閑話 継承者(光の神視点)
光の神コウインの話です。
ファーレンは彼にとって継承者だけでない、もっと大切な存在なのです。
言うつもりは全くないようですが・・・
ぜひお読みください。
今から10年前。
会いたくてたまらない、愛しくて仕方がない子の魂を受け継ぐ赤子に、何百年ぶりかに出会うことができた。
その日、ルノア国は世継ぎの誕生に国中がお祝いムードで、活気に溢れ花々が舞い散り大変美しい光景だった。
ルノアに子どもが産まれると、俺たち国を守護する神は祝福を与えるために赤子の元を訪れ、心からの祝福と加護を与えるのだが、今回はいつもと違った。
この度、王家に生まれた子どもは俺と同じ色を持つ光の魔力の継承者だったのだ。
継承者は今まで何人もいた。
けれども、今回は違った。
子どもの顔を見た瞬間、息が止まるかと思った。
『カレン・・・』
俺の隣で最愛の妻のフィーが息を呑み、愛しい息子の名前を無意識に呟いている声が聞こえた。
あれからもう何百年経つのだろう。
目の前のルノア王妃の腕の中で眠る赤子は、俺たちの初めての息子のカレンにそっくりだったのだから。
『ほんとにファーレンは泣き虫だなぁ。こんなんで王様になれんのか?!よしよし、泣くな』
フィーはなんだかんだ言いながら、ファーレンを大変に可愛がった。
まだ生まれたばかりの赤子は天界との繋がりが強いため、我々神が見える子が多い。
ファーレンは元々持って生まれた魔力量が高いため、神である俺たちを見ることができる。
大変な泣き虫でしょっちゅう泣いてばかりだったが、あやすと花が開くように笑い綺麗な翡翠の瞳はキラキラ輝くようだった。
今は、触れ合いができる。
子どもたちは物心が着く頃には俺たちのことが見えなくなり、存在を忘れてしまうのだ。
でも、継承者の彼がまた俺たちを認識できれば、存在に気づいてくれるようになるだろう。
それまで生きていたら・・・だけど。
ファーレンは本当によく泣く子だった。
ユーフォニアが息子を宥め、歌を歌ったり抱いて庭を散策したり、幸せな光景が広がっていた。
ジルベールも息子を大変に可愛がっていた。
しかし、生まれて1年が経とうとするころ、ファーレンが高熱をだして何日も目を覚さないことがあった。
王や王妃は熱で苦しむ我が子にどうすることもできずに、手を握り声を掛け、抱いてやることしかできずにいた。
それは昔の自分たちを見ているようで苦しくて辛かった。
人の力では気づくことができないであろう。
あの時の俺たちにもわからなかったのだから。
まさか小さな体に見合わない魔力量が、小さな命を脅かしているなんて、誰が気づけるだろう。
そう、俺たちの大切だったカレンと同じように・・・
俺たちの最初の子どもカレンは俺と全く同じ色を持ち、魔力量も高く神力も俺とよく似ていて高位の神と変わらないほどだった。
小さい時から体が弱かったが、とても優しい子で笑った顔が大変可愛い子だった。
俺とフィーミアは神界からこの世界に降り立ちルノアの王と王妃になった。
俺たちは地上に降りても神のままだったので、神の器をもったまま地上で暮らせたが、この世界に生まれた我が子は人として生まれた。
脆くか弱い人としての器に、神と同等の魔力と神力は強くまた大きすぎて、小さな体と魂は耐えることができず徐々に体を蝕んでいき、気づいた時には手遅れだった。
『とうさま、かあさま、ナターシャ。だいすき・・・』
そう言い残し、カレンはわずか5歳でこの世を去った。
優しいカレンは助けられない俺たちを恨むわけでなく、魔力が少なく生まれ元気に成長する妹を羨むこともなく、みんなに惜しみない愛情を残し、笑顔で逝ってしまった。
『神と呼ばれているのに、大切な者一人守れないないなんて。最愛のあの子を失うなんて・・・
』
息子を失ったフィーの悲しみは計り知れず、泣き暮らす日々が続いた。
何もできない自分の無力さに自信がなくなってきていたある日、娘のナターシャが室内を満たす暖かな光を見つめ、嬉しそうに笑い手を伸ばし、
『にーたま、ここにいたんですね』
と、嬉しそうに笑って言ったのだった。
あぁ、カレンおまえは変わらずここにいてくれたんだね。
優しい優しい温かな光となって俺たちのそばに居続けてくれたんだね。
涙が頬をつたい落ちる。
ナターシャを抱きしめ泣き崩れたフィーミアだったが、それからは明るさを取り戻し泣いてばかりではなくなった。
その後俺たちは、カレンを含めた7人の子どもたちと幸せに暮らした。
カレン意外に神の力を強く受け継ぐものは現れなかったため、全員健やかに成長し次男のアレンが二代目のルノア王になった。
子どもたちはルノアやその他の国に嫁くなどし、幸せに天寿をまっとうした。
そんな我が子たちを見送ってから、俺たちは天界には戻らずルノアを守り続ける神となる道を選んだ。
俺は光の神龍として。
フィーミアは花の精霊女王として。
何百年、いや何千年も見守り、何人もの継承者とも出会った。
そして、あの子と同じように強い力を持って生まれてしまった子孫のファーレンが生まれた。
今度こそ助ける。
同じ過ちはしないと、生まれた時から少しずつ魔力を解放させてきたが、それでは足りなかったようだ。
奪いすぎてもダメ。
残しすぎてもダメ。
難しい駆け引き・・・でも、なんとしても助ける。
部屋に収まる程度の龍の姿に戻り、ファーレンの額に鼻先をつけ、両翼を大きく広げて空間に光を分散させる。
金の体がいつも以上に輝き、部屋中に光が充満してしまうが、誰かが気づくわけでもないし構わないだろう。
溜まった力分を今回は強制的に解放させたが、これからはもう少し多めにゆっくり解放させていこう。
そう決め、龍の姿のまま大きさだけを小さくし、眠るファーレンの横に丸まって寄り添う。
今、フィーミアは先日生まれたばかりの自分の継承者であるアルメリアのそばに着いている。
こちらも力が強すぎるため、生まれたばかりなのに力を解放するのが大変だと言っていた。
一仕事を終えて疲れた羽根を休め瞳を閉じていたが、視線を感じてそっと目を開ける。
フィーミアが戻ったのかと思ったが、まさかルノア王妃のユーフォニアと目が合うとは思わなかった。
彼女は泣き腫らした目でしっかり俺を見つめ、深々とお辞儀をしたのだった。
人の形を模っている時には、赤子と継承者にしか見えないが、この黄金龍の時には彼女にも見えているとは分かっていた。
さすがは妖精に愛されし『妖精姫』だな。
いま、俺が何をしたのか理解したのだろう。
俺は少しだけ頷き目を閉じる。
この愛し子を、今度こそ守る。
カレンの魂のかけらを持って生まれてきた俺たちの子ども。
その時の記憶は思い出すことはないだろうし、思い出す必要もない。
それにこの子には別の大きな運命を引き連れて生まれてきたようだから、それだけで十分だろう。
幼いファーレンの頬に自分の頬を擦り寄せながらそう思った。
近い未来、5歳になる頃アルメリアの落馬の時にファーレンの中にある力をほぼ全部引き出し、俺の中に溜めたままにして返さなかったことで、悩ませてしまうことになるが、大きく成長し大人になるファーレンをみることができて本当に幸せだった。
カレン。
今度は幸せになれよ・・・と思いながら。
実はファーレンはコウインとフィーミア、神さまズの子どもの生まれ変わりでした。
でも、ファーレンには記憶はありませんし、彼らも言うつもりはありません。
蓮とカレンどっちが先の世だったのでしょうかね?!
私にもわかりません。
今回も読んでいただきありがとうございました。