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転生モブ令嬢の幼なじみはヒロインを御所望中  作者: いちご
本編・花祭り編レン視点(表記なしレン視点・その他視点名前入りであり)
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花祭りの花


「キース!!久しぶり、元気だった」


嬉しそうにキースに駆け寄り、鼻すじを優しく撫でて顔を寄せて笑うアメリー。


すごくかわいい!

なのに、なんだろう。

その笑顔に、


(さっきまで出かけるのを散々渋って部屋から出てこなっかったくせに)


なんていう複雑な思いが口から出そうになる。


アメリーは元々動物が好きだ。

しかしあの事故以来馬が苦手になり、そばに近づくことができなくなってしまった。

少しずつ僕とリハビリを重ね、無理なくキースと触れ合ったことで、唯一触れられるキースだけを可愛がるからこの頃は心がモヤモヤしてしまう。

それになんだか僕より会うことを喜んでいるように見えるのが余計に癪に障る。


そんな僕に鼻の穴を膨らませ勝ち誇ったようなキースの視線が『ご主人様、心が狭すぎですよ』なんて言っているような気がするのは気のせいだろうか。

何だろう、この敗北感・・・

知らずに口からため息が出てしまう。


しかしいつまでもこの様子を見ているのが嫌だったので、


「ほら、そんなことしていたら祭りを楽しむ時間が無くなっちゃうからさっさと行くよ」


キースの鼻先に頬ずりしているアメリーを引きはがすと僕はアメリーを持ち上げキースに乗せ、その後ろに僕も乗り彼女の体をささえる。


「キース、アメリーが乗ってるからいつも以上に優しくね」


念を押す僕にやれやれと言わんばかりに鼻を鳴らしキースはゆっくり歩きだした。

そんな僕らの様子を笑いをかみ殺したランバートが楽しそうに見ていたことを、後から父上にからかわれたことで知るのだった。




街に着くとキースを騎士の詰め所に預け、アメリーの右手を左手でしっかり握って花祭りで装飾された町の中を歩く。

ここから先は馬は街に入ることができないのだ。


「うわ〜ー!!どこもとっても綺麗!レン・・・レーン、このお花とっても可愛らしいですよ!!」


ここでの呼び名を間違え、慌てて言い換え『間違えちゃった〜』なんて呟いて照れ笑いする。


く〜!

可愛すぎるだろ・・・


アメリーのあまりにも可愛すぎる照れ笑いを脳内に封印し、僕は表面上変わりなく接することに徹したのだった。


花祭りの間は、祭りの名前通り街中が花で溢れる。

色とりどりの花々が花壇を彩り、色々な種類の花が美しく軒先や街中に並べられている。

どの家の花もとても綺麗に咲いていて、この日を楽しみに育ててきたことが伺えた。

花の趣味や各家庭の好みなどが花や花の色に見られ、花々を見て歩くだけでも楽しい。

また、趣向を凝らした素敵な飾りつけや、リースやリボンなどの装飾で街中色鮮やかで美しいと感じる。


「お嬢ちゃん。その花気に入ってくれたのか!?じゃあ・・・」


露店の準備をしていたお兄さんはそう言うと、アメリーにその花を何本か切り取り『花祭りおめでとう』と言って花を分けてくれた。


「ありがとうございます」


「おう!えらいな、ちゃんとお礼が言えて。この花はな、俺のかあちゃんの故郷の国の花でここよりもっと南の暑いとこで咲く『ポーチュラカ』っていう花なんだ。庭の温室でかあちゃんが大事に育てたんだ」


笑ってそのお兄さんがアメリーの頭を撫でようとしたのか手を伸ばしてきたので、僕はその手を払いのける。

そして、僕のアメリーに触れるな!と目で言わんばかりに睨みつける。

払いのけられた手に彼は一瞬驚いたが、すぐに声をあげて笑い出した。


「姫様を守るナイトは大変だな。じゃあにいちゃんにもこれを。花祭りおめでとう!」


そう愉快そうに言うと、彼は僕にも一輪のポーチュラカを差し出した。


「僕の方こそ手を叩いてしまってごめんなさい。花祭りおめでとうございます」


と言って花を受け取り胸のポケットに入れた。

アメリーの貰った花は編み上げた髪に刺してあげる。

花祭りでは気に入った相手や家族、恋人に花を贈る風習がある。

毎年街中で貰った花は、アメリーの髪を飾るように刺してあげている。


「ポーチュラカの花言葉は『いつも元気』『無邪気』。2人も元気に花祭りを楽しんでな!」


笑顔で見送ってくれるお兄さんに手を振ると、僕たちは祭りの散策を再開した。




あの後僕たちは色々な露店を見て回った。

小さな丸いドーナツが串に刺さったものや、お肉の串焼き、いちごに粉砂糖がかけられたものなど、食べ歩きができるものがたくさんある。


「これ見たことありませんわ。あ!これも!!レーンどれにしましょう」


こんな時でしか食べ歩きができない僕たちにとって、新鮮で楽しい経験だ。

僕も毒味無く食べているが、ランバートは見逃してくれている。


今日は楽しい祭りだということと、僕の体も大きくなり日々の努力により毒の耐性がだいぶついてきているからだろう。

あとなんだか不穏なものは、これは危ないと感じることができるようにもなってきた。

そう、なんとなくだから完璧では無く、先日父上の不意打ちにやられてしまい一日寝込んでしまったのは、アメリーには内緒にしている。


僕は毒の耐性をつけるために定期的に毒を飲んでいる。

まだ体に適応できずに倒れてしまうものもあり、昔倒れて意識がない時にアメリーが登城してしまったことがあった。

寝込んで苦しむ僕を見て、ベットのそばで僕の手を握りしめて目が覚めるまでの半日、ずっと泣きながら目を覚ますのを待っていてくれた。

僕が目を覚ますと安心してもっと泣き出してしまい、まだ指一本動かすことさえ億劫で、ぼーっとしている僕の方が驚き内心大慌てだったことを思い出す。


「分かってるんです。これからレン様が大人になるために王様になるために必要なことだって。  でも・・・」


拭っても拭っても溢れる涙を流しながら、アメリーはハッキリと、


「それでも、レン様が苦しむのはやっぱり嫌なんです!!」


意志の強いアメリーの瞳に見惚れてしまった。


「苦しいのに何もできなくてごめんなさい。ごめんなさい」


消え入りそうな声で言い涙が止まらないアメリー。

まだ舌が痺れて言葉を出せない僕はやっと動かせる指先をそっと動かしてアメリーの手を緩く握ると、顔を上げたアメリーと目が合う。


(大丈夫)


やっとそれだけ伝えられた。


その後もしばらく涙が止まらないアメリーに、僕は二度とこんな姿をアメリーには見せ無いと心に誓い、内緒にしながら僕の毒への対応は続いている。

多分アメリーはまだ僕が毒を飲んでいることを分かっているけど、それについて触れてくることはない。


だから、今日は僕の第六感を働かせながら一緒に食べ歩きを楽しみたかったのだ。



「レーン様。申し訳ありません。あちらの騎士から言伝を聞いてこなくてはいけなくなりました。この場を少し離れますが、ジンがそばにいます。何かありましたらジンに声をかけてください」


「分かった」


そっとランバートが耳打ちすると、僕のそばを離れる。

こんな人通りの多いところで何も起きないだろう。

そう。

僕はだいぶ油断していたのだと後から、自分を責めてしまうほど後悔するのだった。




「レーン。あのお店を見てもいいですか?!」


可愛らしい小物が並ぶ露店を見つけたアメリーは嬉しそうに店を覗いている。

少し離れたとこから、その様子を見守っていた。


その時、


「あの・・・」


後ろから女の子の声がしたので僕はその声の方に振り返った。

ピンクの髪を二つに結いあげた、とても可愛らしいのだろうと思われる同じ年頃の女の子が申し訳なさそうに眉を寄せていた。

僕の最愛で可愛いのはアメリーただ一人だから、どの子もみんな可愛らしいとしか感じることができない。


いつもはそうだ、なのにこの子はちょっと他の子の可愛らしいとは、少しだけ違うような気がする・・・

なんでだろう??

 

「どうかした?」


「知り合いと迷っちゃって、探すの」


ん?なんかこの子、言葉がおかしい?


「どうかした?」


「?」


大陸公用語は分からないか。

なら。


「どうかした?」


「うわ〜!!あなた東国語話せるの!!」


これが正解だったみたいだ。

東国からの旅行者なのだろう

でも、東国には珍しい髪の色だなぁとしげしげと眺める。


「あのね、ユウと逸れちゃったの。迷子になったら中央広場の噴水で待ち合わせって言われてたんだけど、誰も東国語分からなくて場所が聞けなくて。中央広場ってどうやって行くの?」


僕はこの道をまっすぐに行ったところにあることを伝えるとその子は嬉しそうに笑い『ありがとう』と言って駆けて行ってしまった。

去って行く後ろ姿になんだかちょっと残念なような、とても不思議な気持ちがする。

その背を見送っていると、向こうから慌てたように駆けてきた茶色の髪の男の子が、その子を見つけて手を振っていた。


あれは?!


そうか、ユウヤ殿下が連れてきた子だったのか。

女の子がこちらを指を差していることで、彼と目が合うと驚いたような表情をし会釈をするが、牽制するような威嚇するような強い瞳でこちらを睨むと、その子の手を握って人々の流れの中に姿を消してしまった。


僕への敵対する視線に驚いたが、あの子のことが大切なんだろうと感じる。

僕もアメリーがユウヤ殿下のことをあんな風に嬉しそうに話していたら同じように嫉妬して睨みつけてしまうだろうから。


ふっと、アメリーがそばにいないことを思い出し、小物が並ぶ露店に目を向けるが、そこには誰もいなくアメリーの姿は消えていたのだった。


「アメリー!」


周りを見回しても、どこにもいない。

どこに行ってしまったんだ!!


「アメリー!!!」



誤字のお知らせありがとうございます。

毎回読み返しているのに、全然違う字に気付かないなんて、本当にダメですね。

本当にありがとうございます。


さて、今回は本編を書いている時にふと思っていたお話し、


もし、無自覚にヒーローが正ヒロインに会っていたら?という話です。


ファーレンにとってアルメリアはただ一人の唯一無二の大切な人ですが、魂の中に刻まれた乙女ゲームの因子ってどこかに残っているはずだなぁと。

本編では相手がやる気だったので頑張って争いましたが、この時の正ヒロインには大切なな人がいたので、何も起こりませんでした。

物覚えのいいファーレンがこの子のことを忘れてしまったのは、この時消えてしまったアルメリアの事が心配できれいさっぱり忘れてしまいます。

やっぱりファーレンにはアルメリア一筋でいてほしいのでね。


では、次回は消えたアルメリアの行方となぜ消えてしまったのでしょう!


出来るだけ早く仕上げたいと思っていますので、また覗きにきていただけると嬉しいです。


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