僕のチカラ
湖面は穏やかに凪いでいる。
そして優しい夕方の穏やかな光が湖面をうっすら赤く染め出していた。
(もう夕方か・・・)
ここに来てどれくらいが経つのだろう。
午後のティータイム前に城を出てきたのだから、さほど時間は経ってないだろう。
キース待たせているけど怒ってないかな?
そういばランバートいないなぁ、心配してるかな?
早く帰らないと怒られちゃうよね。
それに探しているよね。
なんて、心の中だけでも現実逃避させてほしい。
なぜなら、今僕はギュウギュウ僕を抱きしめ、可愛い!可愛い〜!!と頭を撫でくりまわす花の女神にほとほと困り果てていたのだから。
何ど言ってもやめてもらえない『可愛い攻撃』は・・・もう好きにしてくださいと白旗をあげて諦めた。
そんな女神をうちの奥さんはかわいいねと蕩けるような笑顔で見つめる光の神。
これが我が国の神かぁ。
ルノアは平和とよく言われるけど、この二人の神がいるおかげなのかもしれないと納得できる。
戦さや争いを好む神ではなく、愛に溢れた神が守る国。
しかし、愛が重すぎて僕は大きなため息をつくしかなかった。
『さぁ、フィー。そろそろ僕の時間が無くなってきたから、少しファーレンと話をさせてね』
そっと女神の手に触れ僕から引き剥がすと、僕の隣に並んで座った。
『どれくらい分かっている?』
「分かってる?って・・・」
『あ〜ごめんね。言い方変えていい?どれくらい感じてる?』
感じてるかぁと呟き考えてみる。
「えっと・・・あなたからは僕と同じ力を感じます。女神様からはアメリーと同じ力を感じます。そして、あなたの力はとても強くて、眩しいくらいなのに僕の魔力は灯火程度です。あれから力が戻っていないことが関係していると思うのですがこれでは力不足です。継承者が王族ということなら、僕には弟のエリシオンがいます。あの子の方が力があるかと思うのですが?!」
『魔力量のことを心配しているの?今のファーレンはほんのちょっとしか持ってないよね。だって返してないもん』
「はっ?」
『うん、だから君の魔力ね。あの事故から返してないから君が魔法を使えるわけないんだよね。それに王族なら誰でもいいわけじゃなくて、ちゃんと継承者の印があるんだよ』
ぽかん、と空いた口が塞がらない。
魔力を返してないってどういうこと?!
継承者の印って?!
『ファーレンの持っていた力は君の小さな体では制御しきれないほど膨大で強すぎて、いつか自分自身を壊してしまうほどだった。赤ん坊の頃からそばにいて少しずつ解放していたけど、成長すると共に魔力も増えとてもじゃないけど間に合わないくらいだった』
『そんな時ちょうどいいタイミングって言ったらファーレン絶対怒るだろうけど、アルメリアが命の危険に晒された。そこでファーレンの力を引き出して僕が使わせてもらったんだ』
こんな好機を見逃す手はなかったのだと光の神は言う。
好機ってなんだよ。
助けてもらってよかったけど、アメリーの命を僕の力を使うために利用したの?!
僕が壊れないように、力を使ったっていうの?!
神は人じゃないから、こんなこと思わないのかもしれないし、心の葛藤とかないのかもしれない。
仕方ないのかもしれないけど、そんなの、そんなの受け入れられない。
『ファーレン?』
「僕は、僕のためにアメリーをあんな目に合わせてしまったの?!」
ハッとしたような表情をしてから、優しく光の神コウインは僕を抱きしめてくれた。
『ごめんね。僕たち神はやっぱり君たちの思いとかを理解するのは難しいかもしれない。合理的に考えてしまうことの方が多い。みんなが幸せであるようにってね』
『だから、アルメリアをいいように使ったのは僕。君はそんなことできないでしょ。僕もこれがフィーミアだったら、そんなこと冷静に出来なかっただろうしね』
(それにアルメリアはフィーの大事な・・・だから死ぬわけないって知ってたしね)
これは言えないけどね。
心の中でコウインはそっと呟いていた。
『継承者の印は僕たち神と同じ色を持って生まれてくる。だから、僕の継承者はファーレン、君以外ありえないんだよ。魔力は少しずつ返していくからね』
「同じ色って?じゃあアメリーは?!」
『ふふふ、そういうこと。でも、それは言ってはダメよ。これは自分で気づいて納得することが大切だから』
白詰草で花冠を編んでいた花の女神が僕を見てウインクし、僕の頭に花冠をのせてくれた。