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【web版】オネエ魔術師と拾われ弟子◆汚城掃除婦は今日も憂鬱◆  作者: ナユタ
◆第五章◆

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▣幕間▣懐かしの来訪者。


 いつの間にか一人増えてる。そのことに気付いたのは何故かオレだけらしく、他の連中は自分の使う得物の手入れや地図の確認に集中していた。


 もしかして疲れ目か老眼でその辺にいるやつが二重に見えてるだけか? そう自身の正気と体調を訝しみながら目を細めると、本当にポッと何もないところから出てきたように思えたそいつは「や、久しぶりだねジーク。ほんの三十年くらい見ない内に老けたんじゃなイ?」とのたまいやがった。


「誰だあんた……今どこから現われやがった」


「えー、死地を一緒に駆けた旧友を忘れるとかってどうなノ?」


「オレの全盛期の旧友っつうなら、残念ながらあんたみたいな若い知り合いはいねぇなぁ」


「またまタ。耄碌するのは早んじゃないノ? よーく思い出してご覧ヨ」


 その口調に一瞬だけ懐かしい記憶の中にちらつく奴がいるものの、性別も年齢も何もかもが違う。あれと眼の前の小娘を紐付けるだなんてのは、よっぽど頭が弱ってる証拠だ。しかも妙なことに周囲の奴等はこの奇妙な来訪者に驚くでもなく、まるで見えていないかのように忙しくしている。


 うちのギルドにいる中でも上から数えた方がいい連中を連れてきたってのにこれってことは……認識阻害を使っていやがるな。それもかなり強力なやつだ。となるとかなりな手練れか。こんな時に何とも厄介な。殴り込みかける相手方に勘付かれたか。だがそれにしちゃあ殺気がない。あー……うん。思い浮かべた奴以外にあてもないってことは、これ以上考えても埒が明かんってことだ。


「オレ達は今からちょいと忙しくするんでな。いい子だから怪我をする前に家に帰りな、お嬢ちゃん」


「あんまり頭の固いこと言ってたら座標抜いちゃうヨ?」


 瞬き一つでナイフの届く範囲にまで踏み込んでいた小娘は、そう言うやニイッと唇を歪な笑みの形に持ち上げる。次いでキュッと眇められた目には、獲物をいたぶる猫科を彷彿とさせる光が宿った。ああ、駄目だ。この顔はもう間違いようがない。というか、ここで知らんふりをしたら本当に座標を抜かれる。


「はー…………そのふざけた脅し文句なら知ってるが、随分可愛らしくなっちまったもんだな、マーロウ」


「やっぱり気付いてたんじゃなイ。相変わらずの根性曲がりぶりだネ」


「そっちこそ久々の再会に言い過ぎだろ。若い女の見た目でなけりゃあ一発くれてるところだぞ?」


「キャッ、野蛮なんだかラ。あと性別で一瞬手加減を考える悪癖、ちっとも治ってないんダ? そのうちそれでとんでもない目に合うヨ」


「こちとらそれでこの年齢まで生きたんだ。とんでもない目とやらに合う時は、そう寿命も残ってねぇだろ。そんで? 何でお前さんがこんなとこにいるんだ。ルーカスの奴はどうした?」


「そーそー、そのことで伝言を預かってきたんだヨ。ここにオルフェウス君っているかナ?」 


 確かこいつはオレよりも三歳上だったはずだ。ということはすでに五十六歳のオッサン。だというのにマーロウの野郎は、わざとらしく媚びた声音で上目遣いをしてきた。中身のあれさも外見のあれさも昔と何ら変わらん。こんなのをまぁ若干ひねくれてはいるが、将来有望な若手に会わせていいはずがない。オッサンの毒牙にかかるってのも字面的に最悪だ。


 ――が、ここでしらばっくれると後々面倒なことになりそうなのは明白だろう。また何だってルーカスの奴はこんな面倒な時にこんな面倒な奴を伝言係に選んだんだ……と。


「決まってるでしょ、わたしならルーカスが暴走した時の援護が出来るからだヨ」


「おいコラ、勝手に人の思考を読むんじゃねぇっての」


「思考じゃなくて顔だよ表情。君は昔から動揺するとすぐに右目の下がひくつくかラ。それとオルフェウス君とわたしは面識があル。だから君は何も考えずに彼を呼んでくれたら良イ。詳しい説明はそれからダ」


 言いたいことだけ言うと、マーロウは周囲に視線を巡らせながらポツリと「この緊張感、懐かしいネ。あの当時とは違って平和呆けした能力値だけド」と呟くが、それはそうだ。あんだけ苦労して駆けずり回って戦乱が終わってなかった当時と今が一緒でたまるか、とは若作りしない正当なオッサンだから口に出さないが。


 仕方なく誰かにオルフェウスの坊主の居場所を聞こうと周囲を見回せば、ちょうど指揮系統の連絡に歩き回っていたレイラと目が合ったので手招くと、すぐに駆け寄って来てくれた。


「お呼びでしょうかジークさん……と、あの、そちらの方は? 点呼の際にはいらっしゃらなかったと思うのですが。増援の方でしょうか?」


「おう、今こいつのことは気にしないでくれ。それよりちょっと話があるから、オルフェウスの坊主を呼んで来てほしい。それとダントン殿もだ。お前さんにも聞いてほしいんでな、出来るだけ急いで戻ってきてくれ」


 簡潔にそれだけ伝えると、レイラは一瞬マーロウへと戸惑いの視線を向け、けれど何も言わずに頷いてすぐに踵を返した。その背中をジッと見ていたマーロウがニヤニヤしながら「ふふ、若いねェ」と言ったが、レイラの年齢を考えればそりゃ若かろう。


「あんまりそういうこと言ってるとな、今の時代はそれだけで嫌がられんだぞ」


「それはジークみたいなむさ苦しいオッサンに言われたらネ。その点わたしはこの通り可愛らしい皮を被ってるかラ」


「中身は五十六歳のオッサンだってのに、世の中ってのは不公平なもんだぜ」


「可愛いは正義らしいからネ~」


 こんな状況で軽口を叩き合うのも三十数年ぶりだが、ギルドマスターになってから久しくなかったせいだろう。良い感じに肩から力が抜けて。悔しいかな、妙に頭がすっきりしていく気がしやがる。

読者様方のおかげで、

この度ネット小説大賞受賞出来ました。

本当にありがとうございました。゜(゜´ω`゜)゜。

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