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良薬口に苦し

次の日の朝、レンから知らせが入った。

昨日のパーティーをすっぽかしたので、今日は昨日できなかった分、各地方の様子を知らせる謁見の場に同席し陛下の横で話を聞かなければいけなくなったらしい。


ごめんね。

頑張って~なんて思いながら、私はポスンと枕に身を沈める。

カムロ兄様の仰っていたとおり、夜中に熱が上がり背中が熱くて痛くて上を向いて寝ることが出来ないし、手首が燃えるように痛く右手は動かすことが出来ないほどだった。

今も体を横向きにしている。

それに久しぶりに城下まで歩き、ユウヤ様を追いかけて走った足は筋肉痛で痛かった。

私、弱すぎ!

令嬢って体力ないよね・・・頑張って体力つけなくちゃ!と改めて思う。


ベットに横になりウツラウツラしていると、カムロ兄様が部屋に入ってきた気配がしたが、閉じた瞼は重く開けられそうにない。


「アメリーは寝ているの」


「はい、先ほど眠られました。熱が上がり、体も辛そうです」


「分かった、薬を調合してくるから、しばらく様子を見てて」


「承知いたしました」


カムロ兄様が静かに出ていく音と、額の汗を拭ってくれるウタの優しい手つきを感じる。

目を開けなきゃと思うのに、ダメだ、開きそうもない。


「大丈夫ですよ。ウタが傍にいますから、ゆっくりおやすみください」


優しいウタの声を聞きながら、私は眠りに落ちていった。



次に目が覚めると昼になっていた。

食べやすい物だけでもと食事が運ばれるが、手が痛く動かさないよう言われているので、ウタが食べさせてくれる。

食欲はあまりなかったが、野菜スープを少しと果物も少しだけ食べた。


食後カムロ兄様が新しく調合してくださった軟膏を塗り、包帯を巻きなおしに来てくれ、そっと額に手を当てる。


「まだ熱あるな」


「でも朝より楽になりました」


良かったと言いながら、薬を飲むよう差し出す。

日中なので痛み止めだけらしいけど、これ、すごくまずいんですけどわざとかな?

私が嫌そうな表情をしていると、


「良薬口に苦しだ!(みんなを心配させた罰だ!)」


と心の声まで聞こえてくる気がする。

飲まないと自分が辛いので飲むが・・・やっぱりまずいよ!!

顔を顰めて飲む私の様子を、笑いをこらえたカムロ兄様が楽しそうに見ていたことは知らなかった。


その後もベットに横になり、眠って起きてを繰り返して過ごす。



目を開けると室内は薄いオレンジ色の光に染まろうとしていた。

もうそろそろ夕方かなと、ぼ~っとまだ寝ぼけた焦点の合わない目で目の前の金髪を眺める。

綺麗だな~夕日が当たってキラキラしている。

そっと触ってみるとサラサラと手の中から零れ落ちていく。

ぼ~っとしたまま髪を掬っては手のひらから零れように落ちる綺麗な金糸を眺めた。


「リア・・・」


ベットの脇の椅子に腰かけ、私の左手を握って額を押し付けていたレンが心配そうな表情で「おはよ」と額に優しく唇を落とす。


「ごめんね。昨日俺が酷いことしたから、痛い思いをさせてしまった。本当にごめん」


どこに触れたら大丈夫なのか、不安そうにしながら頭を撫で「まだ熱あんな・・・」って、辛そうな表情をする。


「痛いとこは?」


「う~ん、手首と背中と・・・足のふくらはぎ」


「ごめん・・・」


「大丈夫だよ」


項垂れ反省している大好きな人の服をそっと指先で触る。

手首痛いから指先だけね、と言いながら触ると、大好きな手が優しく指先を握ってくれた。

包帯の巻かれた手首を見て一瞬辛そうな表情をしたけど、すぐにいつもの表情で優しくさすってくれた。



「謁見ご苦労様。どうだった?」


「すっげ~疲れた。でもやっぱり陛下ってすごいんだな。俺なんて何十人も聞いているうちに、どこの地方がどうでというのが、あやふやになってきちゃったけど、順番に相手の話を聞きメモを取るわけじゃないのに、全て覚えていて把握している。ルノア全土をきちんと管理し見守っているんだから凄いよ。・・・俺にも出来るようになるのかな」


レンが陛下のことを父と呼ばずに陛下と呼ぶときは、王として尊敬しているとき。

彼の目標はまだまだ上の高みに君臨しているけど、日々努力をしているのを私は知っている。

学園で各地方から出てきている学生から、その地方について聞いて理解しようと努めたり、将来の人脈を作ろうとしたり、陛下の治世について独学で学んだりなど、これはほんのちょっとの一握りの努力。

もっとたくさん頑張っている姿を見てきたから、


「大丈夫だよ。レンならいい王様になれるよ」


なんだか瞼が落ちてきた。


「リア眠いの?」


うんちょっと眠い。

レンの声を聴いていたら安心してきたのかも・・・

おやすみと頬に温かい感触を感じながら、眠りに落ちていった。



次に目が覚めると、外は真っ暗になっていた。

室内は薄暗い程度の明かりが灯されているので、目が慣れてくると室内の様子がはっきりとしてくる。

私の枕の脇では椅子に腰かけベットに突っ伏して爆睡しているレンがいた。

私が起き上がっても目が覚めないなんてレアすぎる、と寝顔を堪能する。

まつ毛長いな~、鼻筋が通っていて高すぎず低すぎず絶妙な鼻の高さ、唇が柔らかいのは・・・知っている///、金の髪は先ほど触れてサラサラだった、瞳は・・・

瞳は私の大好きな綺麗な綺麗な翠。

早く見たいな~と見た目よりも柔らかくてすべすべの頬をそっと触っていると、長いまつ毛が震え、瞳が開き霞がかった綺麗なエメラルドが現れる。

ぼ~っとしているレンは可愛いな~って見ていると、ハッと覚醒し慌てて立ち上がったことで椅子がひっくり返る。

その音に扉が開きウタが顔をのぞかせるが、私が目で大丈夫とサインを送るとまた扉を閉めてくれた。


「おはよう、レン。よく寝れた?」


「おはよう///起きたなら起こせよ」


手で顔を半分隠し盛大に照れているレンは本当に可愛い。

寝顔見てたと言ったら、余計に赤くなってしまい私は笑ってしまった。


「昔はこうやって一緒にお昼寝したね」


「そうそう、リアが一緒がいいって言ってベットに引きづりこまれたこともあったな~」


「こ、子どものころのことです///」


今度は私が赤くなる番だった。

笑う私の頭を撫でながら、優しく微笑んでくれる。


「少し元気になったな。まだ痛いか」


「うん、だいぶいい。明日には痛くなくなると思うよ。カムロ兄様の薬すっごく苦いのよ~でも効き目は抜群!!」


明日は一緒に花祭り楽しもうね、と言うとちょっと苦笑いのレン。

ん?なにかあったのかな?!

でも、やっとお祭りに行かれるね!と笑う私に、レンもそうだなとまた頭を撫でてくれた。

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