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転生モブ令嬢の幼なじみはヒロインを御所望中  作者: いちご
本編・花祭り編レン視点(表記なしレン視点・その他視点名前入りであり)
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恋敵は兄上様?!

少しずつ僕への遠慮が無くなっていくアメリーに安心するが、時折寂しそうな悲しそうな、そして諦めたような表情をするときがある。

寸前まで楽しそうに喜んで笑っていたのが、何かを思い出しかのように一瞬で顔を曇らせると、次に困ったように泣きそうに笑うのだ。

なにがそんなに不安なのか聞いたことがあったが、


「ううん。なんでもないよ・・・レン様は忘れちゃうのかな?!・・・だめだめ」


などぼそぼそ呟きはぐらかされてしまう。


アメリーの何を忘れるというのだろう?なんならアメリーの側に一生いるつもりだし。

何度か聞いて分かったことは、何かを隠しているけど話す気が無いっていうこと。

多分、絶対に話さないだろう。

そういうところ、結構頑固なんだよなぁ。

アメリーと婚約して3年目。

お互いの家を行き来し、側にいることが多いだけによく分かってしまう。


「アメリー、困ったことがあったらすぐに言うんだよ」


うんうんと頷くアメリー。

でもギリギリまで教えてくれることはないだろう。

分かっているだけに、僕はそっとため息をつくしかなかった。




ある日の午後、父上に呼ばれて国王陛下の執務室に入室する。

父上は忙しそうに自分の従者とジュロームの父君の宰相閣下と話をしていたが、僕の入室に気づくと目でソファの方を向いて座って待つよう伝えてきた。

僕にはわかるからいいけど、みんなにこれをしているのかな?

まぁ、近しい人はわかってるんだろうけどね。


「殿下。お越しいただいたのに申し訳ございません。急な案件が出たようでございます。こちらをお飲みになってお待ちください」


すっと、オレンジジュースを出してくれたのが、父上付きの執事のシュラダンだ。

お礼を言って僕はそのジュースを飲む。

酸味が強いがすっきりしていて、とても飲みやすい。

おいしいなぁ~と飲みながら、そっと父上たちの様子を見る。

父上は机の上にある書類を見ながらこれをどうするべきだや、これはどういう意味だ等聞くたびに、詳細が詳しく載っていると思われる書類や本をさっと差し出す宰相閣下。

すっと消えたと思ったら、資料を持ち詳しく分かる関係者を連れてくる従者。

すべての人が自分のやるべきことを行い、円滑に進めるために努力しているのがよくわかる。

凄い!

前世があるからこそ気付くことができるが、素晴らしいチームだと感じる。

話の内容は不勉強の僕には分からないが、どこかの地方の麦の不作の原因が分かってきたということでそれに対する対策を早急に行う必要があり、それには国王の承認がいるようだ。


しかし・・・


王太子でまだまだ5歳の子どもだといっても、これって農業とはいえ国政についての話だよな。

僕に聞かせていいものなのだろうか?!

子どもの僕に理解できないと思っているのか?それともわざと聞かせているのか?

父上を伺い見るがその表情からはなにもよめない。

やっぱり父上は分からない・・・


ズズズーッ


ジュースを飲み干しテーブルにグラスを置く。

シュラダンにおかわりを聞かれるが、もう十分だし多分父上たちの話も終わりそうなのでやんわり断る。

話を終え指示を出した父上が、僕のいるソファの方に来て目の前に座る。

シュラダンがすぐに父上の前に紅茶を出し僕にもオレンジジュースを出すと、『私もこれで失礼いたします』と言い執務室から出て行き、部屋には父上と僕の二人だけになった。



「待たせたな。で、お前はどう思った?!」


「えっ!?どうとは?」


「麦の不作についてだ」


やっぱりわざと聞かせていたのか。

心の中でため息をつきちょっと考える。


「不勉強のため不作地域がどの方角かが分からないですが、土に混ぜると言っていた薬草の名前をお聞きすると土の温度低下が原因かと思いましたので、北方面なのかと思いました。また北部の雨季時の雨不足も一因かと思われますので、水源確保も必要かと感じましたが・・・どうでしょうか?」


にやっと笑い『ムサナーラはグリータリア皇国との国境の町だ』と、父上は嬉しそうな表情の中にちょっと複雑そうな色をにじませながら教えてくれた。

後で国土の地図を見ておこうと思う。


「よく薬草の名前を知っていたな。それに、今の我々の会話では北部の雨季の雨不足については話しはなかったと思うが」


「先日ジュロームに聞きました」


「凄いなぁ。お前もジュロームも。まぁ、今ファーレンが言っていたことでほぼ正解だ」


僕の答えに満足そうにすると、紅茶を飲み一息つくように大きく伸びをする。


「成長するのが楽しみだ。早くファーレンに王位譲ってユーフォと隠居生活したいなぁ~」


「父上。僕はまだ5歳です。当分先ですよ」


分かっているって、と言って笑う父上は楽しそうだった。


「父上、僕を呼んだのはこれを聞かせるためですか?これからアメリーの所に行きたいんですが」


「そうだったね、待たせて本当に悪かったよ。ちょうどダンに持って行くものがあったから渡して欲しいんだ」


と言って、封蝋された書状を渡し、カサヴァーノ公爵に直に渡すように言われた。

返事をし書状を受け取り、王の執務室を僕は後にした。


そして僕が出て行った執務室内では、こっそり盗み聞きが出来るところに隠れていた宰相閣下と父上がお互いの息子の成長を喜んでいたなんて全く知らなかった。

僕はというと、やっとアメリーに会いに行けると足早に部屋に戻り、出かける準備をするのだった。



しかし・・・

喜んで行ったカサヴァーノ公爵邸で、僕は打ちのめされることになる。


「アルメリア様でしたら、お気に入りの東屋におられます」


公爵邸に到着すると顔なじみの執事が笑顔で出迎えてくれ、アルメリアの所在を教えてくれた。

場所は分かっていたが、僕は来訪者ゆえ静かに彼の後について行き、今日のアメリーの様子を聞く。


「先ほどまでリンデル侯爵夫人がいらっしゃっておりまして、マナーのお勉強をされておいででした」


アメリーからマナー講習を受けていたることは聞いている。

そして、周りから見ればアメリーは礼儀正しく美しい所作で対応できるようになってきているというが、本人は苦手意識が大変強くあまり好きではないようだ。

又、侯爵夫人もマナーについて厳しい方と聞いている。

今日も元気がないのだろうか・・・と心配しながら、アメリーの元に走っていきたい気持ちを押さえ、執事の案内についていくのだった。


広い庭の高い植え込みが続き、角を曲がると東屋が見える。

そして、見えた光景に僕は愕然とし足が止まってしまった。


「アメリー・・・」


見えた東屋でアメリーが学園の制服を身にまとったノア兄様に抱き上げられ会話をしたかと思うと、嬉しそうに首に手をまわし抱き着いていた。

そしてノア兄様も嬉しそうにアメリーの頬に顔を寄せたりキスを繰り返し、喜ぶアメリーはぎゅっと抱き着き離さないと言わんばかりである。

面白くない。

アメリーは僕のモノなのに!!


「で、殿下!」


執事を追い抜き二人のそばに行くと、腕を組みノア兄様を見上げる。


「ノア兄様、お帰りになったばかりなんですから、お召し物でも取り換えてきたらいかがですか?!」


案にアメリーの服が汚れると言うと、学園で着替えてきたから大丈夫だと言って益々アメリーを抱きしめるのだった。

ずるい・・・

背が高く見た目も美しく、立ち振る舞いは完璧。

13歳の兄は力も強くアメリーを抱き上げる腕は、全く危なげがない。

今の僕には勝てるところが全くないのだ。

でも、アメリーは僕だけの大切の人なのに・・・


二人がぎゅっと抱きしめあう様子をくちびるを噛みしめて睨みつけるしかできない自分が一番滑稽でみじめで、そしてとても悔しかった。


そんな僕の様子に気付いていたのか、ノア兄様はアメリーを下ろすと優しくキスを頬にしてから僕に話しかけてきた。


「ところでファー様は、我が家にどのようなご用件でお越しくださったのでしょう」


と言われて、胸の中にしまってあった書状を思い出す。

では、またねアメリーとノア兄様アメリーの頭を優しく撫でると、僕を促し公爵の執務室まで案内してくれるようだ。


「アメリー、後で部屋に行くから待っててね!」


と言って急いでノア兄様の後を追う。



ノア兄様にくっついて幸せそうに笑う、アメリーが頭から離れない。

なんということだろうか、僕のすぐそばに恋敵がいたなんて!

まだ子どもの僕の思いなど、7歳も年の離れたこの兄にはお見通しだったのだろう。


「まぁ、頑張ってください」


なんて、言ってにやりと人の悪い笑みで僕のことを見下ろしてくる。


それ以降、僕はノア兄様に負けない男になるため、打倒兄様を掲げ今まで苦手としていた武術や剣術、馬術にも励むようになるのだった。







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