前世の覚醒
ゆっくり目を開けるが、まだ瞼が重くてまだきちんと目が開かないような感覚がする。
自分の体に回される腕のぬくもりを感じ、抱きしめられて眠っていたのだと分かった。
全く働かない頭だけどのろのろと自分の右手を見るとぎゅっと握ってくれている大好きな人の手に安心感と、包み込んでくれるぬくもりに涙が流れた。
あぁ、良かった。
頭で考える前に心が感じる。
涙でぼやける視界の中ゆっくり頭を動かし、抱き締めてくれる人の顔を見る。
青白く具合が悪そうでとても良い顔色とは程遠く、まだ瞳は閉じられていて、大好きな翠を見ることはできないけど、息をしている、生きているレンに涙が止まらなかった。
右手に無意識に力が宿り、レンに私の魔力が流れ込む。
ほんの少しだけど、少しでも早く元気になりますように・・・
「コラ、大人しく寝てろ」
あまり力のない声と共に、握っていてくれた手が離れてしまう。
離された手が寂しくて凄く残念に感じてしまう。
「怪我はリアのおかげて治ってるから大丈夫。お互い魔力が枯渇しているからしばらくは動けないと思うよ」
だから、もう力を使うなと言われ、レンは両腕を腰に回しギュッと抱きよせ、よかったと呟き首元に顔を寄せる。
まだ調子の悪さを抱きしめてくれる腕の力の弱さで感じるけど、優しい翠の瞳を見ることができた。
本当によかった、よかったよ・・・
もう二度とあんな思いはしたくないよと、私もレンの胸に身を寄せながらしばらく泣いた。
やっと落ち着くと聞きたいことがたくさんあることを思い出し、聞いてみることにする。
「いつから先輩は記憶があって、私が莉愛だって分かってたんですか?」
おや?なぜバレた?なんて呟いているけど、あの時名前を呼びましたよねと言うと、呼んだかもなぁと苦笑いをする。
「5歳の時。リアが落馬したあの時に全部思い出したんだ」
「そんなに前から?!」
うん、と言ってゆっくり話をしてくれる。
周りが分かるようになった2歳頃から、ずっと何かが足りない、ここは違うってずっと思っていたけど、それが何か分からなくてイライラしてそのうち何もかもがどうでも良くなったんだという。
そんな頃婚約者っていう子に会ったけど、やっぱり何も感じなくてほっといて欲しいのに、ずっとついてくるし、手を引っ張って色々な所に連れていくし初めは本当に鬱陶しかったと言われた。
その頃の私かわいそうに・・・涙ぐましい努力は鬱陶しかったんだと反省していると、私の頭を撫でて続きを話し出す。
でも、破天荒なことをするから目が離せないし、何もないところで転ぶし、湖に落ちそうになった時は本当に腹が立った、でもその子と一緒にいることが段々楽しくなってきて、可愛いいなと思うようになったんだぁと、昔を思い出し幸せそうな表情をする。
そんな時私が落馬した。
手が届かなくて守らなきゃと思うのに自分は幼くて、リアが死んでしまうのではないかと思った時に頭の中に色々な映像が浮かび、前世のことを思い出したんだという。
でも起きている時に急に思い出すのはきつかったよ〜と、眠りに誘われながらポツリと言い、モゾモゾと私の右手を握ると安心したような表情をした。
「続きは、また、こんど・・・」
眠りに誘われるように瞳を閉じるとすぐに、すーっと言う規則正しい寝息が聞こえだした。
ごめんね、話すのも辛かったんだよね。
レンが無意識に私の手をを握ってくれたのが嬉しかった。
そしてレンの眠る姿に誘われるように、頑張って開けていた瞳を閉じた。




