閑話 さてどうしてくれるよう(カムロ視点)
控えめなノックの後、アルメリア付きの侍女ウタの声がした。
ドアを開けると、ウタが会釈をしアルメリアが打ち身などの怪我をして帰ってきたので、診てほしいとのことだった。
アルメリアが怪我をして帰るなんて珍しいので、ノア兄さん用に用意してある薬を持ってすぐに部屋に行く。
「カムロ兄様、遅くにすいません」
ベットに腰掛けていたアルメリアに、そのまま座っているよう手で静止を促す。
どこを怪我したのか見せるよう言うと、両手首を見せられた。
(これは・・・)
どう見ても手首を力いっぱい握りしめられた痕と、それに加えて右手首は捻られて軽い捻挫のようになっている。
腫れているところから故意に捻られたようにも感じる。
そっと右手首を動かすと、少し表情を険しくする様子から痛いのを我慢しているようだ。
両手首に打ち身や痣によく効く軟膏を優しく塗り込み、右手首には湿布を上から貼り、どちらも覆うように包帯を巻いた。
「ちょっと大げさではないですか」
「跡が残ったらいけないからね。他はもう大丈夫?」
ちょっと後ろを向いていてもらっていいですか、と言うのでアルメリアに背を向け待っていると声がかかったので、振り返りアルメリアを見て声が出なかった。
白い肌にあっちこっちついた痣や擦り傷。
前をシーツで隠し傷だらけの背中を恥ずかしそうに見せてくれた。
「転んでしまって。私には見えないのですが、ウタが心配するので・・・」
心配なんてものではない、もちろん転んだなんて、嘘はすぐにわかる。
薬学院への依頼の中で、暴力による女性の怪我の傷を綺麗に完治できる薬はできないか、と依頼があったことがあった。
その時に見たものより怪我の状態は浅いし、この程度なら時間がたてば綺麗に完治するだろう。
しかし、この怪我は暴力に寄るもので間違いない。
あいつは何をしていたんだ?!
先日久しぶりに会った婚約者殿は。
ふつふつと黒いものがこみ上げてくるが、今はアルメリアの怪我に専念しよう。
先ほどと同じ軟膏を優しく塗り込むと、特に肩の打ち身を痛がっていたが、そこまで腫れてはいないので、明日様子を見ることにする。
今回は急なことでノア兄さん用の物を使ったが、肌への保湿効果が低いので明日までにアルメリア用に保湿成分が高い物を急いで作らなければいけない。
治療が終わったことを知らせると、ほっとした表情をしていた。
一度退室し、軟膏など片付け、痛み止めと軽い睡眠薬を混ぜた服薬をもって、再びアルメリアの部屋を訪れる。
何か聞かれるのではないかとびくびくしている様子が伺えるが、こういう時には何を聞いても答えが返ってこないことを知っているので、特に何も聞かないようにした。
「夜中痛みで起きることもあるかもしれないから、痛み止めに少し睡眠薬を混ぜてある。飲んでから寝なさい。あとウタ。打ち身から熱が出るかもしれないから定期的に様子を確認するように」
「かしこまりました」
ウタに薬を渡しながら指示を出す。
びくびく怯えるような上目遣いでこちらを伺っているアルメリアは、小動物のようでかわいらしいが、先ほどの傷を見ているので痛々しく感じ、そっと頭を撫でてしまう。
「明日、アルメリア用にもっとお肌に優しい物を作って持ってくるから、1日に何回かウタに塗ってもらいなさい。あと、明日は熱が出ると思うから外出禁止!」
「えー!」
「おとなしくしていなさい。しょうがないだろ『転んだ』んだから」
言葉に詰まりそっぽを向く嘘が付けない妹に苦笑しながら、ゆっくりお休みと額にキスをした。
また明日ケガの様子を診せるよう伝え部屋を出る。
さて、どうしてくれようか、先ほど我慢した怒りが込み上げてくる。
自分はノア兄さんのようにアルメリアをそこまで溺愛してはいないが、可愛い妹ではある。
(なにが全力で守るだ、クソ王太子め・・・)
アルメリアは隠したいと思っているようだから、父上と母上には内緒にしておいてあげよう。
特に母上に知られたら半狂乱になって泣きそうだしな。
まずはノア兄さんだな。
やっぱりこうゆう時は長男に頼るのが一番!と、ノア兄さんの私室に向かって歩き出した。




