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急な視察

じわじわ押し寄せてくる足音を感じていたはずなのに、この頃楽しくて忘れていた。

ヒロインに私が特異な存在だと認識されてしまった。

でも、だからといって誰かにこのことを話せない、相談もできない。

だって、私が前世の記憶を持った転生者だなんて、誰が信じるの?!

兄様たちにも、父様や母様にも。

そしてレンにも・・・


カムロ兄様と一緒に帰宅し、自室に戻る。

中から扉の鍵を閉め、扉に寄り掛かりその場にしゃがみ込む。

あの目が忘れられない。

ピンクの狂気を孕んだまっすぐな瞳が。

まだ転生者とは気づかれていないだろうけど、気づかれるまで時間の問題かもしれない。

怖い・・・ぶるっと震え自分を抱きしめる。

怖いよ、怖いよ、あなたに会えなくなりそうで怖いよ・・・レン。



次の日、レンが急に王太子のお仕事が入ってしまい一緒に出掛けられなくなってしまった。

予定では今日はメアリアン様とジュローム様と一緒に4人で城下を周る約束になっていたのに残念だ。

グリータリアの皇太子と国境近くの街を一緒に視察する計画が前倒しになったそうで、何でも花祭りの式典でルノア王国に滞在中に行いたいと、先方からの急な申し出があったらしい。

街の視察にはジュローム様も行かれるので、今日の予定はメアリアン様のお屋敷にお邪魔することに変更になった。


視察に出発する前にレンが寄って行ってくれた。


「メアリアン嬢と楽しんできてね。今日はジンは俺の方の護衛についているから、リアには他の者を付けているけど、気を付けてね」


「はい。今回は約束を守るから安心して」


「祭りの最終日は一緒に二人で行こうね。約束だ」


「楽しみにしているわ。いってらっしゃい」


「いってきます」


触れるだけのキスをして、レンは王室の馬車に乗りこみ出発する。

グリータリア皇国との国境近くの街までは、馬車で半日かかる。

視察も入るので今晩は向こうに泊り、明日の夕方に帰ってくる予定だ。

遅くなったとしても祭りの最終日は一緒に楽しめそうでよかった。

玄関ホールでの短い時間の滞在だけど、レンの顔をが見ることが出来て、なんだかちょっとほっとした。


帰ってきたら、フレイアのことで話せることはレンに話そう。

全部は言えないけど・・・

走り去っていく馬車が見えなくなるまで見送る。

本当は行ってほしくないくらい不安でいっぱいだけど・・・これも未来の覚悟の一つの試練なのかな?!と思った。



よし!気分を変えようと思い、メアリアン様のお屋敷に行く準備をすることにする。

服装はこれでいいとして、女子会にはやっぱりおいしいお菓子が必要よね!


「ウタ!メアリアン様のところに行くのにお菓子の用意はできているかしら?」


「お任せください。料理長にお嬢様の好きなものをたくさんお願いしております。見にいかれますか?」


「行きたいです!」


ウタと一緒に厨房に足を運び、料理長にわがままを言って、一番好きなイチゴのゼリー寄せも追加してもらった。

私の我がままなんてそんなに大変じゃないですよ、料理長が笑顔で答えてくた。



支度を終え、待っていると昼過ぎにメアリアン様の馬車が到着する。


「ごきげんよう、アルメリア様」


「メアリアン様ごきげんよう。お迎えに来ていただきありがとうございます」


「我が家へのご招待をお受けいただきありがとうございます。お足もとにお気を付けになって」


「マイヤー、いってきます」


見送る執事のマイヤーに声をかけ出かける。

私はメアリアン様と一緒の馬車に乗り、ウタは後ろの馬車に乗っていくことになった。



馬車が走り出してしばらくしても、メアリアン様はずっと黙ったままでなんだか空気が重いような気がする。

そっと様子を伺うと一転を見つめていて、心ここにあらず・・・


まずい!これはヒロインの力だ。

メアリアン様には今自分の意志が無い状態だ。

まさかこんなに早く行動に移すとは想定外だった。


「メアリ・・ァ・・・・・・ン」


名前を呼ぼうとしたけど、馬車の中で何かお香のようなものが焚かれていたようで、段々意識を保つのが難しくなってきた。

いけないここで意識を失っては・・・・・・


そんな思いとは裏腹に、重く閉じる瞳にあらがえず、私は意識を手放してしまった。



・・・・・・・・レン・・・たす、け・・・・・・・・




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