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【web版】オネエ魔術師と拾われ弟子◆汚城掃除婦は今日も憂鬱◆  作者: ナユタ
◆第二章◆

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*14* 記念受験と洒落込みます②


「あ、ほらあそこにありますよ、レイラさんの名前!」


「あちらにアリアさんの名前もあるわ!」


 お昼休み終了の鐘が鳴り、レイラさんと一緒に張り出された午前中の筆記試験の結果のを見に行き、無事に午後の実技試験に進むことが出来ることにひとまず手を取り合って喜ぶ。私の順位は実務経験受験者達の第四位。何とか実技試験でちょっとだけ色をつけてもらえる五指に滑り込めたみたいだ。


 そんな私達のような人は他にもいて。けれど当然肩を落として掲示板の前から去っていく人達もいた。無神経に騒いでしまったことを恥じつつ、慌てて掲示板の前から移動した私の視界にこれまで二度顔を合わせておきながら、ろくに建設的な会話をしなかった人物が映り込んだ。


 ――というか、映り込まない方が無理。だってかなりな人だかりだ。中身があんなに無礼な人でも顔と才能があれば人気者になれるらしい。すると私の視線の行方に気が付いたレイラさんが「ああ」と何かを納得した風に頷く。


「エドモント・オルフェウス様ね。たぶん彼は今日の実技試験の試験官に選ばれたのではないかしら。才能の問題が大きいけれど、史上最年少の宮廷魔導師の肩書きは夢があるもの」


 そう言うレイラさんにとっても憧れの対象なのか、少し頬を染める横顔が可愛い。しかし私にしてみれば彼が実技試験の試験官だなんてゾッとする話だ。これまで二回しか顔合わせをしていないけど、私と彼の相性は最悪だと思う。絶対に凄まじい講評をしてくれるだろうことが今からすでに予想される。


 けれどまぁ、彼女の憧れと私と彼の禍根はまったく無関係なので、下手に心配させるようなことは言わないでおこう。


「成程。有名な広告塔を連れてきて、この試験に挑む人達を活気付けようって魂胆なんですね」


「分かりやすく言えばそうね。市井の魔法使いはなかなか魔術師に昇級しようとする人は少ないの。普通に魔力があってそれを行使出来るだけでも仕事には困らないから、変に紐付けされて自由を失うのは嫌みたい」


 レイラさんのその言葉に、考えてみれば確かにそうだなと思う。誰だって重たい鎖に繋がれるのは嫌だ。多くを望まないで身の丈にあった生活と自由が手許にあるならそこで満足して良いんじゃないかと。勿論個人の自由だし上昇志向があるのはいいことだけども……と。


 一瞬だけこちらを見た彼と視線がぶつかった。でもそれだけ。顔を顰めるようなことはなかった代わりに、その他の感情も何もない。けれどそれはこっちにしても同じこと。出来ればこっちの実技試験の試験官が彼でないことを祈りつつ、午後の試験開始の鐘が鳴ったので、レイラさんと帰りの約束を交わしてそこで別れた。


 ――だがしかし、嫌な予感というのは往々にして当たるもので……。


「これから行う実技試験は二人一組になってもらい、互いに魔術を構築してぶつけ合ってもらう。ただ分かっていると思うがこれは私闘ではない。過度な攻撃性を見せた者には相応の処置をとる。では先程掲示板に張り出された成績順に組んで」


 講堂に立ってそう告げるのは、当たったら嫌だな~と思っていたエドモント・オルフェウスその人だった。おまけに説明する間に何故かこちらを数度チラチラと見てきたことを鑑みるに、過度な攻撃性の持ち主だと思われているのだろうか。だとしたら心外な。侵入者の排除に攻撃性を見せない人間なんていないだろうに……。


 私を含めて三十人の受験者に対し試験官は六人。筆記の時よりも人数が増えているのは、実技がそれだけ危険ということだ。五組に分かれたあとの実技の披露は成績順なので、最初は下位の人達から。


 見取り稽古のつもりで受験者達の技を眺めて順番を待つ。流石に五年以上の実務経験者の集まりとあって激しい。迫力はたぶん普通の受験者よりあるけれど、誰もが最初の注意事項を守って技をぶつけ合う。


 防戦一方という人。攻戦一方の人。両方上手くこなすけど決め手に欠ける人。捕縛に長けた人。変わったところだと相手の操作に長けた人などもいた。皆師事している先生の特徴らしきものを術式のどこかに持っていて面白い。けれどその違いを楽しんでばかりもいられない。


 どの受験者にも言えるのは元から持つ魔力量の多さだ。見取り稽古といっても元の魔力がゼロで、師匠の魔力を蓄積しただけの私とは違う。


 勿論試験に挑むことになってからも毎日師匠の魔力はもらっている。師匠は言わないけれど、きっといつもより多めに注いでくれていた。彼等、彼女等の戦い方をしていては、私はあっという間に魔力切れを起こすだろう。


 加えて私の組む相手は三番目の成績の人だ。筋骨隆々という魔術師よりは戦士寄りの体型をした若い男性。左手を何らかの理由で欠損したらしく、義手だった。でもそれを補ってあまりある筋肉。連続して術式を練れる体力もあるに違いない。


 戦い方を考えないと制限時間の二十分よりも前に倒れてしまうだろう。考えている間にもどんどん順番は近付いてきて、いよいよ私の出番が回ってきてしまった。


「次、三番と四番、前へ」


 この試験の最高責任者はエドモント・オルフェウスらしく、鋭い声で呼ばれて広く場所を開けられた部屋の中心に進み出る。そこで両者相対して一礼。彼の「始め」の声がかかった直後、対戦相手の放った火球が私に襲いかかる。


 それを師匠直伝の雪の魔法陣から構築した氷柱で相殺。見学中の受験者達の間から歓声が上がる。大量の水蒸気に遮られた視界の向こうから新しく魔術を構築する気配を感じて、なるべく魔力消費の少ない魔方陣を構築していく。


 次いで飛んできた炎の鞭には氷の盾。構築の範囲は出来るだけ小さく密度を持たせて。今度はこちらから氷の飛礫。難なく炎の壁で溶かし尽くされた。攻防一対。相手側の方が属性的にも能力的にも有利。


 そんな結構絶望的な状態なのに――……ああ、変だな。こんなにも師匠を近くに感じて楽しいなんて! 唇の端が笑みの形に持ち上がる感覚をどこか他人事のように感じながら、私は自分の術式を発動させて構築していく。


 勝てるかな。勝てたら良いな。師匠の弟子として胸を張りたい。そんな思いが編み込まれた術式を「残り制限時間三分!」という声を意識の片隅に聞いて、全力いっぱいで相手に放った。

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