わったようで、ウタが出産するよりも前に我が家に飛んできたのは裏話としておきたい。
出迎える私が変わりなく元気な様子を見て、大賢者様は安心して玄関先で腰が抜けたように座り込んでしまい、反対に私の方が慌ててしまった。
どうも私が思っていたよりも大きな魔力の放出だったようで、確実に倒れていると思われていたようだ。
レンのネックレスの力を少し分けてもらったけど、自分的にはそこまで疲れていないので大賢者様の反応にこちらが驚いてしまう。
もちろんこの時遠い地でも慌てていた人がもう一人いたのだが、こちらは魂の共有により私の安全を感じられたとのことで、きちんと東国との合同視察を終えてから急いで帰ってきた。
約束を守らなかったことなどお小言を言われるが、理由を聞いてそれじゃあ仕方ないねと言ってくれたものの、しっかりお仕置きという名のキスを甘んじて受け入れたのだった。
これ以降私の魔力はとても安定し倒れることはなくなり、また大きな魔力を使うコツを掴むことができた。
ウタとウタの赤ちゃんアッシュのおかげだ。
私はあの後、レンが視察から帰って来るまでの10日間をのんびり自宅で過ごすことができた。
魔力の使い方を覚えたので、本当はもう王城で過ごす必要はないはずなのだけど、父様も母様も王城で過ごすよう話すので、私は視察から帰ったレンと一緒に王城に帰ることになった。
その前にウタに会いしばらくの別れを伝え、アッシュを抱かさせてもらう。
「元気で大きくなってね。また会える日を楽しみにしていますね」
「アッシュはお嬢様が大好きなんです。誰よりもよく笑いますもの。多分お嬢様に助けていただいたことが分かっているのだと思います」
「ウタも無理しないでね。あのねレンが教えてくれたんだけど、ウタは私のお姉ちゃんなんだって」
そんな恐れ多いと言うが、私の気持ちをしっかり伝える。
「私はウタが大好き。今までもこれからも」
アッシュをウタの腕に返し2人をギュッと抱きしめた。
花の女神のご加護がありますように・・・
見えないくらいの銀の魔力で二人を包むと、アッシュの小さな手が私の指を握って笑ってくれて、私も小さな天使からの祝福を受けたような気がした。
気心知れた私付きの侍女として、ウタが自分の技術を教えたミーナを王城に一緒に連れて行くことになった。
私より3歳年上だけど、とても落ち着いた雰囲気のナイスバディの美人さんだ。
私の身の回りのことや相談相手など、これからはウタの代わりをしてくれるという。
このミーナ、実はすごい人でカサヴァーノ家の諜報をしていたそうだが、怪我を機に諜報を引退。
潜入などで極めた侍女としてのスキルを活かし、昨年から侍女に転職したそうだ。
すごい動きや働きを求められるのは無理だけど、ちょっとした間者程度の撃退などはお手のものらしい。
王城ではウタより色々な意味で活躍してくれそうな方です。
「お嬢様、これからお仕えさせていただきます、ミーナ・リンドルと申します。未熟者ですがよろしくお願い致します」
「ミーナ、これからよろしくお願いします」
「で、お嬢様。先ほどからあそこでこちらを伺っている雇われ鼠は普段からいるものと思っていたらいいのでしょうか?」
ミーナが天井の一角を指差し言うが、雇われ鼠って・・・ジンさんのことですよね。
レンはブッと吹き出し口元を慌てて抑え、声を抑えて肩を震わせて笑っている。
「殿下、酷すぎ。俺『鼠』扱いですよ。いつも姫様守ってるのに。なのに笑うって・・・俺上司に恵まれてない」
するっと天井裏から降りてきたジンさんが、泣く真似をしながら姫様再雇用して〜と私の後ろから抱きついてくる。
あぁ、レンが怒っちゃうのになぁ。
でも多分わざとやっているからいいのかな?!
「お嬢様、私はこのような時どうすればよろしいのでしょうか?」
「あ、あれも二人の愛情表現と思いそのまま見守っていてください」
「愛情表現なんかじゃないからな」
リアに触るな!とレンはジンさんから私を引っ張って自分の腕の中に収めて睨み合う。
楽しそうですね〜とミーナが生暖かい目で見てくるが、私を巻き込まないで楽しんでいただきたいんですけどねと、わざと大きなため息をついて見せた。
影であり従者であり、良き相談相手の友達のような4人の関係は、この先何十年も続くことのなるのだ。




