アメリーの笑顔と僕の笑顔
アメリーの意識が戻って数日後、僕は城に戻ることになった。
アメリーが僕にとっての『ただ一人の絶対』だという自覚が芽生えたことを考慮して、彼女が意識を戻すまでの期間はカサヴァーノ家の滞在を許されていたが、アメリーの容体が安定したのならいつまでもは許されない。
父上からは、僕にはやらなければいけないことや学ばなければならないことがたくさんあることを告げられた。
僕が良い王にならなければ、ルノアの国民の幸せも、何よりアメリーの幸せが保証されないのだ。
そんなことは、言われなくたってよく分かっている。
でも、アメリーと離れがたい気持ちも本物なんだから、仕方がない。
「はぁーっ・・・」
僕は理性と欲望の間に挟まれているような感じがして、長い長いため息をついてしまうのだった。
帰城する前日は、アメリーと一日中一緒にいた。
まだベットから出られないアメリーのそばで話をしたり静かに本を読んだり、ランバートがアメリーを抱き上げて東屋まで連れて行ってくれ、お茶をしてから大きなソファで暖かな日差しの下で、ひとつのブランケットに絡まってお昼寝をした。
アメリーの右手を左手で握って手を繋ぐと、なんだが落ち着くのを不思議に感じていた。
アメリーも恥ずかしそうにするが、嫌ではないようで手を握ると安心したような表情になり、他愛もない話をしながら一緒に眠ってくれた。
目を覚ましてからのアメリーは、やはり少し変わってしまったように感じるが、大きな事故だったのだから仕方がないことなのかもしれない。
それに多分僕も前とは同じではないだろうから。
夕飯は『今日は特別ね』と、フェレノア叔母様が許してくれ2人でベットで食べた。
きちんとした食事ではなく、二人で簡単に食べられるようなものになってしまったけど美味しかった。
そして、とっても楽しかった。
でも明日からは別々の生活を送り、今までの生活に戻ってしまうかと思うと、今が楽しい分だけ寂しく感じていた。
「ファー・・・ではなくて、レン様。何かあったのですか?」
また僕のことをファーレンと呼びそうだったのを、僕に睨まれて慌てて言い直したアメリーが不思議そうに僕を見つめる。
「何かって?」
「レン様、笑ったり怒ったり、そしてなんだが悲しそうだったり。今までも私には分かったけど、この頃は私じゃなくても分かるくらい、たくさんの表情が出来るようになってきていますよ」
「えっ?!?」
「ほら、やっぱり」
驚いた。
そんなに見て分かるほど変わってしまったのかと。
記憶を思い出したことで、感情というものも思い出すことができた。
それに僕が無表情になったきっかけが、ここではない違うところ(前世)への渇望と、大切な人(莉愛)の不在が原因だったのだから、その原因が解消されたのなら感情を表すことが出来るようになったのだろう。
「うん、僕の大切なものが見つかったからかな。僕ね、笑うことができるようになったんだ」
まだ表情筋が上手く働かないからぎこちないけど、一番にアメリーに笑いかけたいと思っていたんだ。
「ふ、ふ、ふ。レン様、笑い顔なんでしょうけど、怖いですよ」
可笑しい、なんて言って笑うアメリー。
そうかなぁ、と言ってぎこちなく笑う僕は、これからどんどん表情豊かに自分の思いを表現していけるだろう。
そのためにも、アメリーにはずっと僕の隣で幸せそうに一緒に笑っていてもらいたいと、心から思うのだった。




