思い出したくない前世の記憶と思い出した今世の記憶
長らくお待たせしました。
読んでいただけると嬉しいです。
あれから度々、神様ズは僕を試すように目の前に現れては、驚く僕の反応を楽しんでいた。
そして現れる時は、決まって誰かと一緒にいる時。
特にアメリーの前では、本当に楽しそうで僕が何かしでかさないかとワクワクしているのがわかる。
流石に今は現れすぎているので、驚きも減ってきた。
散々遊ばれてしまったが、本来僕は鉄壁のポーカーフェイスが得意なのだ。
長年培ってきた無表情を舐めてもらっては困る!
僕が自分たちの思っているような失態をしないようになってきた頃、やっと驚かすことに飽きてくれたようで、真面目に魔力の使い方のレクチャーを始めるようになってくれた。
『ファーレンは面白しみのない奴だなぁ〜』
もっと人生を楽しめ!と、言わんばかりのフィーミア様。
本当に人を驚かすことが好きなようだが、知らんぷりの僕にブツブツ言いながら、僕の顔を覗き込む。
神様だからやっぱり綺麗だよなぁ。
でも、それでもアメリーの可憐さには到底敵わないけどね。
僕の脳内なんてお見通しと言わんばかりの女神様は、隣にいる光の神にわざと泣きつくように抱きついた。
『コウ!酷いと思わない。私がこんなに可愛がっているのに、ファーレンったら知らんぷりよ!!それに私よりアルメリアの方が可愛いって惚気ちゃって。継承者として何か言ってやってよ!!』
泣き真似までしている。
でも、アメリーが一緒なんだから、何と言われようと僕は知らんぷりを決め込む。
『フィーが1番可愛いのは、俺だけが知ってるからね。フィーの可愛さが分からないファーレンなんか放っておけばいいのに、それができないフィーは優しいね』
と、こちらも奥さん大好きフィルターがかかっている神様は、よしよしなんて頭撫でて抱きしめている。
それを見せられている僕の気持ちも考えて欲しい。
「レン様?!どこか体調悪いんですか?なんだか、いつもと違いますわ」
きょとんと小首を傾げ『お疲れなのかしら』と、僕の心配をしてくれる僕の女神。
そう、こっちに集中しよう。
「大丈夫だよアメリー。ちょっと夢見が悪くてね。今朝は早く起きちゃったんだ・・・」
これはほんと。
昨日久しぶりに前世の夢を見た。
あまり思い出したくない結城蓮だった頃の、幼い時の記憶。
自分の腕で自分を抱きしめて守るように膝を抱え、冷たい床の上に座って帰ってこない家族をただ待つことしかできない、そんな無力な子供の頃の俺が暗闇の中で静かに泣いていた。
仕事人間だけど家族サービスを怠らない父とそれを支える良き妻、優しい母親を演じていた両親。
本当の二人は外に別の大切な人を作って、この広い家に帰ってくることなんてなかった。
俺たちは、形ばかりの親子だった。
僕を乳母に預けて帰って来ない両親。
でもその乳母も夕方には自宅に帰ってしまうので、それ以降は僕は一人で彼女が作っていった冷たくなったご飯を食べ、真っ暗な空間で自分よりも大きなうさぎのぬいぐるみを抱きしめて過ごす。
どうしてとうさまとかあさまは帰ってこないの?
僕のこと嫌いになっちゃった?
僕はいらない子だから、二人は帰ってきてくれないの?
誰かそばにいて・・・寂しいよ。
泣き喚くでもなく静かに泣く自分を前に、僕は何もできなく、ただ見守るしかできなかった。
手を伸ばすことができない。
伸ばしたって、前世は変えられない。
これは昔の僕の記憶なのだから。
今更どうにもできない。
大きな瞳からポロポロ涙を流し僕を見つめる小さな前世の俺を前に、僕はグッと唇を噛み締めた。
ごめんね、ごめんね。
何もしてあげられなくて、ごめん。
だって今の僕は・・・
あまりにも辛くて悲しい思いに、手を伸ばそうとして目が覚める。
夢と現実がごちゃ混ぜになって、一瞬ここがどこか分からなかったが、ここは僕の部屋だ。
周りをゆっくり見渡してほっと息を吐き出すと、急に頬を濡らす涙を感じて、自分が泣いていたことに気づく。
噛み締め過ぎた唇は切れ、血の味がした。
まだ夜明けは遠く夜の闇が世界を煽っている。
夜の暗闇が先ほどの悲しい闇を思い出しそうで僕は上掛けを頭から被ってギュッと目を瞑ったが、穏やかな眠りは訪れなかった。
「レン様・・・」
心配そうなアメリーの視線に大丈だよと笑って見せる。
そう、今の僕はとても幸せだから。
両親は僕のことをとても大切にしてくれて愛されていると自慢できるほどで、弟とも仲が良く家族関係は良好だ。
心からの友もいる。
ランバートやジン、リヤトたち城のみんな、家族以外の人たちも、僕のことを大切だと言ってくれている。
そして何より心から愛しいと大切だと思えるアメリーが、僕のそばにいてくれる。
でも、どうしよう。
また、心からの笑顔が分からなくなってしまって、上手に笑えなくなってしまった。
心配するアメリーに笑って安心させたいのに、笑顔の作り方がわからなかった頃のようになってしまう。
ごめんね、前世の僕。
今は本当に幸せなんだ。
来世は幸せになれるから、大切な人たちに囲まれて過ごせるから。
だから、助けてあげられなくて・・・ごめんなさい。
ふわっと優しい感触に、ハッとして振り返る。
優しい表情の神様たちが、僕を抱きしめ何も言わずに頭を撫でてくれていた。
ぼくは、このてをしっている!?
ふわっと頭に流れてきたビジョンは知らないはずなのに、とてもよく知っているもの。
『本当に可愛いね今度の継承者くんは。それにすっごく泣き虫だなぁ。あぁ、可愛くて仕方ない。ふふふ、可愛い、可愛いファーレン。早くコウを認識しておくれ。愛してるよ、ファーレン。元気で大きくなれ』
『大丈夫、大丈夫。そばにいるよ』
『笑っていいんだよ。そんなに頑張らなくていいのに・・・』
『みんなを頼れ。一人で背負い込むな。そんな辛い顔をしないでくれ』
『何も出来なくてごめんね、ごめんね。愛しているよファーレン』
涙が知らずに流れる。
この世界に生まれたその時から、僕はこの神たちに愛されていたのだ。
幼すぎて覚えていない、知らないはずの僕の記憶だ。
その二人の優しさに溢れた眼差しと、心からの愛情を感じてしまい涙が溢れてしまった。
「レ、レン様!!どうしました?!」
僕の涙にオロオロしだすアメリーに、大丈夫だよと泣き笑いで伝える。
そうか、こうやって笑うんだった。
泣き笑いの僕にますます顔を青ざめたアメリーは、ギュッと神たちと一緒に僕のことを抱きしめてくれた。
「私はここにおります。だから、もう泣かないで・・・」
困ったように心配するような眼差しに、僕の涙はますます止まらなくなりアメリーを強く強く抱きしめて泣いた。
縋り付くように抱きつく僕をアメリーは優しく抱きしめ、何も言わずに背中を優しくぽんぽんとあやすように叩いてくれた。
どうしようもない僕だけど、みんなに愛された心が記憶がたくさんあるから、これからそれに負けないくらい君のことを愛するから。
だから、絶対に離れないでください。
僕は君しかいらないから・・・
蓮と莉愛は同じような境遇の子どもでした。
莉愛には大切に守り彼女を愛してくれた祖父母がいましたが、海外で暮らしていた蓮には誰もそばにいませんでした。
仮面夫婦でしたが、結城家の後継としての最高の教育を受けさせてはくれたので、蓮はかなり優秀な成績でしたが、それを褒めてくれる人もいないので本人は何とも思っていませんでした。
だから、大人になっても家族というものに憧れはなくあまり良い印象の無かった蓮でしたが、受付に立つ莉愛が職場に戻るたびに、嘘のない笑顔と優しい眼差しで「おかえりなさい」と言ってくれる言葉に安らぎを感じていました。
かなりのイケメンで高学歴、高収入のため大変モテていたので女性とのお付き合いもそれなりでしたが、初めは何も感じなかった「おかえりなさい」と自分を迎え入れてくれた言葉を素直に受け入れられた瞬間、蓮は莉愛に初めて自分から恋しました。
28歳の初恋だったのです。
初めての本当の恋に蓮は執着し、それから一生離せないほどこの先(来世まで)の人生全てを手に入れてしまうくらいの思いでした。
相手が受け入れてくれたので良かったですが、中々の粘着質の重い重い愛ですね。