ごめんなさい、ごめんなさい・・・
ユウヤ様が消え、いつの間にかジンさんも居なくなっていた。
脇道には私とレンの二人だけになる。
それでもまだ後ろから身動きができないほど力強く抱きしめられたままだった。
「レン。離し、キャッ」
最後まで言わないうちに、体を反転され両手を片手で持たれると、頭の上に上げられ、ドン!と背中を壁に打ち付け押し付けられる。
背中の痛みと急なことに驚いていると、もう片方の手で顎を持ち上げられ噛み付くようなキスをされた。
逃げようとするのを足でも押さえ込まれ、身動きできず逃げることもできない。
息が上がり苦しい、それに怖い・・・嫌だよ。
「ん、レ・・・レン・・・くる・・・し、レ・・・」
息が上がり頭がぼーっとしてきたころ、やっと唇が離れ息ができるようになるが、私の両手を壁に押し付けたまま、顎を押さえていた手は私の顔の横につき、下を向くレンの顔は見えない。
下を向いたまま、いつもは穏やかなレンが声を荒げる。
「東国の王子はリアの好みの顔だった?今から結婚相手変える気でつかまえたの?」
「そんなつもりじゃ、ただちょっと」
「ただちょっとなんだよ。俺は真っ直ぐ家に帰れって言ったよな。なんでこんなとこにいるんだよ。俺がいないうちに、男漁りにでも来たのか!!」
「な!そんなわけないでしょ!!」
手を離してもらおうと暴れてみたけど、全く動くことが出来ない。
こんな時、レンが男の人だったんだと思い知らされる。
悔しくて涙が滲んでくる。
バカ、バカ、レンのバカ!!
でも、それよりもなによりも、私の大バカ・・・
なんで言うこと聞かなかったんだろう。
私の手を握り締め、痛いことや酷いこと言っているこの人の手が、こんなに震えてるのに。
ごめんね、心配したんだよね。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
ボロボロ涙を流しながら謝る私の顔を初めて見てくれる。
凄く怒った顔。
それよりも、もっともっと悲しそうで傷ついた表情。
私がさせてしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・嫌いにならないで」
最後の方は声にならないくらい泣きじゃくる私の手を離し、正面から強く抱きしめてくれる。
「ごめん。泣かせたいわけじゃないんだ。酷いこと言いたいわけでもないんだ。ごめん。ごめん、リア・・・ごめん」
抱き合いながら、ずるずると二人で地面に座り込む。
抱きしめる力が強くて骨が痛いくらいだけど、レンの心の痛さから比べたらこんなの平気。
私の肩に顔を埋め表情は見えないけれど、多分レンも泣いている。
目には見えないけれど、心がボロボロ涙を流している。
ごめん。
ごめんね。
あなたが君が一番好きだよと言葉にして伝えながら路地裏で二人で泣いた。
「ごめん。もう手放せない、リアが嫌がってもなんでも、もう俺のところから離さない」
「離さないで、フレイア様が良いって言わないで」
「言わないよ。リアは俺のものだよね」
うんうんと頷く私に、今度は優しくキスをしてくれた。
「ごめん酷くした。痛いとこはない?」
腕の力を緩めたレンは心配そうに私の腕や手に怪我がないかを確かめ出した。
力強く握りしめられた手首は赤くなっていたが、その前にコウさんにひねられた手首が少し痛み腫れてしまった。
「あいつ、コロス」
レンさん目が据わってますよ。
穏やかな人ほど怒らせると怖いということを、今身をもって学びましたが、外交問題に発展しますので、これ位で物騒なことを言うのはやめてください。
私の手首を優しくさすり唇を押しあてる。
その後しばらく消毒と言って、あっちこっちにキスを落とし、特に左手の甲は何度も何度もゴジゴシ擦られた。
お互い落ち着いた頃にジンさんがパン屋さんでもらった紙袋を持ってきてくれた。
それを受け取るとレンは私の手を取り噴水広場に移動し、ベンチに腰掛け待っているよう言い、ワゴンで売っている花祭りの名物花茶を買ってきてくれた。
一口飲むと花のいい香りが心を落ち着かせてくれる。
ハンカチを噴水の水で濡らし、腫れてしまっている手首にあてる。
ひんやりとして気持ちがいい。
なぜ素直に帰らなかったかを聞かれたので、フレイアに会いたかったことを話す。
俺は会いたくないなぁなんて言いながら、聞きづらそうにユウヤ様について聞いてきた。
なんと言えばよいか、言葉に困ったけど、
「知っている人、かと思ったの」
「知ってる人って、誰?」
「・・・でも違った。それに知っている人っていうのも、本当に知っている人なのかどうかもわからないんだけどね」
「なんか言っていることがおかしいぞ」
ふふふと笑いながら、ことんとレンの肩に寄りかかり目を閉じた。
私もよくわからない、と思いながら。
あ〜、やっぱりここが一番気持ちがいい、一番落ち着く。
「いつまでも一緒にいたいね」
「あぁ。一緒にいような」
このゲームでは、東国の第三王子は攻略対象ではなく、登場もしていない。
物語りは、確実に変わってきている。
これは私の物語りなんだ。
花祭りの初日から思っていたことと違う波乱があったけれど、これから色々ありそうで怖いけど、今感じた思いを忘れずにいたい。
パン屋の奥さんがくれた美味しいパンを齧りながら2人で笑い合った。




