君を守れる強い男になりたい
アメリーが意識を失ってから2日がたった。
僕の涙もまだ止まらない。
そして、僕はその間アメリーの手をずっと握って側にいた。
食事は食べたくなかったので、食べていない。
眠るのも寝ている間にアメリーに何かあったらいけないと思うと、怖くて仕方がなくここ2日は寝ていない。
たった2日だ。
まだ2日しか経っていないのに、食べず寝ずの僕を心配する周りの大人たちは血相を変えて詰め寄ってくる。
眠ったほうがいいと、アメリーの側を離れさせようと何人もの人がやってきた。
手を離せと引っ張られ指を解こうと手を取られたときは、僕は癇癪を起こしたように泣き叫び、決してアメリーの手を離そうとしなかった。
そんな僕の様子を見てランバートがここで眠ってもらおうと提案するが、眠っている間にアメリーに何かあったらと思うとやはり眠ることが怖い。
僕は首を縦に振ることがどうしてもできなかった。
なら、何も口にしないのは良くないからと、せめて飲み物だけでもと入れられた温かな紅茶を一口飲むと、僕の意識は静かに気付かないうちにゆっくりと眠りに落ちてしまったのだ。
僕の飲み物に眠り薬が入れられていたようで、ベットの横の椅子に座り頭をアメリーの横に並べるようにして、深く深く眠ってしまったのだった。
ぱちっ
目を開けるとアメリーの横顔が目に映る。
窓から差し込む朝日が、眠るアメリーの頬を照らしていた。
本当にアメリーは綺麗だな。
繋いでいない方の手で無意識に頬に触れると、氷のように冷たくて飛び起きた。
そんな、まさか、アメリー!!
止まっていた涙がまた溢れそうになる。
震える指先でアメリーの頬にもう一度触れようとすると、
「大丈夫ですよ。アルメリア様は、お変わりなくお眠りです」
焦る僕の両肩に後ろからそっと手を置き、優しい口調で言い聞かせるように話をする。
振り返ると、ちょっと疲れたような無精髭を生やしたランバートが優しい目で見ていた。
「ランバート、アメリーは、変わらず眠っていたの?!」
「はい。変わらずです」
肩から力が抜けホッと詰めていた息を吐き出す。
よかった。
僕の眠っている間に何もなくて。
椅子に座り直しアメリーを見つめる僕にランバートが話をする。
「殿下。アルメリア様と離れたくない気持ちはよくわかりました。しかしこちらで良いので、お食事を取られ今と同じように一緒にお眠りになって下さい」
「でも、ランバート。僕は・・・」
僕はアメリーから目を離せない・・・いや、離したくないのだ。
黙る僕にランバートは話を続ける。
「しかし殿下。アルメリア様がいつお目覚めになるのか分かりません。アルメリア様が目を覚まされたその時に、殿下が疲弊していたらアルメリア様にご心配をおかけしてしまいます。それに、今回のように薬でお眠りになると、殿下が心配されているような時がもし起こった時に、殿下が目を覚ますことが出来ずにアルメリア様にお会いすることができなくなってしまいますよ」
ぞくっと嫌な汗が流れた。
確かにランバートの言う通りだ。
今回、僕は半日以上眠ってしまった。
その時の記憶は全くない。
「じゃあ、どうしたらいいって言うんだよ」
苦しそうに声を出しランバートを見る。
すると、そんな僕を見てランバートは優しくそっと微笑んだ。
「そんな時は私を使えばいいじゃないですか」
「えっ?!」
「殿下がお眠りになっている間は、私が代わりにアルメリア様を見守っております。昨晩も側でずっと見守っておりました。何かあった時は、すぐに殿下を起こします。
この剣に誓って」
ランバートはスッと自分の腰に下げた剣を抜くと、僕の前に掲げて片膝をつき頭を下げる。
「私はルノアの騎士です。それを誇りに思っております。陛下への忠誠はもちろんですが、私は今はファーレン殿下ただお1人のための騎士です。出来れば陛下に刃を向けたいとは思いませんが、殿下への忠誠はそれを凌駕しております。殿下の手となり足となり目となり、お守りしたいものを一緒に守らせてください」
「そんなこと言って、僕がアメリーのところに行こうとするのを止めたくせに」
馬場でのことを皮肉を込めて言うと、ランバートは苦笑する。
「そうでしたね。でも、私にとっての一番は殿下ですので、あなた様の身の安全を最優先にしてしまうことは、お許しください。今回も、殿下のお体を思ってのことです」
剣を鞘に納めながら、ランバートはしっかりそしてはっきりと僕に告げた。
そうだね。
ランバートなら信頼できる。
「アメリーに心配をかけるのは嫌だから、ランバートが言うとおりにするよ」
「それは良かったです。そして、殿下。両陛下が昨晩、東国の外交からお戻りになり、その足でこちらにお越しになりました。殿下が起きられたら、陛下にお声をかけるよう言われております。いかがいたしましょうか」
「もちろん、お会いしたい。しかし、僕の方から行くことが出来ないので父上にはこちらにお越しいただくようお願いして来てくれ」
僕はアメリーと繋いだ手を少し上げて見せる。
「そうでございますね。陛下にお願いしてまいりましょう」
ランバートは会釈をすると部屋から出て行き、僕とアメリーの二人だけになった。
長いまつ毛に縁どられた、僕の大好きな金の瞳はまだ見られそうもない。
触れている頬も、まだとても冷たい。
「ごめんね、また君を守れなくて。これからは君を守れる強い男になるから、ずっとずっとそばに居てね。・・・莉愛」
コンコンコン・・・
扉をノックする音の後、父上が扉を開いて入ってきた。
「ファーレン。少しいいか」
父上の表情は険しく、心配していると全身で言っているのが分かる。
僕はそっと頷いた。