ムサナーラ視察の罠(レン視点)
グリータリア皇国はルノア王国の北に隣接されている。
その国境の近くの街ムサナーラに着き、アーノルド皇太子と街中の商店を巡る。
国境が近いということもあって、お互いの国の特産物や工芸品が並び、文化もお互いを尊重し合いながらうまい具合に交わっていることを感じる。
こちらも今は花祭り期間なので花が飾られているが、ペレよりだいぶ北にあるので日中の気温が違うため、花の種類は少ないように感じるが、ペレで見たことのない種類の花がいくつかあり、リアに見せてあげたいと思った。
リアは花が好きだ。
花を送るととっても嬉しそうに笑ってくれる。
部屋にはいつでも花が絶えることなく飾ってある。
「ルノア王国は我が国より南にある分、季節の移り変わりが美しく花々の種類も多いですね。また、食べ物も野菜の種類が豊富でとても美味しい。この町との交易がもっと盛んになると、我が国に利益をもたらしてくれることでしょう」
アーノルド殿下は二つ年上で、大変聡明な皇太子だ。
2年前にリアに一目惚れしたと言ってきた時には、殴ってやろうかと思ったがきちんと話すと分かってくれ、それからはとてもよい友好関係を続けている。
果物の商店で足を止め、国の妹がこの果物が好きだから、今度一緒に買いに来ようなど楽しそうに話してくれる。
妹とは義理の妹で遠い親戚にあたる子だそうだが、今アーノルドを夢中にさせる女性なのだという。
「しかし、ファーレン。今日は突然の申し出に警護など大変だったのではないか?」
「そうですが、きちんとお互いの目で見て見解を深めたいと思っていたので、なんとか間に合わせました」
分かっているなら急にはやめてほしいと心の中で思うが、今は第二騎士団を動かせる立場に立ったので、そう意味では警護など体制を整え安かったとは思う。
「いや、急に我の巫女と名乗るものが枕元に立ってな、明日はムサナーラに赴くようお告げがあったのだ」
「はっ?お告げ?!」
なんだそれは?と詳しく聞くと、チェリーブロンドの美しい女神がムサナーラにルノアの王太子と一緒に向かえとお告げを受けたという。
燃えるような美しいピンクの瞳に抗えず、自分の意思とは関係なくそれを実行しないといけない使命感に動かされ、無理を承知で今回の視察を申し出たそうだ。
ゾクリと嫌な汗が流れるような気がした。
チェリーブロンド、ピンクの瞳・・・誰かを思い出すような容姿に、自分の思いとは別の抗えない意志の力、やらなければいけないと感じる思い。
話の全てがただ一人フレイアを思い起こさせる。
・・・・レン・・・・・・た・す・・
リア!!
俺を呼ぶリアの声がして、目を見開き声を探る。
聞き間違えか、でもそんなわけない。
リアに何かあったのだろうか。
いや、そんなことはないと思いたい。
ちゃんと護衛をつけたから、大丈夫なはずだ。
でも、なんだろう、この不安でたまらない感情は。
「お話し中申し訳ありません。殿下に急ぎの伝達がございます」
ジンが現れ俺の後ろに傅く。
伝達が来るタイミングが良すぎる、悪い知らせでないことを祈りながら話を聞く。
「姫様の護衛につけた者たちが何者かの襲撃を受け交戦。死者は出ておりませんが、怪我をした者多数。姫様はメアリアン様と一緒に束かれたもよう。安否は現在不明。捜索隊が跡を追っているとのことですが、発見には至っていないとのことです」
言葉が出ず、どうしたらいいか分からず体が動かなかった。
今は国の使者としてここに来ている、今すぐにでも戻ってリアを助けに行きたいが、許されない今の現実・・・指先の震えが止まらない。
やっと守れる力をつけたのに、守ることが出来ない・・・
力が無くて守れなかったあの時と違うのに、力はあっても自由にならない歯がゆさ。
震える指先を隠すようにぎゅっと手を握った。
「何をしている。さっさと戻れ!」
「しかし、俺は今・・・」
「まだ、いいんじゃないのか。まだ、僕たちの上にはすべてを受け入れ守ってくれる者がいる。今だけは好きに動いていいと思う」
アーノルド殿下は俺と同じ立場だからこそ、俺の葛藤も分かるのだろう。
「あ、痛い。お腹が痛くなってきた。いたたた・・・これではもう視察は無理かもしれない」
「アーノルド?!」
「僕はこれから今晩お世話になる男爵家のお屋敷に先に帰っているよ。お腹が痛いな~困った困った」
「ありがとう。助かる」
下手な演技で視察を終えようとしてくれるアーノルドに礼を言い、帰路への支持をジンと側近たちに行う。
ジュロームの所在を聞くが、もう先にペレに戻るため単身馬で戻ったという。
自分と違って身の軽い立場をうらやましく思うが、先に戻ってくれることはありがたい。
あいつも死に物狂いでメアリアン嬢を探すだろうから。
ジンに首都に残っている俺直属の密偵に最優先でリアの居場所を探す指示を出し、馬を用意させる。
馬で2~3時間というとこか。
「殿下!お1人は危ないです」
「ついて来れる者だけ来い。先に行く」
気がはやり一人先に走り出す。
リア待っていて、必ず助けるから・・・




