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ただ唯一の自分の絶対

レンに送ってもらい屋敷に帰ると、すぐにお父様に呼び出され、部屋に入るなり、大声で怒鳴られた。


「馬鹿者!お前は自分の立場というものを分かっているのか!!」


「申し訳ありません」


初めてここまで怒らせてしまった。

日頃お父様も穏やかな方なので、声を荒げることはない。

今回は私が全て悪い。


「花祭りのパーティーが始まって少しした時、殿下が出ていくのが見え、何かあったのかと思っていたら、アルメリアが城下街に一人で出かけて行ったのを追いかけて行かれたと聞いて、どんなに驚いたか」


おっしゃる通りです。

何か言うと余計に怒らせてしまいそうなので『わたしがわるうございました』と、心の中で謝る。


話したことで幾分気持ちが落ち着いたのか、お父様の声のトーンも落ち着いてきて、諭すように話し出す。


「なぁ、アルメリア。お前は筆頭公爵家令嬢という立場だけではないんだよ。お前はファーレン王太子殿下の婚約者、次期王太子妃になる人なんだよ。そしてゆくゆくはこの国を殿下と一緒に守るべき立場に立つ人なんだ。自覚を持ちなさい」


お父様に言われて、自分が王太子の婚約者だということを、再認識させられたような気がした。


一緒に同席していたノア兄様が、私の頭をポンポンと優しく撫でながら話を続ける。


「それにね、アメリーに何かあったら殿下は殿下で無くなってしまうよ」


「えっ?」


「5歳の時落馬して意識が戻らなかったことがあっただろう。あの時、目を覚さないアメリーのそばから離れず、一生分の涙を流したと思うほど、あの殿下が泣いたんだ」


私の意識のなかった7日間のことをノア兄様が話し出す。


あの時、片時もそばから離れようとせず、涙はずっと止まらず、寝ずに食べずに付き添う姿は見ているこっちが辛くなるほどだったという。

無理やり離そうとすると癇癪を起して泣き叫び、手が付けられなくなってしまうので、やりたいようにさせていると本当に寝ないので何度も薬を使って眠らしたけど、それでも絶対にアルメリアの手を離さなかったという。


「寝ていてもアメリーのそばを離れたくなかったんだろうね」


ノア兄様は苦笑しながら話を続ける。

あのままアルメリアが目を覚さなかったら、殿下は壊れてしまっていただろう。

それくらい殿下にとって『アルメリア』は大切な存在なのだと、みんなが思い知らされたと。


「それにアメリーが目を覚ましてから、殿下はそれまでの殿下と何かが変わってしまったんだ。何がと言われると、困ってしまうんだけどね。でもたぶんその時に決めたんだろね。『ただ唯一の自分の絶対』だと」


「ただ唯一の自分の絶対?」


うなずく兄様は優しい目をする。

王家の人は一生のうちにただ一人の人だけを愛し大事にする気持ち『番』のような感情があるのだという。

今の陛下はその絶対の存在を見つけることが出来たが、その前の王は見つけられずたくさんの妃をもうけ、見た目には華やかでも心は寂しいままだったという。


「でも、まだ幼くて唯一の存在を認識できないうちに、なんで婚約したのですか?婚約は陛下が決めたのでしょ?」


「鋭いね!さすが俺の妹。それは『アルメリアが特別』だったからだよ」


「特別?」


頭を撫でられ「詳しくはまた今度ね」と濁されてしまう。


多分この『唯一の存在』はヒロインのためのものなのだろう。

爵位の低いヒロインが王族と結婚するために必要なことなのだと思う。

今はレンの私への想いに偽りのないことを分かってるし、想いを信じている。

でもこの想いはこれからのゲームの進行に、かなりの障害となってくるはずだ。

私を子どものうちに唯一の存在と決めたことが今後どう影響するのか、また私がなんで特別なのか気になることはたくさんあるけど、ヒロインに負けない気がしてきた。



「そうだ。今度騎士団の練習を見においで。いいもの見せてあげる!」


「いいもの?」


「そう。花祭りが終わったらね」


ん!これはノア兄様のゲームのシナリオにあった気がする内容だ。

ヒロインに騎士団での自分の有能な姿を見てほしいと誘うイベントがある。

その騎士団見学中に近衛騎士とも遭遇しルート選択が発生する大事な分岐点なのだが、今回は兄様は自分を見に来いと言っているわけではなさそうなので、ちょっと違う気もする。

所々でゲームのシナリオを感じるなぁ。


お父様に自分の立場を自覚するよう、何度も言い含められやっと解放された。

もう二度としません。

立場云々というよりも、大切な人を悲しませないために・・・



「お嬢様、大丈夫ですか」


自分の部屋に戻ると涙目のウタが心配して待っていてくれた。

ごめんなさいと謝ると首を振り、妖精の衣装を脱がしお風呂の用意をしてくれる。


「服がとても汚れていますが、何をなされたらこんなに汚れるんですか」


あ~、盛大に泣いて染みを作ったり、座り込んだり色々したな・・・と思ったが、曖昧に濁しておいた。


「あっちこっちに痣もできていますが、転んだんですか!?特にこの両手首、明日鬱血しそうですよ。こちらは腫れてもいますよね。あとでカムロ様に診ていただきましょうね」


「はい」


やっぱりカムロ兄様ですよね。

我が家には騎士もいるので湿布のようなものや痛み止めなどカムロ兄様が作ってくれたものがある。

あぁ、後で何か言われてしまうなぁ。


次から次にウタに指摘されるが、何も言えずに素直に従う。

今回は本当に私が悪かったです。

みなさんごめんなさい。

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