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【web版】オネエ魔術師と拾われ弟子◆汚城掃除婦は今日も憂鬱◆  作者: ナユタ
◆第六章◆

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★2★ 使い道を考える。


 アリアが全部燃やして良いと判断したとはいえ、師匠として視野が狭まっているが故の一般人の取りこぼしも考え、屋敷の中に自分の持つ座標の一部を足下から展開させる。その結果分かったのは、死にたがりの弟子は意外にも探知に長けているらしいということだった。


 自身の座標を通して伝達される驚くほど乱雑で汚い座標達。今からこれを取り込むのかと思うとげんなりしたが、素材だと割り切ることで行動を再開した。


 手始めに気配遮断をかけて使用人部屋へと向かい、以前水鏡魔法で姿を借りたメイドを探す。だが数室ある部屋のどこにもいなかったので、仕方なく下男の部屋に向かってみれば、呆れたことにお楽しみ中だった。


 まぁ下級メイドにしては見目は良い方だったし、下男の方も身持ちは悪そうだがそれに準ずる見た目だ。しかし下種共の情事を楽しむつもりはないため、部屋に防音を施して二人分の座標を奪う。


 最初は情事からくる気持ちの昂ぶりを思わせるほど緩やかに内側の座標を少し。そこから徐々にマーロウの馬鹿がやった失敗を参考に、痛覚を残したままご自慢の表皮を一枚ずつ剥ぎ取っていく。段々と快楽から痛みが表面化してくる頃には、相手と自身の変貌で恐怖と痛みに絶叫した。あれだけの非道に目を瞑り手を染めておきながら、何とも贅沢なものだ。


 絶命する前に全ての座標を抜き取れば、そこには皺だらけになったシーツだけが残る。昔戦場で見たマーロウのやり方では不十分だったせいで、人型の灰が残っていたなと思い出す。確か当時は〝遺灰物(クレメイン)の魔導師〟とかいう二つ名がついていた。


 その後は新たに手に入れた下男の姿を模して他のメイドの部屋に行き、色事に誘って室内に招き入れさせてからすぐに同じ手順で座標を剥ぎ取った。男の使用人の部屋へは最初のメイドの姿でこれと同じ行動をくり返す。


 途中からは聴覚を遮断して作業に及んだが、絶望しながら座標になっていく方が役に立つ人種に何を感じることもない。淡々と造詣が人間から離れていく様子を見ていても、アリアの時のようにそれを痛々しいと思う感情は微塵も湧いてこない。


 しかし最初に見目は良いが身持ちの悪い男女の皮を手に入れただけで、ここまで順調に座標が抜けるとは呆れを通り越して笑えてしまう。主人だけでなく使用人達まで不勤勉な色狂いばかりとは、雇用形態が随分とご立派なお屋敷だ。


 末端の下衆共に死への痛みと恐怖を与えられはしたが、どいつもこいつも痛みへの耐性が低すぎる。すぐに発狂するせいで大した時間も手間もかけられない。痛みに苛まれ続けたアリアの分を返してやろうにもこれでは物足りなさ過ぎた。


 だがまぁ所詮は末端。本命はまだ三人共残っている。せっかくだから次は趣向も変えよう。ひとまず婚約者がいながら、こうして屋敷内を歩き回るのに案内が必要なくなるほど詳しく教えてくれた、あの頭の軽い娘の部屋に向かうことにした。


 歩きながら磨きの足りない窓を撫で、ほつれたカーテンを鼻で笑い、毛羽立った絨毯を踏みしだき、趣味の悪い花瓶の花を毟って、小さく歌を口ずさむ。もう正しい音程を知る者のいない古い古い子守歌は、夜泣きするアリアによく聴かせた。唯一わたしの他にこの歌を歌える人間がいるとすれば、それは憐れで愚かなあの馬鹿弟子しかいないだろう。


 商家の屋敷としてはかなり広い部類ではあるものの森の居城ほどではないため、すぐに目的の部屋の前にに辿りついた。室内からは物音一つしない。ドアの隙間から明かりも漏れていないことから寝ているのだろうと察しがつく。だったらここはあの頭が毒草のお花畑な娘に合わせて、少し趣向を凝らしてみるとしよう。


 そう決めて鍵を内部から凍らせて破壊し、そのまま室内へと滑り込む。流石にこの部屋に入るのは初めてだが、思っていた通りゴテゴテとした装飾の多い品のない部屋だ。


 天蓋付きのベッドに近付いて覗き込めば、何の苦労もしたことがないと一目で分かる寝顔に、外で待たせているアリアの状態を重ねて燃やし尽くしたい衝動に駆られる。だが今から同じ地獄に突き落としてやるのだからと思い直し、いっそ壊れ物に触れるように優しく頬にかかる髪を指で払い「起きてくれ、エイミー」とその耳許に囁きかけた。


 すると小さくぴくりと反応した目蓋が持ち上げられ、とろりとした眠たげな瞳の馬鹿娘は「ん、もう、誰よぉ。街で遊んだ翌日はお昼まで起こすなって言ってるでしょお」と一度はこちらの手を振り払う。


 けれど再び「ああ、すまないエイミー。でもどうか起きてくれないか?」と手を取り囁やけば、今度は血の巡りが悪い頭にも届いたのだろう。飛び起きてこちらを確認する目には、戸惑いと喜色が混じっている。


「え、な、何? オリバー様? え、あの、これ夢?」


「ふふ、本物のオリバーだとも。君は夢でもわたしに会いたいと願ってくれていたのか?」


「あ、は、はい、それは勿論ですわ! でも、あの……どうしてこんな時間に、こんな場所に?」

 

「ようやく君をここから攫う勇気と準備が出来たからだよ。君付きのメイドに説明したら、この部屋まで来るために協力してくれたんだ。他の男の下になど嫁がないでくれ。どうかわたしを選んで、共に逃げてはくれないだろうか?」


 自分の唇から出る嘘の数々に喉が焼け爛れそうだ。この顔に釘付けになって笑う目の前の小娘にも、自分にも虫酸が走る。アリアならきっと『師匠ってば、まぁた何か汚したんでしょう? そういう表情の時はそんなのばっかりなんですから』と半眼になって、眉間に皺を寄せるだろう。


「ああ、嬉しいですわオリバー様……! わたしもずっとそうなれば良いのにと思っておりましたの。どこまでもご一緒しますわ!」


 媚びた声音も、仕草も、深く考えない浅はかさも、みだりに抱きついてくる品のなさも。どれも常なら反吐が出るところだが今だけは好都合だ。しなだれかかってくる傷一つないこの身体から抜き取れる座標など、たかが知れている上に取り込みたくもない。けれど使い道はいくらでもあるものだ。


「良かったエミリー。君がそう言ってくれて……本当に嬉しいよ」


 愚か者が望む言葉を耳に吹き込み、その脳に偽りの睡魔を潜り込ませて少しの間耐えれば、首に巻き付く腕から力が抜けてダラリと落ちた。それを合図に最初に座標を使って探知していた時に、アリアの痕跡を拾って探った地下へ馬鹿娘を抱えて転移する。


 そこは屋敷を乗っ取り、幼いアリアを監禁していたのであろう不衛生で劣悪な環境は、孤児達を助け出したあの場所よりさらに上をいっていた。壁際に先約の遺体がひっそりと横たわっているのを確認してから、その遺体が繋がれていたであろう壁の鎖に馬鹿娘の手足を拘束する。


 精々|無能な従姉妹<・・・・・・>の追体験をさせてやろう。


「さてと――残り二人のうち、どちらが当たりだろうな。まぁ別にどちらでも構わないが」


 ジークが自白剤の使用限界と、拷問を受けた人間の精神崩壊の被験者を欲しがっていた。無駄にはならない。どんなゴミにも使い道はあるものだ。

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