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閑話 怪我と熱と寝顔と自覚と(レン視点)

リアを送ってから、城に戻る。

帰ってすぐに両陛下の部屋を訪れ、花祭りの王城パーティーを抜け出したことを謝った。

アルメリアが関わっていたことを聞いて知っていた2人は、仕方ないねと言いながらも表情は厳しい。


「今回はアルメリアに王太子の婚約者という自覚と、王太子妃になる覚悟を決めてもらうのにちょうどよかったのかもしれないな。また、自分の立場というものを理解してもらえたと思う。が、これはお前にも同じことがいえるがな」


「はい」


「王は民のために生きる。家族よりも、ただ一人の愛する大切な人よりも、なによりも優先すべきは国とそこに暮らしている国民だ。そして民を守るためには国益を守り国の発展にも努めなければいけない」


重い言葉だ。

分かっているつもりだったけど、まだ覚悟ができていないことを今回のことで身をもって知った。

今の俺の中で一番の最優先順位はアルメリアだ。

それを変えることができるのだろうか。

変えなければいけないことは分かっているけど、心がそれを許さないと言っている。

ギュッと無意識のうちに手のひらを握りしめていた。


母がそんな俺の様子を見て、穏やかな口調で話し出す。


「難しいのは分かっています。アルメリアちゃんはあなたが見つけた『ただ一人の人』なのでしょ。こんな偉そうに言っているこの人だって、かなり葛藤していると思うわよ。今だにね」


ちらっと父を見ると、まぁなと言って母の手を取る。


「本能はいつだってユーフォニアを一番にと訴えてくる。でも理性がそれを許さない。私はルノア王国の王だから。即位する時に何かあった時は本能ではなく理性を取ると覚悟を決めた。それと王妃にも同じように覚悟を決めてもらった。お前たちも、少しずつでいいからこれからのことを考えていってほしいと思う」


「でもなにより、アルメリアちゃんが無事でよかったわね」


「はい」


母の言葉に素直に頷く。

今日パーティーに参加できなかった分、明日行われる貴族方との謁見に同席するよう言われ自室に戻った。



自室に戻ったが、着替えるのも面倒でそのままベットに仰向けに寝転がる。

今日のは自分でも過度な反応をしてしまったと反省している。

あんなに泣かせるつもりも怖がらせるつもりも、もちろん傷つけるつもりもなかったのだけど、自分を止められなかった。


それにしても、たくさんいる人の中からなんで見つけちゃうのかな?

初めて東国のユウヤ王子に会った時に、こう成長すると分かっていたから、リアには絶対に会わせたくなかったのに。

二人が一緒にいてあいつがリアの手に触れているのを見たら、血が沸騰するかと思うほどの怒りが全身を駆け巡り、自分を抑えることができなかった。


リアは俺のものだ。


自分でも怖いくらいの執着だと認めている。

いつかこの執着が、リアを壊してしまうんではないかと不安にもなるけど、手放す気はさらさら無い。

フレイアのことだけでも頭が痛いのに、奴の目的が何かは分からないけどしばらくはこの国に滞在するのだろう。

大きなため息を一つ付き、浴室で汗を流すために勢いよく起き上がった。



次の日、謁見に同席する旨をアルメリアに知らせるよう従者に託し、陛下と共に謁見する。

各々の作物の出来や特産物のこと、流通の相談や河川工事や下水道についてなど、それぞれいろいろな話が出てくる。

陛下は適切な助言や、相手より先にこれはどうなっている?など、様子を聞くこともあり国内全ての様子を把握しているのが話の内容から伺える。

凄い!

これが国王ということ。

王は民のもの・・・昨日言われた言葉を、目の前で見せつけられているようで、体が震えた。

俺はこんな立派な王になれるだろうか。

なるためにもっと頑張らなければと思った。



小休憩の時に、ノア兄さんを見つけたのでリアの様子を聞いてみる。

するといつも以上に冷ややかな雰囲気と、いつも以上に分厚い壁を作って社交辞令のような話しから始まる。

これは、かなり怒っている。

そりゃ溺愛している妹が怪我させられて帰ってきたんだから、怒るよね。

でも次の言葉に驚き言葉を失ってしまう。


「妹は熱を出して寝込んでいますので、お越しいただいても満足にお相手できないと思います」


「熱!?」


「はい、昨日の暴力を受けた怪我が元で、そこが熱をもってしまい、体中を痛がり寝ています」


言葉が続かず自己嫌悪で項垂れてしまう俺に、ノア兄さんがニヤリと意地の悪い顔で俺を見ていたことに気づかなかった。

後から思えば、本当のことを言っているが、話し方などで相手に強く印象を残し、話を少しだけ誇張することで、俺をわざと追い込み心配させようとしたのだろう。

どんなに心配でもすぐに駆けつけることができないこの場者で。

王太子である俺に直接殴りかかれない分、精神的に殴りかかってきたということだろう。

その時は全く気付かず、ショックで頭がパニックを起こし、そこまで酷かったのかと自分を責めた。


その後も謁見は続いたが、大事な内容に集中できなくなってしまい、陛下に「お前もまだまだだな」と言われ、苦笑された。

未熟な自分に叱咤し、なんとか最後まで乗り切った。



謁見が終わるとすぐに、訪問するのに失礼のない程度の簡素な服に着替え早る気持ちを押さえながら、馬でカサヴァーノ侯爵の屋敷に向かった。


すぐに居間に通されるが、そこにはカノア兄さんが待っていた。


「待っていたよ、ファー様」


「リアは?熱は下がりましたか?!」


焦る俺を見ながら、座るよう進めるので兄の前に座る。


「ところで昨日は何があったのかな。アメリーは転んだとしか言わないけど、僕も仕事柄色々知ってるからね。そんな嘘すぐに分かるけど、聞いたところであの子は何も言わないだろうからね」


「それは・・・」


「まぁ、君も言うとは思っていないけど、一つだけ確認させてね。最悪な事態は起こっていないよね」


「それは、ないです!」


きっぱり否定すると、カムロ兄さんはそれならいいけどと言って、侍女にお茶を持ってくるよう言う。


「ねぇ、ファー様。先日、僕言いましたよね。『妹をよろしく頼む』と。昨日のようなことがあると、心配になるんだよね、本当に君に頼んで大丈夫なのかなって」


「すいません。そう思いますよね」


多分アルメリアの背中の傷が酷かったのだろう。

見ていないから分からないけど、力任せに壁に打ち付けてしまった自分の責任だ。

いつか俺の執着がリアを壊してしまいそうで、怖い。

でも・・・


「それでも、俺にはリアが必要だから守らさせて下さい。お願いします」


頭を下げてお願いする。

そんな俺の様子を満足そうに見ていたカムロ兄さんが、


「じゃあ、明日は僕も一緒に花祭りについて行って、君の様子をしっかり観察させてもらうよ。大切な妹を任せていいかどうか、この目で見極めさせてもらおうかな」


「あ、はい・・・よろしくお願いします」


リアがすごく嫌がりそうだけど、仕方ない。

明日は3人で行くことになりそうだ。



リアの部屋に入ることを許してもらいノックをすると、中から扉が開きリア付き侍女のウタが顔を出し会釈される。

リアは今眠っていると言うが、入室を促されベットの脇の椅子をすすめられる。


「私は扉の外におりますので、何かありましたらお呼びください」


と言いウタは廊下に出て行く。

若い男女が二人きりで部屋にいる時に間違いのないよう、少しだけ扉が開いているのを確認してから椅子に腰掛ける。


背中が痛いのかな?横向きに眠っていて、どこを触ったら痛くないのか分からず、上掛けから少し出ていた左手の指先をそっと触りその手に自分の額当ててみる。

指先が冷たい。

ごめんね、ごめんね、こんな俺だけど捨てないで。


自己嫌悪に陥っていると、優しく髪の毛を触る手の感触を感じ、そっと顔を上げてみる。

夕方のオレンジの光が部屋に満ち、眠たそうな金の瞳を染めていた。

リアは俺の髪の毛を触りながら「きれい」と呟いていたが、リアの瞳の方がよっぽど綺麗だと思う。


「リア、おはよう」


そっと額にキスをする。


「ごめんね。昨日俺が酷いことしたから、痛い思いをさせてしまった。本当にごめん」


頭を撫でながら、痛いところを聞くと、手首と背中と、足が痛いらしいが、大丈夫なんてヘラ〜って笑う。

ごめん・・・って、謝るしかできない俺の服の袖をツンツンと指先で触ってきて、痛いから指だけなんて可愛いことを言うので、そっと手を取る。

手首の包帯が痛々しくて、優しくさすることしかできなかった。


「謁見ご苦労様。どうだった?」


と聞かれたので、陛下の素晴らしさを話す。

俺もなれるかなと、心の声が漏れてしまうが、リアはまっすぐな瞳で、


「大丈夫だよ。レンならいい王様になれるわ」


と言ってくれた。

そのまっすぐな瞳と揺るぎない言葉に、泣きそうになる。

やっぱり俺は君だけは、手放せない。


「眠いのリア?」


瞼が落ち、眠そうなリア。


「うん、安心できるレンの声を聞いたからかなぁ」


聞こえるか聞こえないくらいの小さな呟きをすると、安心した表情で眠ってしまった。


「おやすみ」と頬に唇を寄せた。


リアの指先に触れ寝顔を見ているうちに、日々の疲れが溜まっていたのだろう俺も少し眠くなってきた。

ちょっとだけと思い、リアの枕の横のシーツに頭を乗せ目を閉じた。


優しく頬に触れる感触が気持ちよくて、その手に頬を寄せたいなぁ、と思いゆっくり目を開くと、大きな金の瞳がとても優しい表情で見つめていた。

あぁ〜ここはとっても居心地がいい。

このままこうしていたいと思ったところで、ハッと意識が覚醒して、跳ね起きるように立ち上がる。

ガタン!と椅子が倒れるが、それどころではない。


俺寝てた!?


こんなに熟睡したのは久しぶりなのではないだろうか。

寝顔を見られてしまったのが恥ずかしくて、顔に熱が集まるのがわかり、片手で半分顔を隠す。


「おはよう///起きたなら起こせよ」


寝顔かわいかったよ〜なんて言われて余計に頬が熱くなるのが分かり、真っ赤になっているだろう。

小さい頃のことを笑いながら話すリアは、先ほどよりだいぶ元気が出てきたように見える。

明日は一緒にお祭りに行こうね!と可愛らしく誘ってくれるが、明日はお兄様もご一緒なんです、とは今は言いづらい。

曖昧に笑って誤魔化し、触り心地の良い頭を優しく撫でた。

長くなってしまいましたが、35話から38話の間にあったレンのお話です。

本当に執着が強く独占欲の塊のくせにヘタレな王子ですね。

でも、女の子は大事にしてほしいと思っているので、もう痛いことをさせないようにしたいと思います。

さあ、やっと次回はヒロインフレイアの登場です。

宜しかったら読んでください。

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