昔の思い出は未来の不安に消えていく
たくさん笑った。
それと同じくらいケンカもして、泣いた。
手を握ってくれた。
分からないことにぶつかったり、出来ないことがあって悔しい思いをしていると、応援してくれた。
そばにいてくれた。
抱きしめてくれた。
大切にしてくれた。
私を特別扱いしてくれるのが、とっても嬉しかった。
たった一人、大事にしてもらえているようで幸せだった。
「もうアメリーとは一緒にいられない。彼女と一緒に生きていくことにした」
腕の中に大事そうに抱きしめたチェリーブロンドの髪の女性。
彼女を見つめるまなざしはとても幸せそうだ。
彼女をエスコートし、去って行こうとする後ろ姿に、知らずに頬を涙が伝う。
分かってた。
知ってた。
だって、私はレン様のヒロインではない。
ただの名前も出てこないようなモブキャラだから。
だから一緒にいたくなかった、一緒に年月を過ごしたくなかった。
思い出を作りたくなかった。
そしたら、こんな想いを知ることはなかった。
もう今から、昔に戻るのは無理だ。
だって、私は・・・
自分が泣いていることに気づいて目が覚めた。
「私、泣いてるんだ・・・」
幸せな昔の夢は、未来の不安に押しつぶされ消えてしまった。
なんで婚約なんてしたのだろう。
レン様にはただ一人だけのお姫様がいるのに、なんで私と婚約なんてしてしまったのだろう。
涙は後から後から溢れてくる。
未来なんて知らなきゃよかったのかな。
そうしたらもう少し素直に振舞えたのかな。
しばらく止まりそうもない涙を隠すように、枕に顔をうずめて自分の想いも一緒に吸い込ませてしまいたかった。
起こしにきたウタは、目を腫らした私の顔に驚き冷たい水で濡らしたタオルを用意してくれた。
「お嬢様、どうされましたか。怖い夢でも見ましたか」
優しく目元を抑えながら、背中をゆっくりさすってくれる。
優しいウタにまだ涙が出そうになるのをこらえ、小さくうなずいた。
「そうですか。そばにいなくて申し訳ございませんでした。今日は学園に行かれず、お屋敷で静かに過ごされてはいかがですか。奥様にはお伝えしておきます」
いつもの私ならそんな甘い言葉にうなずくことはないのだろうが、気持ちが弱っていたのだろう、ウタの優しい言葉にうなずき、入学早々ずる休みをしてしまった。