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【web版】オネエ魔術師と拾われ弟子◆汚城掃除婦は今日も憂鬱◆  作者: ナユタ
◆第三章◆ 

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★12★ 引っかかり。


 あの馬鹿(ジーク)がレイラに雷を落とされる前にギルドから脱出したあたし達は、現在例の店にて、当初の目的通りカウンターに積み上げた冬服の山を囲んでいた。予期せぬご馳走を前に狼狽える子犬のようなアリアを眺める店員の目は、楽しげに細められている。


「うん……あの、師匠。どう考えても私だけでこんなにある中から選べませんってば。それにお金だってそんなに――、」


「大丈夫よ、前回も選べてたじゃない。お金はジークにクオーツの今月の家賃分()を一枚売り付けておいたから心配ないわ。流石に試着室にはついていけないから、一次審査は彼女にでも意見を聞いて頂戴。最終選考はあたしがしてあげる」


「前回と数が違いすぎますよ。お洒落初心者にもっと優しくして下さい」


 逃げ道を塞がれて項垂れるアリアとは対照的に、クオーツは籠から身を乗り出して誇らしげに胸を張っている。


「だから今回は着回し出来そうなものを先にあたしが選んであげたんじゃない。ま、全部が全部合う着こなしに出来るかはあんたの選出にかかってるけど」


「ほらぁ、結局そういうことじゃないですか~!」


「お客さーん、そんな心配しないでも大丈夫だって。試着するだけならタダ。全部着てみちゃえ。迷ったらそのトカゲ君とあたしが選考するからさ」


「ですって。良かったわね? いってらっしゃい」


 店員の後押しを聞いてにっこり笑って手を振れば、捨てられた子犬のような目があたしを映す。それには応えず手を振り続けると、溜息混じりに「いってきます」と弱々しい声が返ってきた。


 そして両手で抱えても溢れる服を店員と自分の腕の中に収めたアリアが、奥の試着室へと消えたのを見届け、休憩用に設置されたベンチに腰をおろして、上着のポケットからさっきジークに渡された紙片を取り出して広げる。


 《カラント、情報なし》

 《ロイデン、情報なし》

 《アトラ、情報なし》

 《ジンダス、情報なし》

 《グレネータ、情報なし》

 

 びっしりと並んだ小さな文字を頭と最後の部分をあてに斜め読みにしていくが、有力なものは見当たらない。近隣の土地ではないということか。だとしたら今回もジークに支払った調査金が無駄になった。


 でも別にそれがどうしたというわけでもない。昔から情報が出るまで金を切らさなければ、あの男は必ず有力な情報を拾ってくる。


「とはいえ今回は外れか。もう少し範囲を広げて頼んでみた方、が……?」

 

 諦めて紙をたたもうとしたその時、不意に他の一文と違うものを見つけて視線を戻した。


 《クスト、複数の子供の行方不明事案有り》


 たったそれだけの短い一行の表記と地名。クストと言えばこのランダード王国の端、隣国バシリスとの距離の方が近い街だ。まだ当時十歳だったアリアが、大人の手を借りずに移動できる距離ではない。


 でもだからこそ気になった。果たしてこれは意味のある情報なのか、それとも単に捜索範囲の中で引っかかっただけなのか。ただ一つだけはっきりとしているのは、これが厄介事の匂いがする案件であることだけだ。


 その文字と意味をどれくらい眺めて考え込んでいたのか、奥からアリアが顔を出して「師匠一次選考が終了しました~!」と呼ばれたので、素早く紙片を片付けて。試着室に持ち込まれ、ほぼ半数以上が通過してしまった甘い一次選考の生き残りを選ばされる羽目になった。


 ――その夜。


 昼間の店での謎解きの続きを考えていたら、二階のアリア達の部屋から弾けるような笑い声が聞こえてきてたので時計に視線を向ければ、針はすでに深夜の二時を指していた。


 苦笑と保護者らしくお小言を胸に真っ暗な廊下に出て、ランプの光が隙間から漏れるドアをノックする。


 するとそれまで賑やかだった声がピタリと止んで、ドアの向こうから『〝だからふざけて遊んでたら、師匠が覗きに来ちゃうよって言ったのに~〟』と暢気な声がして、何かを掻き分けるような音も聞こえた。


 アリアの部屋には鍵がない。拾ったばかりの頃は悪夢を見て泣き叫ぶこともあったからだ。だから開けようと思えばすぐにも開けられるのだけど、そこはアリアも年頃の娘。


 ドアノブが回り、そっと開かれたものの――……常なら綺麗に整頓された味気ない設えの部屋が、珍しく散らかっていた。床に広がるのは蛇の如く広がるナキタの蔓とその屑だ。


「あんた達いい加減に籠編むの止めて寝なさい。何時だと思ってるの。睡眠時間が足りないと美容と健康に悪いわよ?」


 一応用意してきた保護者らしい言葉を使ってはみたものの、こちらを見上げるアリアとクオーツの視線は挑戦的で、その不満をたたえた視線のままに口を開いた。


「だってしょうがないじゃないですか。師匠のおかげで今日だけでかなり衣装持ちになったので、クローゼットに片付ける用の衣装籠が足りなくなったんですよ。他の籠は師匠の洗濯物や、放り出してた機材や本の一時避難場所になってますし」


「ギャウギャウ、グーウゥ」


「ふぅん、クオーツまであたしに説教する資格はないって言うわけね?」


「ギャウッ!」


「よくぞ言ってくれたわ相棒。第一私だってこれでもうら若い乙女なんですよ。深夜に部屋に入るのは非常識なんですからね。ということで、師匠のお説教はまた明日の朝に聞きますから、今夜のところはお引き取り下さーい」


 そう言うや結託した一人と一匹にグイグイと廊下の方に押し返され、ドアを閉ざされる直前に「今日師匠が選んで買ってくれた服、どれも全部宝物だから……大切にしまいたいんです」と。俯き加減でそんなことを言う弟子の額に、不意打ちめいたおやすみなさいの口付けを。

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― 新着の感想 ―
[一言] あの馬鹿、ルビが(笑) ああ、鱗は今も…… でもまあ家賃だから仕方ないのか ……仕方ないのか?(笑) 続き楽しみです!
[良い点] 師匠パート好き。尊い(*´艸`) あぁ、クオーツの鱗は売られ続けているのね……ある意味自家生産では?w 剥がすときに痛くないかな、とちょっと心配になるけど、お金になっていいなぁwww お…
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