私、寂しかったんだ
「え?今年も作るんですか?」
学園がお休みの日、王妃様とお母様と一緒に中庭前のサロンでお茶を頂いていると、花祭りの話題になる。
私たちの衣装について二人が盛り上がっているので、もう今年からお役御免なのでは?と聞いてみると、
「やだ、アルメリアちゃん何言っているのよ!今年はたった一度しかできない新成人枠の天使様!もちろんファーくんと一緒!もう衣装どれがいいか迷っちゃう!」
ハートが飛び出すかと思うほど、ルンルンの王妃様。
いやいや、やりたい人だっていると思うのですが、王族特権乱用しすぎでは?
でも、こんなにルンルンな王妃様を前に、たとえ相手が王様だって止められる人はいないと思う。
(陛下は王妃様にめちゃめちゃ甘いからね)
あはははと、私は笑いながらお母様が持ってきてくれた実家のシェフのチョコレートケーキを食べる。
あ~~~!!やっぱり美味しい〜!
今度は私の大好きないちごづくしを持ってきてもらおう!!
「今回は天使様だから色合いの指定があるのよ。基本が白にワンポイントで好きな色なんだけど、今回は金にしたいんだけどどうかしら?」
「王妃様にお任せ致します」
本当!いいの!!と嬉しそう。
レンのも決めていらっしゃるようですし、毎年素敵な衣装を考えてくださる王妃様には絶対の信頼があるのでお任せしたいが、次の言葉に紅茶を吹き出しそうになる。
「せっかく成人枠だから、今年の天使はお色気系?それともお姫様系?やっぱり小悪魔系かしら?」
「お色気って!?いや、どれも天使にはちょっと・・・清楚系でお願いします///」
えーつまらない!!と言っている王妃様をお母様がなんとか止めて下さったが、衣装ができるまでちょっと心配だ。
「ファーくんのは当日までお楽しみに!」
今回もレン忙しいですものね。
でも、今回は私がここに住んでいるから、衣装合わせの時間をレンに合わせられるので、一緒にできなくないと思うのですが?
私の考えが分かったのか王妃様がにっこり微笑む。
「二人とも見ない方が新鮮でいいでしょ!」
作りがいがある〜と本当に楽しそう。
「あとね、今回は神殿での祭典の後、アルメリアちゃんも王城のパーティーに参加してもらおうと思っているの」
新成人だから、今年から大人の仲間入りね!なんて言われたが、初めてのことで驚いてしまう。
私の参加はてっきり婚約発表をしてからだと思っていたのになぁ。
ドキドキしてきた。
衣装の方向性は譲らず清楚系でお願いし、細かい部分や形は王妃様がプランがあるようなのでお任せすることにし、来週ブランドの方と採寸などの打ち合わせをすることになった。
王城の大門までお母様をお見送りに行く。
「あなたが元気に暮らしているようで安心します。花祭りが終わったら、きちんと話さないといけないことがあるので、自宅に戻れるよう殿下にお伝えしておいてくださいね」
「王城ではダメなのですか?」
「ええ、時と場所が大事なんです。こちらから良き日を指定するので、その日にね。大丈夫。お兄様もその日だけは1日ファー様の予定を絶対に入れることはできないはずですから。何よりも優先されるべきことなので」
「はい・・・」
なんだか難しそうなことのようだ。
昔からお母様には色々変わったことを教えて頂き、それが何を示しているかこの頃嫌な予感として感じるようになってきた。
思っている通りだったら、気が重いな~
おかしいな?!
ゲーム内では名もなきただのモブのはずだったのに、私とレンの転生で話が変わってしまいゲームとしての機能はもう機能しなくなったのだろう。
思ってもいないことにヒロインポジションになってしまったり、何だか魔力に目覚めてしまったり、この先レンと結婚してゆくゆくは王妃になるだろう。
そしてレンが光の神の魔力の持ち主なら私の魔力はたぶん・・・
うわ~~~~責任重すぎ。
ドオンと何か肩に重荷を感じてしまい、このまま部屋に戻る気になれず、かといってどこに行くにも城の侍女が必ずついてくるし、一人になりたいな~
(あ!そうだ!!)
中庭の東屋に行き、侍女にレンに「中庭の中にいますので、後で迎えに来てください」って伝えるよう言い、そのまま下がるよう話す。
初めは渋っていたが、王城内の中庭にいるし殿下が分かっているのだから大丈夫でしょ、となんとか説き伏せ一人になることが出来た。
さて、行くか!
あれから行ってなかったけど、確かこのあたり・・・あった!!
バラの茂みの一角から中に入り、私は以前レンときた迷子の庭の秘密の庭にやってきた。
ここはいいな~
いい風が吹いているし、日差しも心地いい。
「ん~~~~ん!」
伸びをして心地よい風にあたり目を瞑る。
誰の目もない(一人どこかで見てると思うけど)ところで、のんびりって大切だなと感じる。
自分の立場、役目など課せられたものの重さに、前世では考えられないことばかりだ。
レンの努力をずっとそばで見てきだから知っているけど、人の上に立つって大変だね。
あんな努力家の隣に立って、同じようにできるのかな?!
「ねぇ、ウタ私さ・・・ぁ、何言ってんだろ」
私のちょっと後ろにいつもいたウタ。
まだウタがいないことに慣れなくて、相談や思ったことをついつい声に出して言ってしまうことがある。
いないことに慣れなきゃなぁ・・・
ゴロン!と芝生に寝転がり目を閉じた。
大丈夫、大丈夫、ウタがいなくても大丈夫。
気持ちのよい風や光を感じでいるのになんだか心が寒くて寝転がったまま膝を抱える。
そのうちに、そのまま寝てしまったのだった。
ちょっと肌寒さを感じ、そばにあるぬくもりにすり寄ると、優しい腕が抱き締めてくれる。
その腕が心地いい、気持ちいい・・・とても安心する。
『少し寒くなってきたね。そろそろ起きたほうがいいよ』
ん〜まだ眠いとぬくもりに擦り寄る。
くすくす笑う声と『そろそろ起きないとキスするよ』と言われたような気がしたら、頬やおでこ、鼻先など顔中優しく触れてくる、よく知っている触れ合い。
『まだ起きないの。もっとイタズラしちゃうけどいい?!』
うんいいよ・・・と思っていると唇に柔らかいものが触れる。
初めはそっと触れる程度に啄むような触れ合いから角度を変え触れ合いが増えていくとともに息苦しさを感じらようになり・・・
パチン!!
と音がしそうなほど急に瞳が開き意識が覚醒する。
すると目の前には長いまつ毛に私の大好きな翠を隠した、レンのドアップ!!
うわーっと両腕を突っ張って距離を取ろうとすると、余計に抱き締める腕の力を強くしてくる。
私の力なんて到底敵わない!
息が上がってもうダメ!となる一歩手前で唇が離れ、やっと酸素が肺に入ってくる。
「おはよう、リア!」
目の前のドアップなレンの色気は破壊力が凄まじい。
芝生に横になっていた私の隣に寝転がり抱きしめてくれていたようで、温かくて気持ちがいい。
「いくらみんなが知らない場所で人が来ないからって、爆睡しているなんて無防備過ぎるでしょ」
「うん、ごめんね。風とお日様が気持ちよくて寝ちゃったんだけど、起きた時レンがいてよかった」
心地よいぬくもりにすり寄り、ぎゅっと抱き着くとそのぬくもりを感じて安心する。
あったかくて心地よいのに、なんだか心にポッカリ穴が開いてしまったような気持ちがするのはなんでだろう。
ぐすっと、涙が出そうで鼻を啜ってしまう。
「今まで一人で何かしていても、本当の一人になったことは無かったんだって分かったの。私ウタに甘えていたんだなぁって。子どもの頃から一緒だったから私が今何をしたいかウタは言わなくても分かってくれて、一人になりたい時は一人になれる時間が自然とできていたの。でもウタがそっと離れたとこから見守ってくれていたから、一人でも安心できた。今はお城の人や侍女さんがいてくれるけど、まだ信頼関係やいい主従関係が出来ていないからそれがうまく伝えられないし、一人になりたいと言うと本当に一人になっちゃうの。一人になりたいのに本当の一人は嫌だなんて、矛盾すぎて自分でもよく分からない・・・」
「そうか、リアは寂しかったんだね」
「えつ?」
「ウタはリアのお姉ちゃんだもんね。いつも一緒に居たのに居なくなって寂しくなっちゃったんだね。一緒にお家に返してあげられなくてごめんね」
私ウタに会いたかったんだ。寂しかったんだ。
心の中のポッカリとした穴が何か納得できると、ブワァっと涙が出てきて止まらなくなった。
「ウタに会いたいよ〜、ウタ〜」
うんうん、ごめんね・・・と頭を撫でて抱きしめてくれる。
「中々一緒にいてあげられなくてごめん。城には俺がいたのに寂しい思いさせてごめんね」
ギュッと抱きしめてくれるレンに私もギュッと抱きついてしばらく泣いた。
お城での生活は小さい頃からしてきたけど、その時はウタがいた。
一人が寂しかった、嫌だった、レンは忙しいし頑張っているから困らせちゃいけない、ワガママ言っちゃいけない。
涙が止まらない私の手を引いて中庭まで戻ると、泣いてぐちゃぐちゃな私を抱き上げて部屋まで連れて行ってくれる。
涙が止まらなくて、一緒に居て欲しくて、繋いだ手が離せなくて気持ちも何もかもがぐちゃぐちゃになっていたけど、レンは何も言わず朝までずっと抱きしめて眠ってくれた。
そして次の日のお昼過ぎ、陛下から自宅に一週間帰っていいお許しが出たのだった。




