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【web版】オネエ魔術師と拾われ弟子◆汚城掃除婦は今日も憂鬱◆  作者: ナユタ
◆第四章◆

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*12* 濁の前の清と、日常の始まり。


「か、帰るわよって言われても……師匠だって見てたでしょう。明日も密猟者が来るかもしれないですし、いきなりお世話してくれた皆を放って帰れませんよ」


 ここで〝迎えに来てくれて嬉しいです!〟と、可愛げのある反応が取れない自分が恨めしい。でもまさか本当に迎えに来てくれるとは思ってなかったから、いきなり本物の師匠が目の前に現れたことに動揺してしまった。


 本当ならあと一週間くらい緩やか~に活動しつつ、ダンジョン内でお土産になりそうな物を採取して帰ろうと思ってたのになぁ。背中から身体に移動してきたクオーツが、私と師匠の顔を心配そうに交互に見つめてくる。


 何か言わなければと内心焦っていたら、いつの間にか目の前にやってきていた師匠が片頬に手を当ててこちらを見下ろしていた。


「ふぅん、そう。だったら取り敢えず額にいつものおまじないかけてあげるついでに、この辺り一帯に結界を張ってあげても良いわ。ただし、その前にあんたがここでどんな生活を送ってたか教えなさい」


「え……いや、たぶん衣食住に関して言えば、圧倒的に師匠よりまともな環境で生活してたから大丈夫です。ご飯も密猟者が持ってた干し肉とか非常食を失敬したり、ここの子達に新鮮な果物とか食べさせてもらってました」


「生意気に言ってくれるじゃない。食べ物が果物と干し肉と非常食だけっていうのはあまり感心しないけど。でもまぁ、確かに肌の艶は乳液や美容液を使ってなかった割には良いわね」


 苛立っている風ではある。それでも穏やかさを内包した紅い双眸が観察してくることに一瞬たじろぎかけたけど、その声に含まれた探究心を嗅ぎ付けた私は、腕の中でモゾモゾしているクオーツに視線を落とす。


 指摘されてみれば、いつも艶々のクオーツの鱗だけど、ここ二週間の輝き方は群を抜いている。単に故郷に戻ってきたからだけではないだろう。だとしたらこの質問の最適解は――。


「ああ、だったらあとはあれのおかげかな。ここ温泉があるんですよ。ね?」


 急に話題を振られたクオーツは、それでもすぐにこちらの意図を理解して頷いてくれた。しかしてっきり温泉水を採取するだけだと思っていた私の耳に飛び込んできたのは、無情すぎる言葉だった。


「そう。だったらちょうど良いわ。バスタブで新しい美容液の実験をしたら少しアレなことになっちゃったのよ。ついでだし帰る前に温泉に入りたいわね。あ、先に言っとくけど当分使えないだろうから、あんたも入っといた方が良いわよ?」


 絶対に少しどころじゃない大惨事になっている汚城の風呂場を思いを馳せつつ、項垂れながらその言葉に頷くしかなかった。


 ――で。


「はあぁ……気持ち良いわ。あんた達ってば城を飛び出してから今日まで、毎日こんな良い思いしてたわけ?」


「ええ、まぁ、そうですね~」


「弟子のくせに生意気よ。罰として帰ったら三日で城の中を全部片付けて。クオーツはこんな良いものがあるって黙ってた罰として、キッチリ一月分の家賃は払ってもらうわよ」


「ギャウウゥ!?」


「うわ……二週間不在だったのに一月分取るって強欲な大家だなぁ。それに現場を見ないと何とも言えないんですけど。師匠のことだから、絶対三日で片付けるのが無理なことだけははっきり分かりますね」


 湯煙の向こうから聞こえてくるご機嫌な美声に脱力してそう答えてみたものの、冷静になって考えてみれば何故私達はダンジョン内の秘湯に浸かっているのだろうか? 売り言葉に買い言葉って怖い。


 突然来襲した師匠と私のやり取りを心配して、奥から魔物達がそろそろと出てきてくれたけど、師匠が一睨みしたら引っ込んでしまった。その反応を薄情だとは思わない。むしろ正しい判断だと思う。


 というか……ここのボスだったクオーツが今私の傍にいるのってそのせいだもんね、とか何とか思っていたんだけど――。


「師匠、よくよく考えたら一気に二人で入浴しなくても良かったですよね? 岩の目隠しとか湯煙はあっても実質混浴じゃないですか」


「馬鹿ね。一気に入った方がさっさと帰れるし、混浴だとか言ったってこんな場所の温泉で、一緒に浸かるのがあんたと魔物だもの。自意識過剰すぎよ」


「うぅわ~……二週間ぶりの弟子に何てこと言うんですか。私これでも年頃の乙女なんですよ? 何より皆が師匠を怖がってこっちに集中しちゃうんですってば」


 そうぼやいて目の前を漂っているクオーツのお腹をつつく。本当に何でこんなに緊張感のないことになってるんだ。


 もしかして喧嘩だとか家出だとか気負ってたのは私だけだったのかと思っていたら、湯煙と岩陰の向こう側から「年頃の乙女っていうのは、着替えも持たずに二週間も家を空けたりしないと思うわ」という答えが返ってきた。一応家出したという認識はしてもらっているらしい。


「そこは、ほら、あれですよ。途中からさっきみたいな密猟者の中にいる女性の荷物から、食料をもらうついでに比較的新しそうなやつを頂いてました」


 おかげで下着の戦闘力は上がっているけど、防御力の方は下がっている。お色気系の魔法使いのお姉さんだったから薄々嫌な予感はしてたものの、洗濯したらすぐに乾くところとかは気に入っていた。だって別に誰に見せるわけでもないし。


 でも師匠からは「物盗りみたいな真似しないの」と呆れられてしまった。その後はしばらくお互いに無言で。魔物達も一匹、また一匹と上がっていっていく中で、クオーツだけが気持ち良さそうに漂っている。師匠のいる方角に動きはない。


 こうなったら先に話し出すか、温泉から上がった方が負けだと勝手に自分に言い聞かせていると、逆上せたのか若干目が回り始める。そんな頃になってようやく湯煙の向こう側から「あの日は、あんたの気持ちを無視して話を進めたりして悪かったわ」と謝罪があった。


 したりと思った時にはもう〝良いですよ。師匠は私のことが大好きですもんね〟と軽口を叩く前に意識が途切れて。次に目を覚ました時には、異臭漂う汚城の自室という悲劇。帰ってきた悲しみと懐かしさに二度寝を決め込んだ私は、悪くないったらないよね?

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[良い点] あらあ♡のぼせちゃったの〜(*´艸`*)たいへ〜ん♪ なのにそれをふっ飛ばす異臭(笑) [一言] 感想返信はお気になさらず。 むしろ、いつも変な感想でごめんなさいm(_ _;)m返信大変…
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