出会いは突然
ヴァージニア学園では数学や国語、公用語の授業、自国の歴史と世界史、芸術や音楽、マナー講習などの授業を必須課程としながら、他国の言語や歴史、スポーツなど興味を持ったものを自分で選ぶ選択授業がある。
学園に入る前に、全て王城で受けたものとほぼ変わらないので復習のようだが、学友と学ぶということはまた違って楽しい。
今日は歴史の授業を受ける。
ルノア王国の成り立ちは、光の神が花の女神に恋をしたことから始まる。
愛し合う二人は結ばれその子どもの天使がルノアの大地に降臨したのが高台におる神殿だという。
天使は聖女となり人々に愛と信仰をとい、この地で愛し合った青年とルノア王国を建国し、今でも花の都を守護していると言う。
まあ、乙女ゲームっぽい設定だ。
私は小さい頃からきちんと学んできたので知っているが、物語よりも詳しく学問として学ぶご令嬢たちからは、黄色い声が飛び交いうっとりとしたようなため息が聞こえてきた。
素敵なお話だとは思う。
天使がヒロインじゃなければね。
授業を終えた私たちは、中庭でランチをすることにした。
学園の中庭は大きな公園のようで、緩やかな丘に広い芝生、小さな森に日の光を受けて輝く澄んだ水をたたえた小さな湖、前の世界でいう東京ドーム何個分?と言うほど広大な敷地だ。
学園のカフェのご飯もおいしいのだが、この頃はお互いの家のシェフが腕によりをかけたお弁当を、順番に持ち寄りピクニックを楽しんでいる。
今日はメアリアン様の番。
「今日はサンドイッチをお持ちいたしました。ローストビーフがおすすめです」
「メアリの家のローストビーフは格別なんだよね。僕はこのソースが好きだな」
楽しそうに二人でお互いのサンドイッチをとりわけ、私にもおすすめのソースを挟んだローストビーフのサンドイッチを渡してくれた。
「いただきます」
カプッとサンドイッチにかぶりつくと肉のうま味が口の中に広がり、ちょっと酸味のあるソースと合わさって本当においしい。
「おいしい!」
「喜んでいただけてよかった!」
にっこり微笑み、よかった~なんてジュローム様と笑いあう二人は、本当にお似合いだ。
同じようにヒーローを好きになり幼馴染でいつも一緒にいる存在、なのにヒロインをサポートしなければいけないキャラのメアリアン様。
知らないっていいな~
不安になんて感じていないだろうから。
ゆっくり口の中のローストビーフを噛みしめ飲み込む。
おいしい・・・だから大丈夫。
「遅れてごめん。美味しそうなサンドイッチだな。ほんとお腹すいた~」
遅れてきたレンが私の隣に腰を下ろし、私の手からサンドイッチを奪い取り残りを食べてしまった。
もう仕方ないな、と言いながら次のサンドイッチをお皿に乗せレンに差し出す。
よほどお腹が空いていたようで、あっという間に食べてしまい、お茶を飲み一息つく。
「そういえば、昨日この夏に転入してくるっていう一つ年上の男爵令嬢に街中であったんだけど、なんか変わった人だったな~」
「え、男爵令嬢・・・」
ドキン!!と大きく胸が鳴る。
夏に転入する一つ上の男爵令嬢・・・それって・・・まさか・・・
レンは昨日王様の仕事についていき、街中に出る機会があったそうだ。
その時に、従者を伴った令嬢がぶつかってきたそうで、そこで挨拶を交わしたという。
「う~ん、本当に令嬢か?って感じの雰囲気だし、今まで見たことないんだよね。それにぶつかってくるか。そんなに狭いとこじゃないし、一応俺はこの国の王子だし。あり得ないでしょ」
「どこの男爵令嬢だったんだ」
ジュローム様に促されて出てきた名前は、
「あぁ、バーミンガム男爵家のフレイア嬢って言ってたかな。たぶん男爵の非嫡出子なんだと思うけど、う~んなんか変わっていたし、何だかわからないけど、変な感じがとてもしたんだよな。なんていうか言葉では表すのがとても難しい感じで、いい感じはしなかったな。もう会うことないと思うけどね」
「へ~、僕も知らないな。で、可愛かった?」
「う〜ん・・・可愛いのかもな、世間一般的には。俺にはどうでもいいけど」
可愛いんだ・・・
指先が震えてカップを落としてしまう。
制服の上に広げていたハンカチに染みが広がり、レンが慌てたように自分のハンカチで拭いてくれる。
「火傷してないか!どうした急に、大丈夫か?」
「あ、うん、ごめん。大丈夫・・・」
曖昧に答えることしかできなかった。
花祭り前に接触があると思っていなかった。
出会ってしまった、ヒロインのフレイアに。
指先の震えが止まらなくて、それを隠したくて両手を握り合わせて下を向いてしまう。
震える私の手をそっと包むように優しく握ってくれるレンが、じっと何かを確かめるように私を見ていたことに気づかなかった。




