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【web版】オネエ魔術師と拾われ弟子◆汚城掃除婦は今日も憂鬱◆  作者: ナユタ
◆第二章◆

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*11* つまり、どういうことなのさ?


 上空でこちらを見下ろすワイバーンは前回の子とは違うようだけど、乗っている人物はほぼ間違いなくあの人だ。


 でも今回はワイバーンの口に口輪のようなものをはめてあるから、前回みたいなことにならないようにという配慮は窺えた。単に前回みたいに撃ち落とされたくないからかもしれないけど。


 というか、そもそも結界をぶち破ったことについては私もクオーツも師匠にこってり怒られたので、もう一度あれを試す気にはなれない。普段の美食に馴れていたから、じゃがバターだけの食卓は想像以上に辛かった。


「うーん……ねぇクオーツ。あの人ってさ、師匠がいない時間を狙って来たんだと思う?」


「ギャウ!」


「あ、やっぱりそうだよね。クオーツの炎に頼れない私ってそこまで雑魚だと思われてるんだ」


「ギャウー……」


「違う違う、クオーツのことを責めてるわけでも自分を卑下してるわけでもないよ。ただ単に現状を把握してるだけ。でもそうだとしたら、あの人また性懲りもなくこの森に押し入ろうとか思ってるのかな~」


 私の言葉にしょぼくれて首を落とすクオーツの顎を片手で持ち上げつつ、もう片方の手で太陽光を遮りながら陰を落とす人物を見上げる。新しいワイバーンの手綱を持ち、こちらを見下ろす彼の表情は逆光でよく分からない。が、たぶん良い印象を持てる表情はしていないだろう。


 こちらの言葉を理解しているクオーツとは違い、不思議と私も言葉が通じなくてもクオーツが何を言っているのか大体分かる。何でなのかはまったく原理が分からないけど、こういう時にはとても便利だ。師匠に言ったら『もう少し物事を深く考えて行きなさいよ?』と呆れられたけど。


 あの時の師匠の言葉に倣い、ひとまず考えようと地面にどっかり腰をおろして、上空の陰を無視したまま猫の大きさになっているクオーツを膝に抱き上げ、思案する。どのみちあの後師匠の手によって厳重に張り直された結界に、彼の魔術が通用するとは思えないし。


 考えうる一番の可能性としては恥をかかされたお礼参り。宮廷魔導師なら在野の魔術師に負けるのはかなり腹立たしいだろうから。でもそれだったら師匠に直接喧嘩を売りに行けばいいだけだから、わざわざ師匠の留守を狙うのは変だ。


 次いで考えられるのは鬼の留守中を狙っての森への侵入。ただしこれは可能性として低い。何てったって彼はこの森に張り巡らされた結界の驚異を身を持って知っているわけだから。


 最後にあり得そうなのは、師匠の横でドヤッた私への報復。格の違いを見せつけてきた相手は畏怖の対象になるだろうけど、その横にいた腰巾着には殺意しか抱かないはず――って、おっと? 


 最後に上げたこの可能性が一番濃厚そうだ。でもまぁ、そういうことならこっちの取る方針は決まった。


「よし。それじゃクオーツ、今日はもう帰ろっか!」


 強い敵に自らぶち当たりに行く気はさらさらない。勇敢と無謀は全然違う。そう思っての言葉だったのに、膝の上のクオーツは「ギャウッ!?」と驚いたように鳴いた。その反動で口から小さな炎が出る。ビックリ炎の火力で数千度。取り扱いに注意のいる子だ。


「いや、だってさ、この結界の中にいれば絶対に私達の身の安全は保証されてるわけだし。危ないことして師匠にまた怒られるのも嫌じゃない? ジャガイモは嫌いじゃないけど、またジャガイモばっかの食卓になるのはさ~」


 不満顔なクオーツのちょっとしっとりしている鼻面を指先でうりうりしつつ、何とか穏便にこの場をやり過ごそうと思っていたその時。上空で口輪を外されたらしいワイバーンが吼えた。直後。


 真っ赤なクオーツの身体が膝から浮き、次の瞬間凄まじい速さで上空付近まで飛び立ったかと思うと、猫の子大の身体のまま結界とワイバーンに乗った彼ギリギリの距離で炎を噴いた。


 極限まで絞られた炎の一閃。地上からは赤い毛糸のように見えたそれは、寸分違わずワイバーンの片翼を貫いた。血の一滴も降ってこないのは、高温過ぎる炎が傷口まで焼いたから。


 浮力を失って悲鳴を上げながら結界に激突するワイバーンと、背中に乗ったままの彼。結界に空いた穴が小さ過ぎてそこから破られることはないけど……あのままだと結界の外に墜ちてペシャンコだ!


 宮廷魔術師を墜落死させたら師匠が捕まるかもしれない。そう考えた時に、咄嗟に結界の外側を滑り落ちる彼等を追って駆け出した頭の中に、魔術が構築されていく感覚があった。それはさっきレイラさんに披露して見せようとした術式の完成形のようだった。


 今までは不完全だったもの。上手く組み立てられないかもしれない。失敗した時の想像に血の気が引く。それでも――!


「十八目、三十六目、飛んで六十四目に……二百五目……編み目を封じ、彼の者達を掬いて留めろ!!!」


 力の限りに叫んだ先で、突然地面から伸び上がった魔力が不格好な籠を編み上げていく。ただその魔力で編み上げた籠に引きずられるみたいに、ゴッソリと身体の中から魔力が抜き取られていく感覚があって。


 駆けていた膝がグニャリと力をなくして顔から地面に突っ込みそうになった。けど、幸いそうはならなかった。若干首吊り状態になったものの、服の襟を咥えてくれたクオーツが「グウゥ」と申し訳なさそうに唸るのが聞こえて。


 霞む視界の中で愚かなワイバーンと、もっと愚かな宮廷魔術師が急拵えの魔力の籠に受け止められるのを見たところで、意識が途切れ……たかったけど、その前に奴を一発殴らないと気が済まない。


 ついでに捕まえて師匠の前に引きずり出してジャガイモの食卓から逃れるべく、折れかけていた膝に力を込めた。


 ――……が。


「前回も思ったが、君は安い挑発に乗るうえにお人好しだな」


 私の編み上げた籠の中でワイバーンの傷を癒しながら、そんな風に皮肉を口にした彼は、呆気に取られた表情の私に向かって「君の師匠に、君の地力を確かめるよう頼まれた」と。耳を疑うようなことを言ったのだ。

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