おいしいと感じるうちは大丈夫
あの日から、食欲がなくなり少しずつ体重が落ちていった。
母は用意した花の妖精の衣装が着れなくなるから、体重を戻すようにと言うが、着たくないので曖昧な返事をしている。
しかし私の体のことを心配する家族は、家ではルイと母様が一緒に食事を摂り、残すと兄様特にカイ兄様にルイは容赦なく告げ口をし、カイ兄様に夜食を無理やり食べさせられることもあった。
ランチはレンが毎回一緒に食べてくれる。
「食べられるものだけでいいから食べろ。少し無理して食べないと、体を壊す」
学食一おいしいと評判の卵スペシャルを私の前においてくれた。
とろとろの半熟卵のオムライスとプリンのセット、とってもおいしそう。
「いただきます」
そっとスプーンに掬って食べる。
口の中で蕩ける卵とチキンライスのケチャップの甘味。
あ~おいしいな~。
ゆっくりスプーンを進める私を見て、レンも同じものを食べだした。
静かに食事は進んだが、オムライスを3分の1ほど食べたところで手が止まってしまう。
もう、無理・・・
どうしよう、もったいないなぁと心配する前に、目の前からオムライスが消えプリンが代わりに置かれた。
「俺は甘い物苦手だから取り換えてくれ」
そう言って私の食べ残しを食べてくれた。
ありがとう、大食いじゃないから本当はそんなに食べられないくせに無理させてごめんね。
レンの優しさを感じながら、その日はオムライス3分の1とプリンを2つ食べることが出来た.
「頑張って食べられて、えらいえらい!」
レンが、ガシガシと頭をなでて笑う。
「セットが乱れるのでやめてください」
慌てて頭を守ろうとする私に、楽しそうに笑ってから、私から目線をそらし優しく話し出す。
「ごはん、おいしいだろう。おいしいって思えるうちは大丈夫なんじゃないかな」
「えっ?」
「俺は、アメリーが何を考えているか、何を怖がっているか分からないけど、ただ怖がっているだけは違うんじゃないかと思うんだよね。おいしいって感じることは、まだ頑張ろうと思っているんじゃないの?心はもうダメって思っていても、生きる糧を得て体は頑張ろうとしているんだよ」
「レン・・・」
「どうにかなるよ、大丈夫。俺を信じて。言っただろ『俺は裏切らない』って」
「うん」
お腹がいっぱいになると不思議。
少しだけ何とかなるって思える。
そうだね。
何もしないで怖がっているだけなんて違うのかも。
今を楽しんでその先に悲しみが待っていても、今の楽しかった思い出を糧にその先生きていける。
おいしいごはんと一緒。
今までの楽しい思い出を大切に生きていける。
その日から、私はただ泣いて過ごすのをやめようと決めた。
泣き虫だから、泣いてしまうと思うけど、今のレンの優しさを忘れずにいよう!




