花祭りの式典と開催宣言
神殿に着くと一度待合室に通される。
神殿では式典が始まっているが、妖精の登場までここで待っている。
私はのんびりお茶を飲んでるだけだが、レンは次々書類に目を通しサインしたり、何か指示を出している。
昨年から王太子一人だけで行う仕事が増えたらしいが、お祭りの日までお疲れ様です。
私の視線に気付くと、
「ごめんね。こんな時まで忙しそうにしていて。今日中に終わらせてその後はお祭りの間は、一緒に楽しめるようにするからね」
「大丈夫だよ。大変だなぁと思っていただけだから」
レンは、ありがとうと言うとまた書類に目を戻した。
しばらくそんな時間を過ごし、神殿に行く時間がきたのだろう、呼びに来てくれた人一緒に大神殿の大扉の前に案内された。
5回目といっても、毎回緊張する。
ここから花束は私が持ち、レンの後ろに続き入場する。
一息深呼吸をすると、レンの表情が王太子のものに変わる。
いつもの優しい雰囲気とは違う、気高く高貴で誰からも慕われる、そんな雰囲気を身に纏う。
私も少しはそれに習いたいが、生まれつき持った品格には敵わないので、頑張りだけは認めて欲しいと常々思っている。
大扉が開き、レンが進む後に続く。
正面に祭壇を備えた広い広間。
祭壇の中央には女神姿の母様と大神官の衣装を着た父様、その横に陛下と王妃陛下が並んでいる。
祭壇の階段の下には、今年の精霊役の新成人の男女が待っている。
私たちが進む中央のサイドには祭壇から順に、爵位順に貴族が並んで頭を下げている。
カサヴァーノ公爵家は当主である父様が祭壇の上にいるので、代理としてノア兄様が列席に並んでいる。
半分ほど進むとレンガ止まり、私の方を振り返り左手を差し出す。
ここからが本番だ。
今年は大きな花束にして失敗したなぁと反省しても、もう遅い。
花束を左手で優雅に見えるように抱え持ち、レンの左手に右手をのせエスコートされるように再び歩き出す。
精霊のところまで運び、レンと一緒に花束を持ち精霊の方に手渡し、レンは片膝、私は両膝を突き祈りを捧げる姿勢を取る。
精霊役の方々が階段をゆっくり登り女神に手渡し、私たちと同じ姿勢で祈りを捧げる。
女神は受け取った花束を祭壇中央に鎮座された大きな銀色の王華カサブランカの前に置くと両肘をつき祈りを上げる。
「親愛なる我らの花の女神。光の神と共にこの地に赴き、我らに祝福を賜らんことを。花と共に生まれし我が国に祝福を」
心に届くような声の響き。
普段とは全く違った神聖な雰囲気の母様に、5年前は怖くて式が終わってから涙が止まらなくて、母様と父様を困らせてしまったこともあった。
女神の言葉に答えるように、王華が輝きその光が神殿中に広がり天井の天窓から光が溢れ城下に降り注いでいく。
今は中にいるので見ることができないが、子どもの頃に神殿から金と銀の光が溢れ出し街を包むように降り注ぐ様を感動してみたことを覚えている。
また見たいなぁ・・・
光の洪水が収まるが、王華の穏やかな輝きは見えないけれど、祭りの間中溢れルノア国内をゆっくり包み込んでいくという。
滞りなく式典が終わり、陛下より祭りの開催が宣言された。
今日から7日間、花祭りが行われる。
ヒロインと対峙しなければいけない、私にとって運命の花祭りが。




