ピンクの呪縛(アルメリア視点)
本編で無かったお話なのでアルメリア視点を書いてみました。
久しぶりに泣き虫なアルメリアです。
花祭りは大好きだった。
祭りの間は普段以上に花が街中に咲き乱れ、とっても可愛くて綺麗で、何より街中の人が笑顔に溢れみんなが幸せいっぱいで楽しい雰囲気で満ちている。
そして祭りの初日には、父様と母様のいらっしゃる神殿から溢れる金の光と銀の光が綺麗で幻想的で、優しくて暖かい。
可愛くて綺麗で、優しくて暖かい。
なんて幸せなお祭りだろう。
でも。
でもあの日。
前世の記憶が戻ってから、彼と彼女が手を取り合う未来の花祭りが、怖くて怖くてたまらなくなった。
私のことを今は大切にしてくれているけど、未来ではきっと捨てられる・・・
そう思うということは、その頃にはもうレンが特別な存在だったのだろうけど、大切な幼馴染って思おうとしていたのだから・・・
花祭りが段々怖くなり、一緒に楽しめなくなり、そして怖くて悲しくて部屋から出られなくなってしまった。
王妃様は私が何にそんなに怯えて怖がっているのかは分かってないはずなのに、
「大丈夫。花祭りは誰もが幸せになれるお祭りよ。毎年アルメリアちゃんが幸せになれるように私からプレゼントを送るからね」
「女の子は誰でも誰かの大切なお姫様なのよ」
「ごめんね。(愛が)重すぎる息子で」
最後は何のこと言っているか分からなかったけど、たくさん励まされ、そして毎年レンとお揃いの服をプレゼントしてくれる。
彼がお揃いの服を着て迎えにきてくれるうちはきっと大丈夫だと・・・
本当は花祭りの服を着て、自分から玄関で待って出迎えたいのに、心からレンを信じられない私は部屋に迎えに来てくれるまで、怖くて部屋から一歩も出ることができないのだ。
そして、
レンは今年も迎えに来てくれた!
今年の花祭りも、同じ色のお揃いの服を着たレンが部屋まで迎えに来てくれた。
凄く嬉しい!!
「キース!!」
外に出るとキースが待っていて余計に嬉しくなり、駆け寄って抱きつく。
他の馬はそばに行くことさえ恐怖で出来ないけど、キースだけは特別だ。
それに。
「キース!今年もレンが迎えに来てくれたよ!・・・ありがとう、連れて来てくれて・・・」
キースの立て髪を撫で顔を寄せそっと呟く。
毎年1番にキースに感謝を伝えている。
『ブルルル』
とキースが優しく鳴いて私の頬に擦り寄って来てくれるのが、本当に嬉しかった。
キースの暖かさが、これを現実だと教えてくれるようで、余計に私も頬を寄せてしまう。
が、すぐにそれは後ろから回された腕に体を引っ張られて邪魔をされてしまう。
「ほら、そんなことしていたら祭りを楽しむ時間が無くなっちゃうからさっさと行くよ」
そう言ってキースの背に私を横座りで乗せ、その後ろにひらりと自分が乗って体を支えてくれる。
(本当にかっこいいなぁ〜)
王子様風のエスコートにドキドキしてしまう。(あ!本物の王子様だったっけ)
心の中で悶え苦しんでいることを、表に見せず頑張ることができたと思いたい。
そんな私たちを笑いを堪えたランバート様が見ていて、陛下と母様に教えて笑い話にされるなんて、思ってもいなかったのだけど。
思っている以上に花祭りの飾りでいっぱいの街中は綺麗で可愛くて、さっきまでの憂鬱な気分を吹き飛ばした。
「うわ〜ー!!どこもとっても綺麗!レン・・・レーン、このお花とっても可愛らしいですよ!!」
慌てて街中での呼び方に言い換える。
慣れないから言い間違えちゃうと、赤面してしまう。
露店のお兄さんにお花をもらったり、花を売っている女の子からお花を買ったりしながら、レンと手を繋いで露天を回る。
食べ歩きなんて普段できない私たちだけど、花祭りだけは特別だ!
丸いドーナツを分け合って頬張り、花茶ソーダーを飲み、他に美味しいものはないか店を除く。
そんな時、一軒の露天に目を奪われてしまう。
「レーン。あのお店を見てもいいですか?!」
私の大好きが詰まったような可愛らしいお店で、動物の置物やポーチ、お花の刺繍がされたケープなどが並べられているお店が気になり、レンに許しを貰う。
「僕のことは気にせずゆっくり見て」
にっこり優しく笑って、私がゆっくり見れるよう少し離れて待っていてくれる。
「ありがとう」
私も微笑むと店のものをゆっくりと見る。
このうさぎの刺繍がとても可愛いポーチ!
色もうさぎの表情もとっても好みだから、どうしようかな?買っちゃおうかな〜?!
と、思い悩んでいる時、ふっと後ろのレンが気になり振り返った。
「 ・・・ レ ン 」
こちらを向かず誰かと話をしている彼の背中。
そして、その背の影から見え隠れするピンクの色の髪。
あの色は聖女候補に現れる色で、そして
ヒロインの持つ色・・・
カタカタと体が震えるのが分かるが、止めることができなかった。
怖い、怖い、怖い・・・
涙も溢れて来てしまい、頬をポロポロ流れていく。
露店のお姉さんが心配そうに声をかけてくれたことで、体を動かすことができた私は、
「ごめんなさい。大丈夫です」
やっとそう言うことができた。
そしてこれ以上レンを見ることができず、彼に背を向け反対側にあった小さな路地に向かって走り出した。
(もう、見たくない・・・)
ここから逃げる。
これが今できる最善の方法としか思いつかなかった。
路地を走りいくつも曲がり角を曲がり、今自分がどこにいるのか全く分からなくなってきたころ、路地が行き止まりになってしまい足が止まる。
そしてその場でうずくまって嗚咽を漏らしながら泣きじゃくってしまったのだ。
何がこんなに怖いのか。
悲しいのか。
寂しいのか・・・
何が何だかわからない。
ぐちゃぐちゃの気持ちと、涙だけが溢れて来て止まらず、もうどうしたらいいか分からない。
しばらく膝を抱えて泣いていると、私の頭からそっと優しくマントが被せられ、包み込むように抱きしめてくれる人が現れ驚いて涙が止まる。
「大丈夫だよ、姫様。殿下は浮気なんてしてないから安心して。大丈夫!大丈夫だから・・・」
「リ ヤ ト さ ん?」
顔を上げるとレンの元護衛のリヤトさんが、私を優しく抱きしめてくれていた。
「リヤ ト さん。 引退 したんじ ゃない の?」
言葉に詰まりながら、やっと言うことができた。
「うん俺ももう歳だしね。殿下の護衛はもう無理だから、ジンに任せて引退したよ。で、今は姫様の護衛なんだ」
私、そんなこと聞いてない!知らないよ?!
驚いて涙が止まってしまったが、優しく抱きしめてくれる腕に安心して、止まった涙がまた流れ出してしまう。
よしよし・・・
と、頭を撫でられ優しく『大丈夫』なんて言われるとポロポロと流れる涙が止まらなくなり、リヤトさんの首に抱きついてしまう。
しばらくそうやって泣いていると、
「アメリー!!」
自分を呼ぶレンの声に顔を上げると、路地の奥から焦ったように駆けてくるレンが見えた。
やだ!会いたくない!!
リヤトさんの肩口に顔を埋めレンの方を見たくないと首を振り拒絶する。
すると、
「姫様、逃げちゃおか!?」
ぽつりとリヤトさんはそう言うと、私を軽々と抱き上げレンに背を向けたまま屋根の上に飛び上がり、屋根の上を走り出した。
「アメリー!!待て!アメリーを返せ!!!!」
ギュッと目を瞑りリヤトさんにしがみ付く。
私が目を合わせず抱かれている相手にしがみついているのが気に入らないレンは、怒った声とともに炎の渦を手の平から出すとこちらに向けて放った。
もちろん数年前まで王家の影だったリヤトさんに当たるわけはなく、ひらりと交わしたリヤトさんはくすくす笑っていて何だか楽しそうだった。
「愛が重いくせに相手を不安にさせるなんて殿下もまだまだお子ちゃまだよな。たまにはお灸を据えないとね」
多分私を抱いている人がリヤトさんとは気づいてないと思う。
怒って叫ぶレンを揶揄うように屋根を飛び回り、リヤトさんは私を抱き上げ、高台方面に向かって走って行くのだった。
アルメリアに逃げられてしまったファーレンですが、側から見れば誘拐されたとしか見えませんね。
なんせファーレンには心当たりが全く無いのに、浮気者扱いですからね。
次はファーレン視点に戻りますので、次こそはしっかりアルメリアを捕まえてもらいましょう。




