光の力
連れてこられたのは、町はずれの旧神殿。
小さな白大理石の神殿で、昔はたくさんの人が祈りを捧げに来ていたという。
でも、ルノア王国が大きくなり首都ペレも人が増えたことで、大神殿を別に作り神様はそちらにお移りになった。
しかしここは衰退することなく変わらず祈りを捧げに来る人が多いという。
今日は花祭り期間中ということもあり、たくさんの花で溢れかえり、人も多い。
レンは扉を開けて中に入る。
「きれい・・・」
小さな礼拝堂にはたくさんのステンドグラスが飾られ、女神降臨、光の神降臨、天使の誕生など神話を題材にしたもので、とても綺麗で素晴らしい。
そして中央にはステンドグラスから差し込む色とりどりの光を受け、花の女神と光の神が顔を近づけ向き合い、手を取り合うように祈りを捧げている像が鎮座している。
中もたくさんの花で埋め尽くされ、ここが皆さんに大切にされていることが見て分かる。
大神殿とはまた違った、町のみんなに愛される神秘的で幻想的な神殿。
「前、ここに来たいって言ってただろう。今が一番綺麗な時だから、この祭り中に連れてきたかったんだ」
「ありがとう。大神殿とは纏う空気が違うけど、全然違ってここも素敵ね」
よかったと微笑むレン。
「ねえ、レン。何か言いたいことがあって連れてきてくれたんじゃないの?」
凄いな、なんでわかるのかな?って言ってるけど、ここまでの道中、あまりしゃべらなかったから、何か言いたいことがるのかなと思っただけ。
長椅子に二人で腰かけると、レンが両手を広げ手のひらの上に光の球体を作り、それを徐々に大きくしていき私たち二人を取り囲むように包み込んだ。
でもこの光、多分普通の人には見えず魔力持ちでないと気づくことはないと思う。
私はちょっとだけ魔力があるので、感じることができるのだ。
「これで俺たちは別空間にいる感じ。周りに姿は見えてるけど俺たちの声は聞こえないから、何をしゃべっても大丈夫だよ」
「いつの間にこんなこと出来るようになったの?」
驚く私に、う~んちょっと前からと、ぽつりぽつりと話し出した。
「俺の魔力量、半端ないって昔言われたの覚えている?」
「うん、魔法学の先生が恐れ慄いて気絶したよね」
そう、昔いつだったか忘れたけど魔法学の先生が恐怖で白目をむいて倒れたことがあった。
ルノアの王族には魔力を持って生まれる人が多いらしい。
そこで大賢者と呼ばれる魔法学に精通した人が鑑定をするのだけど、レンの持っている魔力量が以上に高く、また性質も未知数で測定器を振り切ってしまい測れなかったのだ。
そんな人は今までいなく、大賢者も泡喰ったのだろう。
「それでね、色々頑張って練習しているんだけど、まだこんな小さな力で大きな力は使えない。俺に使える魔法っていうのが、どうも光属性らしく、それも守る力。あまり嬉しくないけど、光の神の力らしい」
「凄いね。」
「凄くないよ。でもこの先何かの時に俺はリアより先に他を守らなきゃいけなくなる日が来るんだ。まだ自信ないし、まだ無理だけど。この先、俺は王にならなきゃいけないから・・・」
あぁ、この人も自分の立場を改めて自覚するきっかけがあったんだなと感じる。
もうすぐ大人になる、子どもでいられる最後の年。
「うん。大人になるって難しいね」
「ほんと、もっと気楽な立場で『会社に就職』して仕事して、働いて帰ったら愛する嫁さんがいて・・・そんな普通の生活もしてみたかったな」
「似合わなそう・・・」
「そうだね。そんな夢のような話、今の俺には無理なんだけどね」
2人で額をこつんとくっつけてお互いの手を取り合い祈りを捧げる。
キミが、アナタが、どうか幸せでありますように・・・
ちょうど、目の前の女神と光の神と同じような姿で祈りを捧げていることには気づかなかった。
ん・・・今の会話で何か気になることがあったような気がするんだけど?何に引っかかった?!
・・・思い出せないから、まっ、いいか。
この時、もう少し考えていれば、分かったことがあったかもしれないと、後から後悔するのはまた別の話。
そんな私たちを物陰から見ていたチェリーブロンドの髪が踵を返し神殿の外に出ていく。
「どうしてみんな大切な人がいるのに、私にはいないの。必要ないならなんでこんなところに連れてこられなきゃいけなかったの」
立ち止まり、服の上からぎゅっと胸のペンダントを握りしめる。
「 、助けて・・・」
言葉に出来ない、ただ一人の名前を小さく呼び俯く姿は、儚げでとても寂しそうだった。
しかし何かを振り切るように顔を上げた瞳は、燃えるようなピンクの狂気をはらんでいるようにも見えた。
「絶対にゆるさない・・・バグを見つけて、元に戻すんだ!」




