ティータイムのイチゴは甘酸っぱいものなのか
今日一日で行うことや勉学などをなんとか終わらせ、ちょうど午後のお茶の時間頃にカサヴァーノ家に行くことが出来た。
今日は城の庭師おすすめの特製花束と同じく厨房のパティシエお手製のアーモンドのクッキーをお土産にする。
多分気に入ってもらえると思う。
午後のお茶の頃に伺う旨を昼前に知らせてあったので、僕がカサヴァーノ家に到着すると、すぐに執事が出てきて中庭の東屋に通された。
そこにはアメリーの好きないちごのデザートがたくさん並べられていた。
しばらく待っていると、アメリーが館の方からゆっくりだがしっかりとした足取りで歩いてくるのが見えた。
よかった。
ちゃんと歩けている。
落馬の後遺症は無いと聞いてはいたけど、歩く姿を見て安心する。
しばらくは寝ていて落ちた筋肉を戻すために、日々の散歩が必要そうであるが、元気になってくれて本当に良かった。
「ファーレン様、お待たせして申し訳ございません」
ズキッ・・・
胸の奥が音を立てて痛む。
やっぱりアメリーは僕と距離を取ろうとしているようで不安になる。
あれから何度言っても僕のことをファーレン様、殿下と呼ぶのをやめてくれない。
胸が痛むが、僕はそれを気づかせないよう普段と変わらないようにっこりと微笑んだ。
「アメリー、元気になって良かった」
そっと手を差し出すと僕の手を取りゆったりとしたフカフカのクッションがある席に座る。
僕のエスコートに頬を赤らめているアメリーはとても可愛かった。
お気に入りの紅茶といちごづくしのデザートと、僕の持ってきたアーモンドのクッキーがテーブルに並ぶ。
アメリーがお気に入りの紅茶のとてもいい香りがする。
「ファーレン様、ドレスとお菓子ありがとうございます。とても可愛いくて、気に入りました。お菓子も美味しいですね」
「ドレスを着てくれてありがとう。とても似合っているよ。でも・・・」
僕の『でも』にはてな?顔のアメリー。
とっても可愛い。
でも、いつまでもこの呼び方を僕は良しとしないことを伝えなければいけない。
「でも、いつになったらその他人行儀な呼び方が戻るんですかね?」
ヒクッという音が聞こえそうなほど表情が強張ったアメリーは、オドオドと忙しなく目が泳ぎ出し、手に持っていた僕が持ってきたクッキーを膝に広げられたハンカチの上に落としてしまう。
怯えた表情で僕と目線を合わせないアメリーは、誰が見ても僕に虐められている小動物にしか見えない。
「え、えーっと何のことでございましょうか?」
うーん、なんで傷ついている僕の方が加害者になるのだろうか?!
理不尽な思いを感じながらも、どうせ虐めてると思われるなら今日こそは絶対に譲らない意思を込め、ちょっと意地悪く笑って見せた。
「喧嘩をした時に一度だけ『殿下』呼びされたけど、僕がそう言われるのがどれだけ嫌か、お話ししてそれ以降は呼ばなくなったはず。やはり落馬したことを根に持っていたということでしょうか」
意地悪な笑みを飲み込むと、今度は寂しそうな表情でアメリーのことを悲しそうに見つめる。
アメリーがこの悲しい顔に弱いことを百も承知で『わざと』やって見せるのだから、僕も意地が悪いなぁと思う。
でも今日は何がなんでもアメリーの他人行儀な呼び方や態度を元に戻す事に専念する事に決めていたので、止めるつもりはない。
「それはないです!!根になんか持っていません!」
即答で答えてくれることで、心の中でガッツポーズをキメる。
ここまできたらあと一足!
「でしたら、なぜ?」
小首を傾げますます寂しそうな表情で見つめると、アメリーは観念したように小さな声でポツリポツリと話し出した。
「そ、それは‥‥
いつまでも自分のせいだと、思っているところが嫌だというか、やっぱり従兄弟だけど王太子殿下なんだなと改めて感じたというか」
言葉を選ぶように言うアメリー。
僕は嬉しくなって思わず一瞬目を見開いてしまったが、すぐに笑顔になる。
そうか、僕の態度も良くなかったんだね。
「うん、ごめん。もう僕のせいだなんて思わないよ。それに僕らは従兄弟で幼なじみなんだから、今さら気にすることはない。ということで、アメリー。いつもみたいに呼んで」
「‥‥‥‥レン様」
本当は様なんていらないのに、やっぱりそう呼ぶんだね。
そこは変わらないか。
でも、
「ありがとう、アメリー。僕は君にそう呼ばれないとボクでいられなくなってしまいそうで、怖いんだ」
前世の記憶を思い出した僕にとって、前世と同じ名前の『レン』には思っていた以上に思い入れがあるようだ。
敬称無しで早く君に呼んでもらいたいと心から思っているよ。
まだ僕はそうは呼べないけど・・・
『?顔』のアメリーの手を取り甲に優しく唇を寄せた。
心の底から君だけが大切だという思いを込めて。
驚いた表情の顔が朱に染まるのを見て嬉しく感じたが、一瞬で恥ずかしそうな表情が消え僕を見ているようで見ていない眼差しに驚く。
何を考えているの?
その後とてもとても悲しい表情をすると、まるで泣いてしまうのではないかと不安になるような笑みを浮かべると、すっと僕の手から自分の手を離してしまう。
「レン様、こちらのイチゴも美味しいですよ!」
イチゴのゼリーを僕に薦めると、自分もパクリと食べてみせる。
「ちょっとすっぱくて美味しい」
無理して笑っているのがわかり、目の端に光るものを感じるのは目の錯覚?!
急なアメリーの態度の変化が僕にはわからなかったけど、僕はいつでもどこでも君を守りたいのに守れない・・・自分の力の無さと弱さを見せられたような気がした。
更新が遅れてすいません。
今回は、本編の似たようなタイトルのレン視点になります。
やっと本編とリンクのところまで来ました。
が、本編はこの後直ぐに10年後に飛んでしまいます。
こちらは少し10年を楽しみたいと思っていますので、また本編から離れてしまいます。
誤字のご指摘ありがとうございます。
教えていただきいつも大変ありがたく思っています。
これからもよろしくお願いします!!




