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転生モブ令嬢の幼なじみはヒロインを御所望中  作者: いちご
本編・花祭り編レン視点(表記なしレン視点・その他視点名前入りであり)
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シロツメクサの約束

アメリーとの婚約話が出てから1年がたち、僕は4歳になった。


僕の4歳の誕生日にアメリーが手作りのクッキーを作ってくれた。

甘いものがあまり好きではない僕のために、ナッツがたくさん入ったあまり甘くないクッキーで、とても美味しかった。

美味しかったことを伝えると、度々クッキーを作って待ってきてくれるようになった。

それ以降僕の好きなものの一つになった。


アメリーは変わらず週に1〜2日城に来て僕と一緒に勉強している。

教師たちは初めは何もわからない小娘程度に見ていた彼女があまりにも出来がいいのと聞き上手なため教え方が変わり、今ではアメリーが質問したこと以上のことを教えようと必死になり、僕に教えるよりも力が入っているように感じる。

そして魔法の勉強もだいぶ進んだ。

アメリーは風魔法の初級程度使えるようになり、小さな旋風程度おこせるようになった。

しかし魔法はあまり得意ではないようで、あまり進歩が見られていない。


僕は炎の魔法が強いようだが、炎のその裏に何か別の力が隠れているように感じると師匠が言っていた。

アメリーが4歳になったら一緒に魔力量を測定することになっているが、測ったら別の力について何かわかるだろうか?


そして、もうすぐアメリーの4歳の誕生日がやってくる。

昨年は花をプレゼントした。

家族以外に何かプレゼントを贈ることが初めてだったが、あんなに喜んでもらえるとは正直思っていなかったので大変驚いた。

そしてこれからもアメリーの喜ぶ顔が見たいと思ってしまった。

今年は何を贈ろうか?



何も予定がなく、そしてアメリーが城に来る日ではない午後を選び、僕はランバートを部屋に呼んだ。


「午後は特に用事がなかったのに、来てくれてありがとう」


「構いませんよ。何となく話の内容も分かっておりますので。アルメリア様のお誕生日がもうすぐですものね」


「よく分かるなぁ」


僕は、勘のいいランバートに驚く。


「本当に勘がいいな。その通りなんだけど、アメリーの誕生日をどのように祝ったら喜んでもらえるか分からなくて。何をあげたら喜んでもらえると思う?」


「そうですね。昨年はミモザの花束を差し上げましたね。今年は・・・なにがいいですかね」


一緒に悩んでくれるランバート。

この一年僕のそばについてアメリーを見てきたので的確な助言がもらえると思う。


「アルメリア様は花や植物など自然の物が好きですから、城の裏手にある小さな湖で誕生日パーティーなどはいかがでしょうか。あそこはあまり人も来ませんし、何よりシロツメクサの群生地です。その中でお二人でお祝いをされたら喜ばれるのではないでしょうか?どうでしょう」


「すごい!ランバート!!そんなこと考えもつかなかった。早速用意させよう」


やっぱりランバートは凄いなぁ!こんな考えは僕には浮かばなかった。

パーティーにはアメリーの好きな物を料理長にお願いしよう!

誕生日のケーキはアメリーの好きなイチゴをたくさんのせて・・・やっぱり内緒の方がいいよな、など考えるのがとても楽しかった。

無表情で有名な僕だが、その時は表情が緩んでいたことだろう。

後から考えると恥ずかしいが、その時はこれがワクワクするということか!と新しい感覚と発見と楽しみで頭がいっぱいだった。



そしてアメリーの誕生日がやってきた。

天気も僕の味方になってくれ、深い青が広がり雲一つない澄み切った空が続いていた。


予定通りアメリーを公爵邸に迎えに行く。

今日は動きやすい服装とお願いしてあったので、いつもよりスカートのボリュームは抑えめで丈は膝下くらい。

色は薄緑を基調にスカートに白い可愛らしいリボンがたくさんついていてとても似合っていた。


「アメリーお誕生日おめでとう」


小さなガーベラの花束を渡すと、アメリーはとても嬉しそうに笑ってくれた。


「レン様ありがとうございます」


公爵は留守だったのでフェレノア叔母様にご挨拶をし、夕方までに送り届ける約束をしてアメリーの手を取り馬車に乗せ、湖畔に向かう。

この時馬車のカーテンは閉めておいて、開けることもどこに向かっているのか聞くことも禁止にした。


「ふふふ。秘密なんですね。楽しみです!」


とても嬉しそうに笑うアメリーは、とっても可愛かった。

この頃になると僕もアメリーが可愛いことを認めていたが、無意識に本当の気持ちには蓋をしていた。

可愛い!だけ何とも思ってない・・・嫉妬深いくせに何を言っていたんだと、後から思うとおかしな話である。



ガタン。

という揺れと共に馬車が止まり、湖のそばについたようだ。


「アメリー、ここからはランバートが抱いて行くから目を瞑っていて欲しいんだ」


「分かりました。凄くドキドキしますが、目を開けないようにしますね」


馬車の戸口まで来てもらい目を瞑ったところでドアを開ける。

目の前にはランバートが立って待っていた。


「アルメリア様、おはようございます。ここからは私がお連れいたします」


「ランバート様、おはようございます。よろしくお願いします」


目は開けずアメリーはランバートにお辞儀をする。

では、失礼致しますと言ってランバートはアメリーをそっと縦抱きすると危なげない足取りで歩き出した。


10分も歩かないうちに目的地に着く。


「アルメリア様、到着しましたので下ろしますが、まだ目は開けないでくださいね」


「はい」


ランバートは優しくアメリーを下ろすと僕の方を見て(後は頑張ってくださいね)と言う感じに片目を瞑ると少し離れた場所で、僕たちの様子を見守ってくれた。



僕は優しくアメリーの手を取る。


「目を瞑っていてくれてありがとう。もう目を開けてもいいよ」


ギュッと瞑っていた目を開けると眩しかったのだろう。

目を細めたりパチパチと瞬きをし目を光に慣らしている様子が見られた後、綺麗な金色の瞳が驚いたように大きく見開いた。


「うわぁ〜!!綺麗!!」


周り一面シロツメクサが咲いている中に、僕とアメリーは立っていた。

緑のクローバーと白いシロツメクサが多い中、赤や黄色やオレンジなどのシロツメクサがクローバーと一緒に揺れていた。


「とても素敵なところですね。ここは?」


「王城の裏手だよ。王城の敷地内だけど、外れのためかあまり人が来ない穴場なんだ」


アメリーの右手を取りギュッと握ると花畑を並んで歩く。

嬉しそうな笑顔が眩しく感じる。


小高い丘から下に湖を見下ろすところにシートが敷かれ、そこにはサンドイッチに一口で食べやすいよう小さくカットされたイチゴなどの果物と焼き菓子、バースデーケーキにジュースなどがたくさん並べられていた。


「すごい!すごい!!」


一番湖が綺麗に見下ろせるシートの真ん中にアメリーを座らせ、僕は少し離れた斜め横に座る。

侍女が2名側につき給仕をしてくれた。


「アメリーお誕生日おめでとう。僕から誕生日プレゼントにアメリーの好きな物を用意したんだけど・・・気に入ってもらえたかな?」


「はい!とっても嬉しいです。レン様ありがとうございます」


2人で誕生パーティーが始まった。

するとアメリーが後ろを振り向き、


「あの、せっかくですのでランバート様や皆様もご一緒にいかがですか?」


「いえ、私たちは」


慌てて首を振るランバートに護衛騎士と侍女だったが、アメリーがみんなでいただく方が美味しいですからとにっこり笑う。

アメリーらしいなぁと思う。


「アメリーがいいって言ってるんだから、一緒にどうだ。僕たち2人では食べきれないし、アメリーの誕生日をみんなでお祝いしてくれないか」


それではとまずランバートがシートの側の草の上に腰を下ろすと、次々周りにみんなが座る。


「ねぇ、レン様。ジンさんとお師匠様は?」


「リヤト、ジン。ちょっと顔出してくれ」


これは珍しくワガママを言うなぁと苦笑してしまう。

影は影なんだけどなぁ。


「師匠は残念ながら護衛に達しないといけないので俺だけで。いいですよね殿下」


「あぁ、かまわない、」


リヤトは、来ないね。

影としての自分の使命に誇りを持ってるし、なんといっても極度の人見知りだから来たくても来れないが本音だろうから。


「我が儘を言ってすいません。せっかくたくさんのご馳走を用意していただいても食べきれないのではもったいないので、みなさんで食べたら楽しいかなと思ったんです」


「お気遣いありがとうございます。アルメリア様、お誕生日おめでとうございます」


「ありがとうございます!」


嬉しそうなアメリーを見て、こんなお祝いもいいかなと感じた。

そしてそっと周りの気配をうかがうと、流石皇太子の側に支える者たちであることが分かる。

ランバートも護衛騎士も側に座りながらいつでも立てる姿勢で周囲に気を配っているし、ジンに至っては周囲への警戒を隠していない。

素晴らしい人材に囲まれていると改めて感じた。



食事会は和やかに進み、食後のデザートにバースデーケーキを切り分けた。

アメリーは大きなイチゴのケーキに感激して頬張るように食べて喜んでいた。


「アメリー。口元にクリームがついてるよ」


「ありがとうございます!」


アメリーの口の端についていたクリームを指で取ってあげると侍女が真っ赤になって「殿下、それはちょっと・・・」と何でだか悶え、ジンは「無自覚かよ」と大笑いし、ランバートと護衛騎士たちからは生暖かい眼差しを感じた。

アメリーと顔を見合わせ二人で(はて?)と首を傾げると、「可愛いすぎる」「今日選ばれてよかったね」と侍女2人が手を取り合って喜んでいた。

よくわからないが、アメリーが可愛いのは確かなのでよしとしよう。


食事会がお開きになる頃、アメリーがジンに黄色いハンカチに包まれたものを渡していた。


「これはお師匠様の分です。ケーキは包めなかったのでお菓子ですが、お渡しください。そして、いつも守って下さってありがとうございますとお伝えください」


「姫様ありがとう。師匠も喜びます!」


ジンは受け取るとサッと消えてしまい、影の任務に戻っていった。


「レン様、本当にジンさんって不思議ですね」


ふふふ、と楽しそうに笑うアメリー。

可愛いけど、何だかジンのことで楽しそうにしているのは面白くない。

モヤモヤした気持ちを振り払うかのように、アメリーを湖の側まで散策に誘った。



「綺麗な湖ですね」


城の裏手の湖は、夏は泳いだり冬はスケートができる。

王城勤めの者なら来れなくはないが、城の敷地内のため立入りには事前に申請などの手続きが必要なため面倒臭いのだろう。あまり人が訪れることがない穴場である。


湖面を吹く風がアメリーの長い髪を揺らし吹き抜けて行く。

気持ちのいい風だ。


「あまり水辺に近づきすぎると危ない・・・!」


と、注意しようとした矢先に、陽の光を浴びて輝く湖を覗き込もうとしているアメリーが、体勢を崩して今にも湖に落ちそうになっていたのだ。


「アメリー!」


「レン様!!」


手を伸ばし掴んだアメリーの手を引っ張り上げることができた。

ジンも一緒にアメリーの腕を掴んでくれたので助かったが、無性に腹が立ち初めてアメリーを怒鳴りつけてしまった。


「みんながアメリーのことを大切にし守ってくれているのに、自分で自分を危険に晒すなんて何考えているんだ!彼らがこんなに気を配ってくれているのに、君に何かあったら守れなかったと君の父上や僕の父上に怒られてしまうのは彼らなんだぞ!僕たちは、ただ守られているだけじゃなく、自分で自分のことを大切にしないといけない。それが僕たちの役目なんだ。わかったか!」


怒りに任せて怒鳴ってしまったが、放心状態だったアメリーの目に大きな涙が溜まりポロポロ流れるのを見て、言い過ぎてしまったことに気づく。


「ご、ごめんなさい。ごめんな、さい。ごめん・・・うわ〜ん」


「アメリー、僕もごめん。言いすぎた。だから泣かないで」


わんわん声をあげて泣くアメリーの涙をどうにか止めようと僕は声をかけ、頭を撫で抱きしめたが、アメリーの涙は止まらなかった。


泣き腫らした瞳のアメリーをランバートが抱え侍女の元に連れて行ってくれたが、僕は自己嫌悪からシロツメクサの花畑の中に膝を抱えて蹲まる。


あんなに泣かすつもりはなかったのだ。

ただ自分を大切にしないアメリーに腹が立て腹が立って仕方がなかったのだ。


ごめん、ごめんね。


どんな顔をしてアメリーに会ったらいいか分からず、僕はしばらくの間俯いて足元のシロツメクサを見つめていた。



どれくらいたったのだろうか。

ふわっと僕の頭に何か乗る感触に驚き顔を挙げると、目の前に同じように座り込み僕を覗き込むように見つめるアメリーがいた。


「レン様ごめんなさい」


目を真っ赤に腫らした姿は痛々しかった。


「ううん、僕のほうこそごめんね」


「いいえ、私がいけなかったんです」


「でも、僕が怒りすぎた。怖かった、よね・・・」


アメリーは何も言わずに俯いてしまった。

泣かせるつもりなんてなかった。

でも、もっと自分を大切にして欲しいと思ったのは本当だ。

みんなが君を大切にしている。

ランバートもジンも、そして僕も。


そっと僕の手に優しくアメリーが触れてきて驚く。

また泣きそうな表情をしていて胸が苦しくなる。

でも。


「いいえ、レン様は心配してくださったんですよね。そして自分を大切にしないといけないことを教えて下さいました。私が悪かったんです。ごめんなさい、嫌いにならないで・・・」


震える手を握り返して真っ直ぐアメリーを見つめる。


「嫌いになんて絶対にならない。僕はアメリーが大事だと思っているよ」


またポロポロ涙を流してしまったアメリーをそっと抱きしめた。

2人でごめんねと言い合い、おでこを合わせて仲直りをした。



「で、これは?」


僕は頭に乗っている物を摘んでそっと目の前に下ろす。


「あの、お詫びのシロツメクサの花冠です」


頭に何か乗っているように感じたものは、シロツメクサの花冠だった。

ところどころ茎が飛び出た歪さを感じるが、綺麗にできているほうだと思う。


「これ、アメリーが作ったの?」


僕の問いにコクンと頷き「お詫びです」と小さな声で言った。


「ありがとう。でも僕よりアメリーの方が似合うよ?」


「レン様にお似合いです!とっても綺麗です!!」


嬉しそうに笑うアメリーに、僕も何だか嬉しくなってきた。

どうやって編むのか側で見せてもらうと、簡単そうだけど複雑で、やってみたけど僕には出来なかった。

自分がこんなに不器用だと思ってなかった。


「自分を大切にする『約束』。私も気をつけるので、レン様もご自分を大切にしてくださいね。『約束』ですよ!」


ふわりと2人で花冠を乗せ合った。

シロツメクサには『約束』と言う花言葉があるとアメリーが教えてくれた。


そうだね、約束だ。

お互い自分をそして相手を大切にする『約束』を忘れずにいようと、小指を絡めて約束のおまじないをしたのだ。


忘れない、大切な約束。

僕たちだけのシロツメクサの約束。


投稿してから気づきました。

これ100話だったんですね!

わ〜ビックリです!!

ここまで続くと思ってなかったので本人も驚きですが、あと少し可愛い子たちの幸せを書いていけたらと思います。


今回は長々としてしまいましたが、大事な大切な人と気付くために必要なお話でした。

次は魔力量を図る回になります。

魔導士様に慌てふためいてもらいましょう。


誤字脱字の報告ありがとうございます。

いつも大変助かります。

これからもありましたらよろしくお願いします。

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