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婚約破棄をしてください

「自分の気持ちはちゃんと話すんだな」


なんて言って、レン様との間で、私を隠してくれていたカイ兄様が屋敷の方に戻られてしまう。


うらぎりもの~~~!!置いていかないで!!


目の前が開けてレン様とばっちり目が合ってしまい、ふいっと目をそらしてしまう。

そんな私を気にせず東屋に入ってきたレン様は、私の横に座る。

その動作の無駄のないこと。


「アメリー、体の具合は大丈夫?」


ちょっと小首をかしげ覗き込んでくる表情はまるで子犬のよう・・・わざとだ。絶対わざとやってる!

顔が赤くなるのを感じながら、目をそらし小さくうなずくしかできない。

自分の中にある想いを再認識してしまったことで、どうしたらいいか分からなかったけど、今日ゆっくり考える時間が出来たことで決めたことがある。


「レン様。・・・婚約を破棄していただけませんか」


「ヤダ!」


「!!」


私の一世一代の告白を即答で却下し、長い足を組みなおしながらじっと見つめてくる表情は、先ほどの可愛さなんて微塵も感じない。


「婚約破棄はゆるさない。誰かに何か言われたのか」


私の頬に手を添え、目をそらすなと言わんばかりに見つめてくる。

深い翠の瞳は心の中まで見透かすような力を感じ、ゾックとするほど恐怖を感じる。

それは凄く怒ったときにしか感じたことが無い雰囲気だ。

あぁ、やっぱりこの人は王太子なんだ。

まとう高貴な雰囲気と人を威圧する力。

いっぱい泣いて、もう出なくなったと思っていた涙がにじみ出てくる。


「だ、誰にも何も言われてません。昨日まで、婚約していたことをすっかり忘れていたんです。みんなに聞いて思い出したんですが、私には王太子妃なんて身に余ることで、勤まるとは・・・」


「・・・はぁ。忘れてたって、どういうこと」


まだ怒っている口調と雰囲気と裏腹に、目じりに溜まった涙をそっと拭ってくれる手はとてもやさしい。

その優しさに余計に涙が出て来る。


「だって・・・」


「ん・・・」


「覚えてなかったんだもん。知らなかったんだもん。私じゃないのに・・・」


涙がぼろぼろ出てきてしまう。

だって私じゃないから、レン様の運命の相手は。


ばか、ばか、優しくするな~


泣きじゃくる私を困ったように抱きしめて、背中をぽんぽんなだめるように叩いてくれる。


「泣くなよ。アメリーに泣かれるのが一番辛いんだから」


この世界にきてからこんなに泣いたことはないかもしれない。

子どもみたいにわんわん泣く私を、レン様は泣き止むまでずっと優しく抱きしめてくれた。

その優しが余計に辛くて、中々涙が止まらなかった。



たくさん泣いた私の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。

そんな私の顔を優しい顔で見つめながら、レン様はハンカチで拭いてくれるが、そんなレン様の服も私の流したものでぐちゃぐちゃになってしまった。


「も、申し訳ありません。今すぐ代わりのものを・・・」


「いやいい」


慌てて離れようとする私を止めると、上着を脱ぎ私を抱え治すようにまた抱きしめる。


「こうすれば冷たくないだろう」


ワイシャツの薄い布越しにレン様の温かさを感じ、顔が赤くなるのを感じながら小さくうなずき、されるがまま静かに目を閉じた。


「忘れられていたことには驚いたし、ちょっとショックだったな。泣くほど嫌われているとも思っていなかったしね。でも・・・」


私を抱きしめる腕に少し力が入る。


「どんなに泣かれても、どんなに嫌われても、婚約破棄はしてあげない。俺のそばから離れることは絶対にゆるさない」


「レン様、その言い方悪者みたい・・・それに、いつか後悔しますよ」


「なんで?するわけないじゃん」


にやっと笑った表情といつもと違った砕けた口ぶりに、ぐずぐずしていた涙も止まる。


「後悔なんてしないし、させないから、もう婚約破棄なって絶対言うなよ。でないと・・・・・」


「え?なんですか?」


「何でもない。二度と言わなきゃいいんだよ」


最後に残った涙がぽろっと頬を伝うのを、優しく口で受け止める仕草にはっと我に返る。


「も、申し訳ありません。取り乱してしまいました。だ、大丈夫ですので、手を離し下さいませんか」


「え~やだ~。それにそのしゃべり方、誰もいないんだから昔みたいに普通にしゃべってほしいな~。それに俺は誰だっけ?」


「・・・レン・・・」


上目遣いに見上げる赤い顔の私に、満足そうに笑ったレンは私の額にキスを一つ落としてくれた。



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