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【web版】オネエ魔術師と拾われ弟子◆汚城掃除婦は今日も憂鬱◆  作者: ナユタ
◆第四章◆

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*9* 一宿一飯が恩義の定義なら……。


 師匠とオルフェウス様の関係と自分の出自を教えられたことで、遅ればせな反抗期から城を飛び出し、相棒のレッドドラゴンなクオーツのお家にお邪魔してから今日で三日目。


 困ったことにこの狂暴な魔物が沢山住んでいることで有名で、人々から恐れられているゴルディン山脈のダンジョン。私にとってはかなり住み良い場所であることが判明してしまった。


 それというのも、そもそもここに住んでいる魔物達は結構頭の良い個体が多く、ダンジョン全体が動物の巣というよりは、一種人間と同じ集合住宅のようなものとして形成されているのだ。


 元々動物も魔物も臭いやゴミ何かで巣の場所を特定されることを嫌うので、下手をしたら師匠の部屋より綺麗。どこにもゴミがない上に、服を着る習慣はないから洗濯物が出ない。食事は各々が好きな場所で食べるので食事の後片付けは勝手にやってくれる。しっかり者しかいない。


 クオーツの配下(?)の大きな鳥っぽい魔物が羽毛で作ってくれたベッドに寝転び、蛇っぽい魔物がくれた木の実を食べ、岩っぽい魔物がゴツゴツした場所を平らにならして部屋を広げてくれ、コウモリっぽい魔物がどこからか水や蜜をとってきてくれる。


 これがかの有名な夢の三食昼寝と甘味付き生活。ボスであるクオーツの里帰りに家出娘がくっついて来ただけなのに、厚待遇すぎて申し訳ない感じだ。クオーツはクオーツで、久しぶりにそれなりの大きさになって配下の皆に威厳を見せている。師匠に盗み食いを叱られていたドラゴンとは思えないほどだ。


 さらにさらにこのダンジョン、まさかの温泉があった。いや、別に溶岩が湧くような場所だからあってもおかしくはないのだろうけど、温度が絶妙なのだ。クオーツに案内してもらって浸かっている時に、傷付いた魔物達が入ってくるのも見たから、たぶん元は傷を癒す場なんだろう。


 最初の家出生活をやっていけるのか疑惑は、ここに粉微塵に砕けた。どうしよう。住めば都どころか、ずっとだって住めちゃうよ……。


「掃除洗濯から解放されると、一日ってこんなに長くて、何にもしない時間が出来るんだねぇ。それにクオーツの仲間の皆も美味しいご飯持ってきてくれるし」


 現に今、美味しい蜜の入った何かの木の実を飲みながら、背中を預けていたクオーツを見上げてそう言うと、クオーツはいつもよりうんと大きな目を細めて「ギュキュキュ、グルル」と鳴いた。たぶん〝そうでしょう〟かな。自慢げだ。


「でもあんまり何でもやってもらってばっかりだと悪いからさ、何か私にも出来ることってない? とはいっても、掃除くらいしか取り柄なんてないけどさ」


 自分で言ってて虚しいものはあるけど、実際そうだから仕方がない。こういうのは素直に認めた方が傷が浅く済むものなのだ。クオーツはそんな私を見下ろし、次に私の隣に置かれたデッキブラシに視線を向けた。


 その瞳はいつもの小さい姿の時より思慮深そうだ。こうしていると百年以上生きてる生き物なんだと感じるんだけど……汚城だと度を越した食いしん坊で、羽毛枕で泳ぐ残念な子だしなぁ――と。


「ギャウ、グーゥ、ガァウ」


「もしかして、これで掃除以外の仕事をしろって言ってるの? それってもしかして魔法的な分野の?」


「ギュグ。グキュキューゥ」


「私の魔力だとそんなに大したこと出来ないよ? 師匠とも離れちゃったから、供給も出来ないし。それでも大丈夫? 私クオーツの邪魔にならない?」

 

 こちらの問いにまた目を細めたクオーツは、周囲に配下の皆の姿がないことを確認してから、ぶるりと震えて。いつもの猫くらいの大きさになって、私の頬に額を押し付けて「クルルルル」と甘えるみたいに鳴いた。


 そうしてデッキブラシを持つように促してきたので手にしたら、次にはもうさっきまでの大きさに戻って、私に背中に跨がるように合図をしてくる。訳も分からないままその指示に従って背中に乗ると、師匠が開けた大穴の方に向かって歩き出し、そこから飛んだ。


 師匠の護符がなかったら凍死の危険性もあるけど、ちょっと寒いな程度の感覚を味わうこと体感五分。辿り着いたのは、本来のこのダンジョンの入口付近だった。けれど私がこんなところに何の仕事があるのだろうと思ったのも束の間。


 すぐ近くから魔物の鳴き声と複数の人間の声が聞こえてきて。直後に爆発音がいくつも上がる。それを聞いたクオーツは一瞬だけ牙を向いて低く唸ると、首を捻って背中の私に視線で指示をくれた。彼の指示を受け取った私は、デッキブラシの柄を強く握りしめて頷き返す。


 クオーツが騒ぎのする方へと飛び出す前に天に向かって炎を噴き上げ、私はその間に魔力を構築し、脳内で籠を編み上げる。死角からクオーツが飛び出す。いきなり現れたレッドドラゴンに驚く人間の格好は――ギルドの人間……じゃない!


 強そうな見た目に不揃いな装備。ということは、ギルドに所属しないで好き勝手捕り尽くす憎き存在。密猟者だ。


 クオーツの出現に最初は怯えた彼等は、けれどすぐに「本命が来たぞ!」「ああ、まさか入口付近にまで来るなんてな。オレたちはついてる!」「ん? でも何か背中に乗せてるぜ?」なんて言い出すから、頭に来て。


 大きめに編んでユルッと捕まえてあげようとしていたことが馬鹿馬鹿しくなり、ぴっちり編んで簀巻きにすることを決定。デッキブラシを向けて「密猟者共、覚悟しろ!」と声高に叫んだ直後に爆笑が上がったこともあり、彼等は簀巻きのまま魔物の居城の前に放置してやった。


 その後に彼等がどうなるかは私の知るところではないし、ここの魔物達はもう顔見知りみたいなものだから、同じ人間というだけの彼等より私の中で断然優先順位が上なのだ。


「クオーツ、私、この仕事なら出来そうだよ!」


 さっきまでの弱気な心が吹き飛んで自信を取り戻し、天に向かってデッキブラシを掲げた私をその場で見ていた魔物達は、一瞬の放心状態から立ち直ると思い思いの喝采を送ってくれた。師匠、弟子は良い仕事しましたよ!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんてこった!ホワイトな職場を見つけてしまった!Σ(゜Д゜) (笑)
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