君のことがキミに感じないのはなぜだろう
カイ兄さんとの乗馬から帰ってから急いで着替え、僕はアメリーの部屋の扉をノックした。
(アメリー、喜んでくれるかな?!)
先ほどカイ兄さんと行った丘に咲いていた花を積んできた。
僕には花の名前は分からないけど、とても可愛いらしい花だと思う。
たぶんアメリーなら、花の名前を知っているかもしれない。
部屋の中にいた侍女が扉を開けて顔を覗かせたので、アメリーに会いたいことを伝えると『お待ちください』と言って中に戻って行った。
なぜか少し時間がかかったがまた先ほどの侍女が扉を開け、中に促される。
部屋の中にはアメリーと先ほどの侍女の2人だけだったようだ。
ベットに起き上がり、上着を羽織りクッションにもたれかかっているアメリーは、あまり顔色は良くないが大きな金の瞳で僕のことをじっと見つめてくれた。
でも・・・
なんだろう?何かが気になるような、違うような。
なんとも言い難い違和感を感じるのだった。
アメリーなのに、何かが違う?!
それが何かわからないし、違う訳ないのだから、僕がおかしいのだろうか。
「アメリー、目が覚めてよかった。体調はどう?!」
「ファーレン様、わざわざお見舞いに来ていただきありがとうございます」
『ん!?ファーレン様!?』って!?
今、僕のことをそう呼んだの?!
こんな他人行儀の呼び方を許してなかったはずなのに、どういうことだ。
元々無表情なのでそこまでの変化はなかったと思うが、僕はかなり動揺していたと思う。
「アメリー、先ほどカイ兄さんと行ってきた丘で花を積んできたんだ」
呼び方には気づかなかったふりをして、花束を渡す。
僕からそっと花束を受け取って微笑むアメリーの表情は、とても柔らかで可愛くて、僕は頬に熱が集まっていく感じがしたが、アメリーの言葉に先ほどと同様にショックを受けるのだった。
「ファーレン様、ありがとうございます」
と。
僕のせいで落馬したから?!
だから、僕のことがきらいになったの!?
急に距離を取られたように感じてしまい、ショックを隠すことがとても難しかった。
アメリーを僕の『ただ一人』と認識したことで、余計に感じる疎外感は半端なかった。
指先が震える。
言葉が出ない。
・・・まずい、泣きそうだ。
僕の鉄壁の無表情が崩れていくのがわかる。
「ファーレン様?!」
黙り込む僕の変化に気付いたようで、慌てたような表情をしている。
前世の大人の時の記憶を思い出したけど、今の僕はまだ5歳のファーレン・ルノアという子供なのだ。
心の感情を抑えることが難しかった。
「アメリー、いつもみたいに呼んでほしいなぁ。僕は誰だっけ?」
心の動揺を隠すように、僕は鉄壁の笑顔でアメリーを見つめた。
アメリーも困ったような表情をしながら、
「ごめんなさい。レン様」
と、やっと言ってもらえた。
まだ『様』がついているのが気に入らないが、少しは前に戻ったような気がした。
困ったような表情は僕の好きなアルメリアのものだ。
さっき感じた不安は一体何だったのか?
不安を感じたことに不安を感じながらも、僕はそっとアメリーの頭を撫でる。
「疲れているだろうから、横になっていいよ。寝るまでそばにいるから」
ベットに寝かせると恥ずかしいからなんだと言って真っ赤になったが、そのうちに目がトロンとしだし、ゆっくり瞼が落ちていく様子をじっと見つめていた。
僕にとってただ一人の大切な人。
生きていてくれてよかった。
今度は絶対に守るから・・・深く深く胸の奥で誓ったのだった。
新しい一年が始まりました。
みなさま今年もよろしくお願いします。